Month: 7月 2015

最高裁、労災保険法の療養補償給付を受ける労働者に対して打切補償を行った場合には、労働基準法の解雇制限の除外事由に該当して解雇することができると判示

東京地裁,労災中とされる専修大職員の解雇を巡る訴訟で,労働基準法所定の打切補償は使用者による療養補償を受けている場合に限られ,労災保険の受給者は含まれないと判示していると報道される | Japan Law Expressの続報です。

いわゆる専修大学事件に関する最高裁判決が出ましたので、少し経ってしまいましたが取り上げます。

最高裁判所第二小法廷平成27年6月8日判決 平成25(受)2430 地位確認等請求反訴事件

この事件では労災で療養中の職員を、学校法人専修大学が打切補償を行って解雇としたところ、争われたという事件です。

労働基準法より、労災の療養期間中は解雇ができません(解雇制限)が、打切補償を行った場合には例外的に解雇ができるとされています(解雇制限の除外事由)。

第一九条(解雇制限)

 使用者は、労働者が業務上負傷し、又は疾病にかかり療養のために休業する期間及びその後三十日間並びに産前産後の女性が第六十五条の規定によつて休業する期間及びその後三十日間は、解雇してはならない。ただし、使用者が、第八十一条の規定によつて打切補償を支払う場合又は天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となつた場合においては、この限りでない。

②前項但書後段の場合においては、その事由について行政官庁の認定を受けなければならない。

さて、上記条文は労災保険法ができる前からある条文ですが、労災の補償については、労働基準法に使用者の義務として条文があるのですが、後に労災保険法ができて社会保障の仕組みとしてみんなで支えあうものとなり、労災保険の適用が優先されるため労働基準法の労災の規定は実質的な意味を失っていました。

しかし、この19条が労災保険法を前提としていない規定であることをとらえて、労災保険法に基づく療養補償給付を受けている労働者に打切補償をした場合は、解雇制限の除外事由に該当しないという驚くべき判示を東京地裁、東京高裁ともおこなったために大変な衝撃が走り、最高裁判決にいたりました。

原判決の理解に立つと、解雇制限の除外事由に該当するのは、使用者自らが労基法の定める労災補償をしている場合に限られるため、労災保険の整備が進んだ今日においてはそのような事態はおよそありえないという点が大変衝撃的でした。さらに、実務的にも業務上災害で療養中でも打切補償をした場合には解雇できるとだけ書いてある就業規則が一般的であり、労基法の補償をしている場合に限るなどという発想はあまりされていなかったものと思われます。

しかし、本件では、中央労働基準監督署がそもそもそのような見解を採用して、本件解雇について労基法違反として是正勧告を出していたという事実がある模様です。それと同じくする裁判所の判断が続き、最高裁までいたって争われるにいたったものです。

最高裁は端的に、実質論を展開して、労基法上の補償を労災保険で国が行っているのであり、取り扱いを異にするべきものとは言い難いとして、労災保険法の療養補償を受けている労働者に打切補償を行った場合には、解雇制限の除外事由に該当すると判断しました。

使用者の義務とされている災害補償は,これに代わるものとしての労災保険法に基づく保険給付が行われている場合にはそれによって実質的に行われているものといえるので,使用者自らの負担により災害補償が行われている場合とこれに代わるものとしての同法に基づく保険給付が行われている場合とで,同項ただし書の適用の有無につき取扱いを異にすべきものとはいい難い。また,後者の場合には打切補償として相当額の支払がされても傷害又は疾病が治るまでの間は労災保険法に基づき必要な療養補償給付がされることなども勘案すれば,これらの場合につき同項ただし書の適用の有無につき異なる取扱いがされなければ労働者の利益につきその保護を欠くことになるものともいい難い。そうすると,労災保険法12条の8第1項1号の療養補償給付を受ける労働者は,解雇制限に関する労働基準法19条1項の適用に関しては,同項ただし書が打切補償の根拠規定として掲げる同法81条にいう同法75条の規定によって補償を受ける労働者に含まれるものとみるのが相当である。

このように解さないと解雇制限の除外事由の条文はおよそ適用の場面がなくなってしまいますし、そもそも労災保険法を創設した際にそのような扱いをする意図であったとは考え難いので至極妥当な判断であると思われます。

