労働基準法

愛知労働局、36協定を超える違法な時間外労働で複数事業所で80時間を超えていたとして、大宝運輸に是正指導を行い、新しい公表基準に従って社名を公表

長時間労働が社会問題化する中で、違法な長時間労働については行政指導段階でも、企業名を公表するという運用がなされてきましたが、公表基準がかなり狭く設定されていたためその実例は1件にとどまっていました。

そのような中、電通の自殺を受けて、厚生労働省の長時間労働削減推進本部が過労死等ゼロ緊急対策を取りまとめて、行政指導である是正勧告段階での企業名の公表を拡大する運用が開始されました。

この運用開始後、新基準による公表の初の事例が出ましたので取り上げます。

違法な長時間労働を複数の事業場で行っていた企業に対し愛知労働局長が是正指導をしました | 愛知労働局

 

最長で月197時間残業…企業名公表の運送会社、愛知労働局 – 産経WEST 2017.9.4 21:12

 厚生労働省愛知労働局は4日、最長で1カ月当たり約197時間の違法な長時間労働を複数の事業所でさせ、2月の是正指導後も労働状況が改善しなかったとして、名古屋市の運送会社「大宝運輸」の社名を公表した。

 同労働局によると、昨年12月~今年2月の立ち入り調査で、2事業所の計54人が80時間を超える残業をし、うち50人で100時間超を確認。最長のケースで約197時間に上った。7月の立ち入り調査でも最長約134時間の従業員がおり、30人が80時間超で、うち24人が100時間を超えていたことから再度、是正指導した。

(略)

 

公表拡大をしてもまだ2件目かという見方もあろうところと思われます。しかし、この公表は、あくまで行政上の情報提供という整理になり、法的根拠があるものではなく、しかも公表がされると上場企業であると株価が急落するなど大変な影響があることから、明確な公表基準を設けて相当、深刻な事案に限定することは行政法の観点から行くと、やはり必要であろうと感じられるところです。

公表による業績等への甚大な影響を恐れている企業は多い印象で、一罰百戒の効果はあるように感じられます。したがって、公表例が少ないというだけで、実効性がないのではないかと判断するのは早計ではないかと思われます。

 

 

 

新宿労働基準監督署、新国立競技場の建設現場で管理業務に従事していた労働者が自殺して遺族が過重労働によるものとして労災申請をしたことに関連して建設現場を調査

過重労働対策が社会的課題になっていますが、新国立競技場の建設現場でも労災申請がされる労働者の自殺が起きており、これに対して労基署が調査を行っていることが明らかになりました。

新国立工事現場に立ち入り調査、新宿労基署、作業員自殺受け  :日本経済新聞 2017/7/21 14:20

新国立競技場の工事現場で管理業務に従事していた入社1年目の建設会社の男性社員(当時23)が3月に自殺し、遺族が労災申請したことを受け、新宿労働基準監督署(東京・新宿)は21日までに工事現場を任意で立ち入り調査した。

 男性は昨年4月に東京都内の建設会社に入社。同社は新国立競技場の建設を請け負う大成建設から地盤改良工事を受注し、男性は同12月に施工管理業務に就いた。会社の調査によると、男性の時間外労働は今年2月に約193時間に上った。男性は3月に失踪し、4月に長野県で遺体で見つかった。

 建設現場を管轄する新宿労基署が19日に調査を実施。現場監督者らから勤務状況などを聞き取ったとみられる。

3月に自殺があり、7月12日に遺族が労災申請をしたとのことで、それに対して一週間ほどで労基署の調査が入ったことになります。

報道ではそこまで触れられていませんが、過労自殺が疑われる労災申請の場合、関連する労基署の調査は、今日では二種類ありえまして、労災認定のための調査と過重労働が行われていないかの調査になります。

