これまた以前の判例を取り上げます。今になって出た判例ではないのでご注意ください。
ビクターのメンテナンス等を行う子会社であるビクターサービスエンジニアリングと業務委託契約を締結している個人事業者が労働組合に加入して団体交渉を求めたところ,会社に労働者性を否定されて拒否されたので,労働委員会に救済命令を申し立てたところ,これが認められたために,取消訴訟が提起されたという事件で最高裁判決が出る事態になりました。
最高裁判所第三小法廷平成24年02月21日判決 平成22(行ヒ)489 不当労働行為再審査申立棄却命令取消請求事件
メンテナンスをする会社の業務委託で受託した個人事業主で労組法上の労働者性が争われたというと,この件より先に通称INAXメンテナンス事件がでており,本件はこれと似た事件です。しかし,似た判断がされただけではなく,本件の事実の特徴に依拠してのことだと思われますが,新しい法律構成が示されており,極めて重要な判例となっています。
以下では,INAXメンテナンス事件との違いを中心にこの事件を見ていきます。
この事件では,以下のような事実がありました。
- 本件で問題となっている個人事業主が行っているのは,出張修理を受託しているところ,同じ仕事を担っている正社員もいるほか,同じく業務委託契約を締結している法人事業者もいる
- 個人事業主には,会社が費用を負担して研修を行っている
- 会社が業務委託先の業務担当地域の調整を行っていること
- 修理代金が発生した場合には,会社指定の領収書を降り出して,代金は会社に入金する
- 部品は会社指定のものを使う
- 保険等は受託先が自ら入る
- 申告は受託者が自ら行う
- 契約期間は1年で,期間延長の申し出がない場合には,期間終了で終了する
- 会社は受託先にマニュアル等を配布している
- 会社が支払う委託料は,修理料金などに依拠して算出される
- 委託料から源泉徴収や社会保険料控除はされていない
- 受託者の休日は,受託者間で調整している
- 出張修理の受注可能件数は,会社が定めている。
- 受注可能件数の変更は,会社への申し出が必要
- 具体的な出張については,会社が出張訪問カードを作成して,受託者はこれを会社のサービスセンターに出向いて受領する
- 受託者の着用する制服は,会社のそれと同じである
- 出張修理が終わったのちに,受託者は会社のサービスセンターに赴く必要がある
- 受託者には会社が研修を行っている
- 他社の業務を行うことも可能で,実際に2件存在する。
- 受託者には法人も存在する
労組法上の労働者については,使用従属関係がメルクマールとなっており,その内容はあまりはっきりしないために,様々な事実について認定してまとめて評価して労働法上の労働者であると認めるという判断がされることがあるといった状況で,該当するのかどうかについて様々なケースが争われることが続いています。
本件では,上記のような事実認定が引用されているのですが,これを少々整理すると,具体的な主張の行程の決定について会社によって決定される要素が多いこと,カスタマーセンターに行く必要が多いことなどの点から,INAX事件よりも労働者性が強いということができます。
しかし,一方で,INAX事件にはない特徴として,報酬に時間との相関がなさそうである点,法人の受託者がいる点及び他社からの業務を受託している者もいる点が,独立事業者に近い要素として認められます。
そこで最高裁は,いくつかの事実を指摘して労働者性を原則肯定し「独立の事業者としての実態を備えていると認めるべき特段の事情がない限り,労働組合法上の労働者としての性質を肯定すべきものと解するのが相当」という判示を行いました。
ここで指摘した事実は,出張修理の日程の調整が会社の主導である点と,委託料は時間と相関がないにしても,実際の作業の日程を会社が調整している以上,労務の対価といえる点の大きく分けて二点です。
そのうえで,独立事業者性の特段の事情があるなら例外になるとしているわけで,INAX事件とは明らかに違う判断枠組みをとっている点が注目されます。
この点は,やはり事実の違いによって生じた法的構成の違いみるべきでしょう。すなわち,上記で指摘したINAX事件にない特徴のうち,判例が大した問題ではないとしてしまった委託料の点以外の独立事業者性につながる事実(法人もある点,他社の受託も自由)があるという点を取って法律構成をたがえたということになりましょう。
この特段の事情の言い回しは非常に微妙で,抗弁なのか理由付否認になるのかもよくわかりませんが,とにかくこれらに該当する事実の審理が十分ではないために差し戻しとなっています。
INAX事件とは事実の違いから異なったものではないかと上記では延べましたが,よくよく考えると,独立事業者性のまったくないケースなどまれであるように思えます。すると,基本的にはこの判例で示された法的構成を前提に検討することが必要になりましょう。
このほかにも公租公課の負担は重要な要素ではないなどと,要素の重みづけについてもいろいろと判示がされています。
これら様々な点から非常に重要な判決といえましょう。