本件の判示はこのような妥当なところだと思われますが、それとは別に注目するべき点もあります。

一点目は、本件判決の結論は破棄差し戻しであり、解雇制限の除外事由に当たるからといって直ちに解雇有効ではなく、解雇権濫用法理に適用があるとしている点です。これはある意味当たり前ともいえるのですが、見落としがちな点といえます。

二点目は、この解雇権濫用法理の適用があることに関係するかもしれないのですが、本判例では、本件の結論を導くのに直接使われていない事実の引用があるのです。それは専修大学が、規程を有しており労災への法定外補償として、打切補償とは別にすでに相当な補償をしている点です。

差し戻し後は、解雇権濫用法理の判断に当たってこのような事実も考慮されるべきということなのかもしれません。

 

さて、本件紛争は、そもそもは労災かそうでないかの時点から争いであったのですが、中央労働基準監督署が原判決と同様の内容の立場に立って是正勧告を行ったことが本件紛争の複雑化に寄与しているきらいがあります。

労働基準監督署の権限行使は昨今、活発化してきていますが、その労働法規に関する見解はかなり形式的であり、本件のように最高裁によって否定される事態に至っています。本件とは別の論点においても同じような事態が起きるとすると、日本の企業社会に与える影響はかなり大きいといえるかもしれません。

2015.07.26 Japan Law Express twitter まとめ



2015.07.20 Japan Law Express twitter まとめ




2015.07.12 Japan Law Express twitter まとめ




KDDI、退社してから出社するまで11時間あける制度を全社員に対して実施

KDDIが、労働日と労働日の間の退社から次の出社までの時間について一定時間を必ずあける仕組みを導入したことが明らかになりました。

報道によると、対象は全社員とされ、11時間あけることという制度である模様で、就業規則を改定して、勤務間のインターバルを規定するなどの方法によって導入がされている模様です。

KDDI、退社後11時間は「出社NO」 全社員1.4万人対象  :日本経済新聞 2015/7/4 2:00

KDDIは全社員1万4千人を対象に、退社してから出社するまで11時間以上あけることを促す人事制度を始めた。11時間未満が月に11日以上となった社員には勤務状況の改善を指導し、残業が目立つ部署には是正が勧告される。残業時間総量の削減だけでなく、1日のうち一定時間、休むことを重視する。

(略)

労働基準法の労働時間規制は、総労働時間に着目している内容であり、しかも36協定を締結の上、割増賃金を支払えば、実質的に労働時間の上限は極めて高くなってしまうのが日本の法制度となっています。

しかし、ヨーロッパでは、このような立法技術とは異なった発想に立って、労働時間と労働時間の間に一定の時間を空けることを求めるというタイプの規制が存在します。

現在、労働基準法の改正案が国会に提出されていますが、ホワイトカラーエグゼンプションが内容に含まれていますが、この改正案の検討の過程において、労働時間が過大にならないようにするための仕組みも検討されており、その前提の調査研究としてヨーロッパの各種法制度も対象となっていました。

結果的に改正案には取り入られませんでしたが、今回のKDDIの取り組みは、諸外国の立法例を社内制度として実現する仕組みといえ、大変先進的な取り組みといえそうです。

2015.07.05 Japan Law Express twitter まとめ

欧米の機関投資家、トヨタの種類株式のような株式の発行について慎重な検討を求める声明を公表へ

トヨタ、個人株主の増加を目的として種類株式を発行へ | Japan Law Expressの関連情報です。

欧米の機関投資家が、トヨタを名指しこそしないものの、トヨタが発行する種類株式のような内容の株式について、慎重な検討を求める声明を企業や市場向けに出すことが明らかになりました。

トヨタ式新型株「慎重に」 欧米機関投資家が声明  :日本経済新聞 2015/7/5 2:01

【ニューヨーク=山下晃】欧米の大手年金基金やヘッジファンドなどの投資家らが共同で、トヨタ自動車が発行する新しいタイプの株式について「慎重に検討してほしい」と企業や市場関係者に要望する声明を公表する。元本保証で議決権のある株式を一部の株主が保有することは、株主間の不公平につながると主張。同タイプの株式発行が日本市場で広がることに懸念を示している。

(略)

