民事保全法

東京地裁、「日本会議の研究」の出版差止めの仮処分に対する保全異議の申立てを認め、保全命令を取消

出版差し止めの仮処分というと満足的仮処分の一種になりますが、「日本会議の研究」という書籍について出された出版差し止めの仮処分について出版社からの保全異議申立てが認容され、保全命令が取り消されて出版可能となる事例が出ました。

「日本会議の研究」販売差し止めの仮処分取り消し:朝日新聞デジタル 2017年3月31日21時32分

憲法改正運動を進める団体「日本会議」の成り立ちなどを書いた書籍「日本会議の研究」の販売差し止めを命じた東京地裁の仮処分決定に対し、出版元の扶桑社が保全異議を申し立てた審理で、同地裁(中山孝雄裁判長)は31日、仮処分を取り消す決定を出した。同社は仮処分決定後、指摘された箇所を抹消した修正版を販売していた。修正前の本を再び販売するかは「検討中」という。

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異議審の決定は「出版物の差し止めは、真実ではないことなどが明白の場合に例外的に許される」と指摘。問題とされた部分について「真実ではないことが明白であると認めるのは困難」とした。

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仮処分の保全命令に対する不服申立ては、複雑でわかりにくいですが、保全命令を出されてしまった場合、それまでに生じていた事実について検討の対象とする不服申立ては、保全異議であり、それに対する不服申し立ては、保全抗告になることになります。

今回は保全異議に対する判断でして、この後、もとの出版差止めを申立てた保全債権者(本件では書籍中で言及されている人物)から保全抗告される模様です。本件については今しばらく係争が続く模様です。

東京高裁、厚木市内の建物を暴力団事務所として使用することを禁じる仮処分命令に反したとして、周辺住民による間接強制の申立てが一部却下されたことに対する執行抗告審で、1日100万円の支払命令

昨今の山口組の抗争状態のため暴力団事務所として使用しないことを命じる仮の地位を定める仮処分命令に反したとして、間接強制の申立てがなされたという事件がありまして、報道からは詳細が不明なところがあるのですが、興味深い点がありましたので、取り上げます。

 

山口組系に制裁金、東京高裁認める 「事務所禁止」巡り  :日本経済新聞 2016/8/18 1:06

暴力団山口組系の3次団体が、神奈川県厚木市内の建物を事務所として使うことを禁じた仮処分に従わなかったとして、周辺住民が3次団体側に、使用した場合に1日100万円を支払うよう求める間接強制を申し立て、東京高裁が認める決定をしていたことが分かった。住民側弁護団が17日、明らかにした。決定は10日付。

 弁護団によると、横浜地裁小田原支部が2003年、この建物を事務所として使用するのを禁止する仮処分決定を出した。だが今年2月、建物にトラックが突っ込む事件が発生。山口組と暴力団神戸山口組の抗争とみられ、不安を訴える住民側が5月、同支部に間接強制を申し立てた。

 同支部は6月、03年の仮処分は現在の「6代目山口組」とは異なる「5代目山口組」の傘下組織に対するものだったとして、申し立てを一部却下。住民側が不服として執行抗告していた。

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いわゆる仮の地位を定める仮処分で不作為債務の場合には、仮処分命令で直ちに金銭の支払いを命じられるわけではなく、改めて間接強制を申し立てる必要があり、授権決定を経て、それを債務名義として金銭執行をするということになります。

報道によりますと、住民が2003年に事務所として使用しない旨の仮処分決定を得たものの、ここにきて対立抗争によってトラックが突っ込む事件が発生したことから、使用している状態にあるとして間接強制の申し立てがされた模様です。

