詐害行為取消訴訟で、取消債権者である一審原告Xが、弁論準備手続期日に、請求原因で主張した被保全債権が和解によって消滅したことから別の債権に主張を変更したところ、一審被告Yが、変更後の債権については時効が成立したと主張したという、かなりすごい訴訟が最高裁まで争われまして、このたび最高裁判決がでました。
最高裁判所第三小法廷平成22年10月19日判決 平成21(受)708 詐害行為取消等請求事件
詐害行為取消権の行使には、時効があります。
民法
第426条(詐害行為取消権の期間の制限)
第四百二十四条の規定による取消権は、債権者が取消しの原因を知った時から二年間行使しないときは、時効によって消滅する。行為の時から二十年を経過したときも、同様とする。
Xは自分がYに対して有する債権のうちの一つを被保全債権として詐害行為取消訴訟を提起したわけですが、その途中で別の債権に変更したわけです。
その際、取り消しの原因があることを知ってから2年たっていると主張したというわけです。
これは、詐害行為取消訴訟において被保全債権の変更をすることは、訴訟物が別であり、被保全債権の変更は訴えの変更であると主張していることになります。
請求原因で被保全債権の存在を具体的に主張するので、それとは違う被保全債権になると大きく変わったという考え方が出てくるのかもしれませんが、最高裁はこの考えを否定して、詐害行為取消権は被保全債権ごとに発生するものではないと判示しました。
その理由付けも端的で、ある意味説得的です。
詐害行為取消権の制度は,債務者の一般財産を保全するため,取消債権者において,債務者受益者間の詐害行為を取り消した上,債務者の一般財産から逸出した財産を,総債権者のために,受益者又は転得者から取り戻すことができるとした制度であり,取り戻された財産又はこれに代わる価格賠償は,債務者の一般財産に回復されたものとして,総債権者において平等の割合で弁済を受け得るものとなるのであり,取消債権者の個々の債権の満足を直接予定しているものではない。
ようするに、責任財産に戻るだけなので、被保全債権の弁済に当てられるわけではなく、被保全債権との間に牽連性がないので被保全債権ごとに取消権が生じているわけではないというような理論構成です。原理的にはまさにそのとおりですが、目的物が債権の場合には取消債権者への引渡しが肯定されているため、相殺することで事実上の優先弁済を受けることが出来てしまうのは有名な事実です。よって建前論が過ぎる感じがしないでもないですが、それでも相殺する場合には詐害行為取消訴訟で主張した被保全債権との相殺をしないといけないものではないでしょうから、やはり被保全債権との関係は弱く、債権ごとに生じるものではないということは妥当なのだと思われます。
しかし、そもそも論的に考えると、被保全債権ごとに詐害行為取消権が発生したら、同じ詐害行為についての詐害行為取消訴訟何度もおきかねず、一大事になります。よってこれはごく当然のことを、端的に説得的な理論的根拠を示して判示した判決なのだと思われます。