本件はおそらく前者だと思うのですが、改めて労働基準法違反について行政指導または送検のために調査に来る可能性もあるところです。

労災と労基署の監督行政の連動は、脳心臓疾患、精神疾患の労災申請の場合に発動されることから、労災の可能性のある事態の発生も重要な契機となることは認識が必要となっています。

藤沢労働基準監督署、三菱電機と労務管理担当の社員を労働基準法違反で送検

厚生労働省、過労死等ゼロ緊急対策を取りまとめ 是正指導段階での企業名公表の対象を拡大や労働時間の適正把握ガイドラインの制定などが盛り込まれる

電通の一件を契機として、長時間労働の問題がさらに大きくクローズアップされていますが、政府がこれをうけての緊急対策を、昨年12月26日に取りまとめて公表しました。

 

内容は多岐にわたりますが、報道では、現在も存在している長時間労働の是正指導段階における企業名公表制度について、対象を拡大することが盛り込まれており注目されています。

この企業名公表ですが、現行の下では、1回しか公表された実績がありません。

下記エントリーをご覧ください。

千葉労働局、違法な時間外労働をさせていたとして是正指導を行った企業名を公表 | Japan Law Express

 

1回しかない理由は、要件が下記の通りとなっており、極めて限定的であるためです。

厚生労働省公表資料

都道府県労働局長による指導・公表の対象とする基準

指導・公表の対象は、次のⅠ及びⅡのいずれにも当てはまる事案。

Ⅰ 「社会的に影響力の大きい企業」であること。 ⇒ 具体的には、「複数の都道府県に事業場を有している企業」であって「中小企業に該当しないもの(※)」であること。 ※ 中小企業基本法に規定する「中小企業者」に該当しない企業。

Ⅱ 「違法な長時間労働」が「相当数の労働者」に認められ、このような実態が「一定期間内に複数の事業場で繰り返されている」こと。

1 「違法な長時間労働」について ⇒ 具体的には、①労働時間、休日、割増賃金に係る労働基準法違反が認められ、かつ、➁1か月当たりの時間外・休日労働時間が100時間を超えていること。

2 「相当数の労働者」について ⇒ 具体的には、1箇所の事業場において、10人以上の労働者又は当該事業場の4分の1以上の労働者において、「違法な長時間労働」が認められること。

3 「一定期間内に複数の事業場で繰り返されている」 について ⇒ 具体的には、概ね1年程度の期間に3箇所以上の事業場で「違法な長時間労働」が認められること。

これを拡大する方向になり、平成29年から実施とされていますが、その改正点は以下の通りとされています。

「過労死等ゼロ」緊急対策(PDF:236KB)

是正指導段階での企業名公表制度の強化

○ 現行の要件を以下のとおり拡大。

① 月100時間超を月80時間超に拡大

② 過労死等・過労自殺等で労災支給決定した場合も対象 → これらが2事業場に認められた場合に、前ページの企業本社の指導を実施し、是正されない場合に公表

○ 月100時間超と過労死・過労自殺が2事業場に認められた場合などにも企業名を公表

上記は要するに、

  • 現行のⅡ2の100時間を80時間に引き下げ
  • 労災支給決定の実績が出た場合という新たな観点を入れ、このカテゴリの場合には、2事業所で発生+本社の指導に至った場合に公表の対象とすること
  • 労災支給決定で100時間超の場合には、2事業所で公表の対象とすること

ということになります。

時間のハードルの引き下げと、3事業所から労災発生の場合2事業所で公表になる可能性があるという点で拡大となるわけです。

しかし、これでどれほど拡大するかはよくわかりませんし、そもそもこの公表の実例があまり出ないのは、おそらくⅠの要件で、中小企業を除いている点にもあると思われますので、この公表拡大をどれほど重大にとらえるかについては異論もありそうに思われます。

 

それよりも、実務的に重大なのは、

  • 労働時間の適正把握のガイドラインが策定されること
  • 事業場単位の指導にとどまらず、本社の指導にも踏み込むこと

だと思われます。

特に労働時間の適正把握は、現在でも通達がありこれに基づいて指導が行われていますが、上記取りまとめの内容から行くとこの通達から内容はさらに発展する模様で、大変な影響が想定されます。

