長くわかりにくいタイトルで申し訳ないです。
報道で著名ですが、朝鮮総連の本部に対する強制執行が争われている事件があります。
この事件について、最高裁で執行法の問題について意義深い判断が示されました。
整理回収機構が朝鮮総連に対して600億円を超える債務名義を取得しており、これに基づいて朝鮮総連の本部に対する強制執行をしようとしたところ、朝鮮総連は権利能力なき社団であり登記の名義人になることができず、登記名義が合資会社「朝鮮中央会館管理会」になっており、そのままでは強制執行できないという事態になりました。
強制執行ができるのは、債務名義の名義人の財産に対して行うのが原則であるためです。
しかし、実質的には、朝鮮総連本部は朝鮮総連の物であるとして、整理回収機構が強制執行を可能にするために、二種類の訴訟を提起しました。
第一が、朝鮮総連に対する600億円超の債務名義で、合資会社「朝鮮中央会館管理会」に対する強制執行を可能にするために執行文付与の訴えを提起しました。
民事執行法
第27条
2 債務名義に表示された当事者以外の者を債権者又は債務者とする執行文は、その者に対し、又はその者のために強制執行をすることができることが裁判所書記官若しくは公証人に明白であるとき、又は債権者がそのことを証する文書を提出したときに限り、付与することができる。
この第一の訴えに関する事実関係やこれまでの経緯については以下のリンク先の記事をご覧ください。
JAPAN LAW EXPRESS: 整理回収機構提起の朝鮮総連本部強制競売のため執行文付与の訴えで第1回口頭弁論開かれる
JAPAN LAW EXPRESS: 東京地裁、朝鮮総連本部強制競売のための執行文付与を認めず
※控訴審判決については取り上げるのを失念しておりました。
第二が、合資会社「朝鮮中央会館管理会」から朝鮮総連の代表者に登記名義を移転するように求める訴えで、600億円超の債務名義の執行力が当然に及ぶ範囲に財産を戻してしまおうというものです。
これについての詳細は以下の記事をご覧ください。
JAPAN LAW EXPRESS: 東京地裁、朝鮮総連の土地建物について代表者への移転登記を命令
このうち、第一の訴訟についての上告審判決が本件です。
最高裁判所第三小法廷平成22年06月29日判決 平成21(受)1298 執行文付与請求事件
民事執行法23条2項によって執行文の付与が認められるのは、債務名義上に表示された債務者と異なる者であるが、実はその者は執行力の範囲に入っているという者に対する場合です。
執行力の範囲については以下のように、民事執行法27条1項に規定されています。
第23条(強制執行をすることができる者の範囲)
執行証書以外の債務名義による強制執行は、次に掲げる者に対し、又はその者のためにすることができる。
一 債務名義に表示された当事者
二 債務名義に表示された当事者が他人のために当事者となつた場合のその他人
三 前二号に掲げる者の債務名義成立後の承継人(前条第一号、第二号又は第六号に掲げる債務名義にあつては口頭弁論終結後の承継人、同条第三号の二に掲げる債務名義又は同条第七号に掲げる債務名義のうち損害賠償命令に係るものにあつては審理終結後の承継人)
2 執行証書による強制執行は、執行証書に表示された当事者又は執行証書作成後のその承継人に対し、若しくはこれらの者のためにすることができる。
3 第一項に規定する債務名義による強制執行は、同項各号に掲げる者のために請求の目的物を所持する者に対しても、することができる。
しかし、本件では、合資会社「朝鮮中央会館管理会」は上記の23条1項2号、3号のどちらにも当たらないため、そのままでは承継執行文は認められません。
朝鮮総連が権利能力なき社団であるために、朝鮮総連から合資会社「朝鮮中央会館管理会」に権利が承継されたわけではありませんし、朝鮮総連が訴訟担当であった場合でもないからです。
上記は権利能力なき社団ゆえに生じてくるわけですが、これだと容易に執行逃れをされてしまいます。そこで学説で、このような状況へ対処する解釈論が提唱されていました。
そのうちの一つが、本件で整理回収機構が主張した理由である、23条3項の所持者と所持人の解釈で対処できないかというものです。
上記の規定のとおり、債務名義の債務者の代わりに所持している者には強制執行が可能であり、朝鮮総連は権利能力なき社団であるために登記名義人になれないということから考えると、合資会社「朝鮮中央会館管理会」は朝鮮総連からみて所持人に似ているというものです。
ただし、23条3項の所持人はそもそもは、倉庫業者などに寄託している特定の物品についても委託者への債務名義で当然に強制執行できるという趣旨の規定であり、このような場合を念頭にしているわけではありません。そこで、23条3項の類推適用とされ、規定の趣旨から執行文の付与を求められるという構成になっています。
23条3項に該当するなら、当然に執行できるので、執行文付与を認めるきっかけに使うという点で類推適用であるわけです。
しかし、第一審原審とも、この論点については、一般論としては肯定したものの、認められる範囲が限定されるとして、権利能力なき社団の代表者が登記名義人である場合に限られるとして、本件の合資会社「朝鮮中央会館管理会」は認められる場合に該当しないとしました。
本件判例のまとめによると原審は以下のように判示しています。
原審は,権利能力のない社団を債務者とする金銭債権を表示した債務名義を有する債権者が,当該社団の構成員全員に総有的に帰属する不動産(以下「構成員の総有不動産」という。)に対して強制執行をしようとする場合において,上記不動産につき,当該社団の代表者がその登記名義人とされているときは,法23条3項の規定を拡張解釈して,上記債権者は,上記債務名義につき,上記代表者を債務者として構成員の総有不動産を執行対象財産とする執行文の付与を求めることができると解するのが相当であるが,本件不動産の登記名義人である被上告人は,そもそもAの構成員でなく,その代表者でないから,上