中国法の話題です。
アメリカの投資会社とコンゴ民主共和国との間での国家事業であると思われる電力施設の建設をめぐり同国政府が支払いをしないとして,投資会社が同国政府を相手取った訴訟が,合意管轄でもしていたためか香港の裁判所に係属しています。
原審までは投資会社の勝訴になっていたのですが,日本で言うなら上告がされて,最高裁に相当する終審法院に係属したのですが,ここで主権免除が争点になってしまい,終審法院が全人代の常務委員会に法的見解を示すように求めるということを行い,それに対して見解が示されました。
それは本件が国家行為に当たるというもので,主権免除について中国は絶対免除主義をとっているために主権免除になるという結論になったとされています。
この件について,香港の司法は独立しているはずなのに中国法の適用の道が開かれたとして問題視する意見が出ています。
これによって中国国有企業に対する訴えに問題が出るのではないかということが懸念されているほか,香港で中国法が適用されることについても懸念が示されています。これらを問題視するというのも一理ありますが,別の観点の問題として,これだと香港を法廷地とするのは今後減るのではないかとも思いました。
さて,上記の事実に関する記載では,国家行為であるという事実認定がされたということと,絶対免除主義というところの二段階の法的構成を記載しましたが,これは日経の記事に依拠したものです。
しかし,これはいささかミスリードな書き方になっているように思われます。絶対免除主義を前提とするなら,当事者に国家が含まれていれば,即,国家行為ということで絶対免除になりますので,国家行為の認定はほぼ不要なのです。ですのでメインは香港にも中国法が適用されるという部分についてのみ判断すればよいはずです。
国家行為なのかどうかは,私法的行為なら国家が当事者でも国家行為からは除外する制限免除主義の下で問題となることですので,中国の立場から行くと必要な考慮ではないように思えるからです。
本件は他面にわかりかなり大きな意味を持つ事象であるように思われます。日本の含めて世界は制限免除主義がふつうであるので中国は逸脱しているとかそういうことのほかに,裁判所がお伺いを立てるというのはどういうことかとか,その不透明さなどいろいろな問題が生じてきているからです。
これはもしかすると,いろいろな余波を生むかもしれません。