労働時間に関する監督権行使は、さらに強化の方向性が明らかになったわけですが、実務対応も厳しいものになると予想されるところです。

三田労働基準監督署、エイベックス・グループ・ホールディングスに是正勧告

中央労働基準監督署、朝日新聞東京本社に36協定の上限超えで是正勧告

横浜北労働基準監督署、ヤマト運輸の神奈川平川町支店で時間外労働の割増賃金の未払いがあるとして是正勧告をしていたことが判明

ドン・キホーテ、労働基準法違反の罪で東京簡裁から罰金50万円の略式命令 同時に送検されていた執行役員らは不起訴処分

長時間労働で労働基準法違反があったとして「かとく」によって送検された案件のうち、ドン・キホーテの件が法人への略式命令で罰金50万円という決着となったことが明らかになりました。

ドン・キホーテ、違法な長時間残業で罰金命令 東京簡裁:朝日新聞デジタル 2016年11月4日11時30分

従業員に違法な長時間残業をさせたとして、ディスカウント店を運営する「ドン・キホーテ」(東京都目黒区)が労働基準法違反(長時間労働)の罪で東京簡裁から罰金50万円の略式命令を受けた。10月26日付。同社は今後、納付するという。

 同社をめぐっては、都内の「ドン・キホーテ町屋店」など5店舗で、従業員数人に労使で定めた残業の限度(3カ月120時間)を超える最長415時間の残業をさせたとして、東京労働局が今年1月に同社と執行役員ら8人を書類送検していた。

(略)

東京労働局の過重労働撲滅特別対策班(かとく)の第2号の送検案件であるドン・キホーテの件は、今年の1月に送検されていましたが、東京地検による捜査の結果、終局処分として法人のみの略式命令となって、東京簡裁から罰金50万円となりました。

支店長や店舗責任者など5名も送検されていましたが、それらの個人は不起訴処分となった模様です。

現時点においては、「かとく」による送検では、法人のみの罰金での決着が続くことになっています。

 

 

 

政府、労働基準監督官を増員へ 電通社員の自殺の労災認定等を受けて労働基準監督行政を強化へ

電通社員の自殺が労災認定されたことなどを受け、労働基準監督行政の強化のため、政府は労働基準監督署の監督官を増員する方向になったと報道されました。

労働基準監督官、増員へ…電通の過労自殺受け : 政治 : 読売新聞(YOMIURI ONLINE) 2016年11月05日 15時00分

政府は、長時間労働の是正を目指し、労働基準監督署の専門職員である労働基準監督官を増員する方針を固めた。

 電通の新入社員の過労自殺問題を受け、従業員に長時間労働をさせている企業の監督や取り締まりを強化する必要があると判断したためだ。残業時間を減らすための制度整備と並行して、現場の体制を拡充することで、働き方改革の実効性を高める狙いがある。

 労働基準監督官は現在、全国321の労基署に3241人が配置されている。労働者1万人当たりの監督官の数は0・53人で、ドイツ(1・89人)、英国(0・93人)など欧州の先進国と比べて見劣りする。取り締まりを強化しようにも、「マンパワーが足りずに対応が追いついていない」(政府関係者)というのが現状だ。

(略)

もっとも、労働基準監督行政の強化をするにしても、労働基準監督官が依拠する労働基準法の理解は、議論のある論点についても特定の立場をとっていることがあることから、対応に困難を生じることがあります。

労働基準法は特に改正で追加された部分については労使のせめぎあいの中でできるため、統一的な解釈が困難であることがあります。監督行政を強化するといってもやるべきことがすんなり判明する論点ばかりではないことには注意がいると思われます。 

 

大阪労働局過重労働撲滅特別対策班、労働基準法違反で株式会社コノミヤ、同社執行役員、専務取締役を送検