声明の骨子は、要するにこの種類株式は、普通の株式と利益が相反する可能性があるという点です。

トヨタが発行する種類株式は、5年間は換金できないものの、実質的に元本保証がされているという社債のような内容である一方、議決権自体はあるため、議決権行使において普通株主と利益が相反する行動をとる可能性があるという懸念がされている模様です。

確かにこの株式は破格の内容になっているところがあり、そのため価格も高めになるという形でそれが現れつつありますが、利益相反の恐れとなると価格だけで解決できる問題ではないため指摘には一理あると思われます。

相反を防ぐためには、既存株主も種類株式を取得するなどするしかなくなりますが、株主権を維持するために出資を強いられる構造となると典型的な株主をないがしろにする会社になってしまいますので、この種類株式の設計の発展する先が気になるというのはもっともかもしれません。

2015.07.04 Japan Law Express twitter まとめ



東京労働局、ABCマートで36協定で定めた上限時間を超える時間外労働があったとして、同社、人事担当役員及び従業員を東京地検に送検

靴販売の大手であるABCマートが、労働基準法違反で送検されたことが明らかになりました。

同社のプレスリリース

ABCマートで違法残業、運営会社など書類送検 : 社会 : 読売新聞(YOMIURI ONLINE) 2015年07月02日 22時34分

靴販売チェーン「ABCマート」の2店舗で社員4人に違法な残業をさせたとして、東京労働局過重労働撲滅特別対策班は2日、運営会社「エービーシー・マート」(東京都渋谷区)と労務担当役員(51)ら3人を労働基準法違反容疑で東京地検に書類送検した。

 東京労働局によると、同社は昨年4~5月、「Grand Stage池袋店」(東京都豊島区)で男性社員2人を、同法が定める労働時間の上限(週40時間)を超えて働かせ、「ABC―MART原宿店」(渋谷区)でも男女社員2人を、労使協定で定めた残業時間(月79時間)を超えて残業させた疑い。

 

上記報道では触れられていませんが、日経の報道によると割増賃金の支払い自体は適切に行われていたということが明らかになっています。したがって、本件はよくある割増賃金の未払いという労基法違反ではなく、法定労働時間に違反したことという労基法違反になります。

36協定の上限を超えて労働をさせた場合の刑事法上の問題については最高裁判決がありまして、下記の従前の記事をご覧ください。

最高裁、36協定を超えて時間外労働をさせた場合の労基法32条違反の罪について判示 | Japan Law Express

単純に言いますと、36協定の上限を超えて労働させた場合、労働基準法36条違反になりますが、36協定班になった場合には罰則がついていません。しかし、この場合は法定労働時間を定めた労働基準法32条違反になるということです。これは非常に重要な知識であると思われます。

 

本件ではいくつか注目したいポイントがあります。

1 送検の主体

まず、送検の主体として、東京労働局となっていることです。

労働基準法違反での送検の場合、報道される際には担当の労働基準監督署の名前が出るのですが、上位組織である東京労働局の名前が出ているのは、本件を扱ったのが、東京労働局過重労働撲滅特別対策班という特別組織であるためと思われます。

逆に言いますと、このような組織があり、重点的に取り締まりをしている以上、割増賃金の未払いや過重労働による労災の発生がなくても送検となったということも言えるかと思われます。

上記プレスリリースによると、同社ではすでに労働時間管理を改善したとされており、現在は問題ないとしています。それでも送検となったのは、認識の相違があったのか、特に送検したい事情があったのか気になるところです。

また、この延長上の問題として、不起訴処分になるのかが気になるところです。

割増賃金の未払いというようなもんでいあると、支払えば不起訴処分ということは往々にしてありますが、本件の場合、被害回復のしようがないため、これ以上、情状を積み重ねることが難しいように思われます。

すると宥恕しかないのかもしれませんが、難しいものがあるといえそうです。

2 送検対象者

また、両罰規定があるため人も送検の対象となりますが、送検の対象者として、人事担当役員と従業員2名となっており、会社の代表者が含まれていないことです。

これは割増賃金の支払い自体は適切に行われていたということで労働時間管理の問題だけであったことに起因していると思われます。

 

有名企業の送検事例としてセンセーショナルに取り上げられて非常に衝撃的でしたが、その内容も詳しく見ると大変、重大なものを含んでおり、労働時間管理、労働基準法違反についての再認識が必要といえそうです。

2015.07.03 法律関係tweetまとめ