他の報道によりますと、組側は住んでいるだけとの言い分がある模様で、申尋でこれを言ったのかは定かではないのですが、まずはこの点がポイントとなりそうです。

また、二点目のポイントして、仮処分命令の債務者と現在の債務者が異なるという主張がされたことが報道からうかがわれます。

暴力団が法人組織などではないことから、個人が債務者とすると、代替わりによって異なるという理屈になりそうで、非常に問題と感じられます。

この点をどのように解釈したのかは定かではないのですが、東京高裁は、横浜地裁小田原支部の一部却下の決定に対する執行抗告を認めていますので、ここは債務者は同じであるという見解をとったものと思われます。

最高裁、建物区分所有法の59条競売を請求する権利を被保全権利として、処分禁止の仮処分を申し立てることはできないと判示

建物区分所有法の59条競売の特殊性には、このブログでもすでに何度か取り上げてきたところですが、競売をして区分所有者の所有権を強制的に奪ってしまうものですので、かなり極限的なものと理解されています。

そのような考え方を適用したものとして、59条競売のために処分禁止の仮処分はできないという判例が出ましたので取り上げます。

最高裁判所第二小法廷平成28年3月18日決定 平成27(許)15 仮処分決定取消及び仮処分命令申立て却下決定に対する保全抗告棄却決定に対する許可抗告事件

最高裁は端的に民事保全法に上がっている請求権ではないとしています。

民事保全法53条は同条1項に規定する登記請求権を保全するための処分禁止の仮処分の執行方法について,同法55条は建物の収去及びその敷地の明渡しの請求権を保全するためのその建物の処分禁止の仮処分の執行方法についてそれぞれ規定しているところ,建物の区分所有等に関する法律59条1項の規定に基づき区分所有権及び敷地利用権の競売を請求する権利は,民事保全法53条又は55条に規定する上記の各請求権であるとはいえない。

条文は下記のように被保全権利も明確に記載しており、競売をすることができるという59条競売は確かに異なるとえましょう。

民事保全法

(不動産の登記請求権を保全するための処分禁止の仮処分の執行)

第五十三条  不動産に関する権利についての登記(仮登記を除く。)を請求する権利(以下「登記請求権」という。)を保全するための処分禁止の仮処分の執行は、処分禁止の登記をする方法により行う。

 不動産に関する所有権以外の権利の保存、設定又は変更についての登記請求権を保全するための処分禁止の仮処分の執行は、前項の処分禁止の登記とともに、仮処分による仮登記(以下「保全仮登記」という。)をする方法により行う。

 第四十七条第二項及び第三項並びに民事執行法第四十八条第二項 、第五十三条及び第五十四条の規定は、前二項の処分禁止の仮処分の執行について準用する。

(建物収去土地明渡請求権を保全するための建物の処分禁止の仮処分の執行)

第五十五条  建物の収去及びその敷地の明渡しの請求権を保全するため、その建物の処分禁止の仮処分命令が発せられたときは、その仮処分の執行は、処分禁止の登記をする方法により行う。

 第四十七条第二項及び第三項並びに民事執行法第四十八条第二項 、第五十三条及び第五十四条の規定は、前項の処分禁止の仮処分の執行について準用する。

 

また、59条競売の特殊性について以下のようにも言及して念を押しています。

上記の競売を請求する権利は,特定の区分所有者が,区分所有者の共同の利益に反する行為をし,又はその行為をするおそれがあることを原因として,区分所有者の共同生活の維持を図るため,他の区分所有者等において,当該行為に係る区分所有者の区分所有権等を競売により強制的に処分させ,もって当該区分所有者を区分所有関係から排除しようとする趣旨のもの – 2 – である。このことからしても,当該区分所有者が任意にその区分所有権等を処分することは,上記趣旨に反するものとはいえず,これを禁止することは相当でない。

59条競売をする権利を被保全権利として仮処分ができるようになってしまうと、最終手段とした立法の趣旨が損なわれてしまいますので確かにその通りだと思われます。

しかし、一方で分譲マンションにおける紛争解決には何ら資するところはないわけで非常に悩ましい状況を固定化させるだけなのかもしれません。