社会保障法

長野県建設業厚生年金基金に対し,長野地裁判決以後,複数の事業所が脱退の申し入れをしていることが明らかに

JAPAN LAW EXPRESS: 長野地裁,加入事業所が財政の悪化を懸念して厚生年金基金からの脱退を請求した事件で請求を認容の関連情報です。

この長野地裁判決以後,長野県建設業厚生年金基金に対して脱退の申し入れをした事業所が複数出ていることが明らかになりました。

基金側は,代議員会に諮ることもしない構えであり,一方で先日の長野地裁判決に対して控訴して,厚生労働省の参加を得るため,国に訴訟参加してもらうための訴訟告知をする模様です。

まだ長野地裁の判断はまだ確定していない以上,基金側がさらなる脱退の動きを認めることはできないというのは当然と思われますが,代議員会にもはからない扱いがはたして可能であるかはよくわからない点があります。報道によると,不備があるとしているようなので,脱退の申し入れをすることそのものに要件の欠缺があるのかもしれませんが,雪崩を打って脱退の動きが強まって来るのに対して,脊髄反射のような反応をすると,さらなる法的紛争を生むかもしれません。

厚生年金基金からの脱退を認めた長野地裁判決の補足情報

昨日取り上げましたJAPAN LAW EXPRESS: 長野地裁,加入事業所が財政の悪化を懸念して厚生年金基金からの脱退を請求した事件で請求を認容の続報です。

本日の報道で,長野地裁判決の判示内容がやや詳細に判明しましたので取り上げます。

長野地裁判決は,無限定に事業所が厚生年金基金から脱退する自由があることを認めたわけではなく,やむを得ない事由がある場合に限定している模様です。そのやむを得ない事由の例示として,事業の不振などを挙げており,基本的には社会保険であることから脱退の自由は制限されることを前提としていることは確かであるようです。

そのうえで,「基金との信頼関係の破壊が重要な要素となる」としており,信頼関係破壊がやむをえない事由の要素となるとの枠組みになっているようです。

まるで賃貸借の法理のようになっていますが,まったく先例のない分野についてかなり大胆な法理を組み立てたといえそうです。

この裁判例自体は,立法の不備についても指摘しており,厚生年金保険法の改正を促しているようなのですが,訴訟の問題だけで考えますと,このようにかなり独自の法理を打ち立てた内容になっていると,上級審で争われた場合に覆されるか,結論は維持されるにしても法的構成が修正されることがありうるところです。

一つの厚生年金基金がそこまで争うのかはわからないところですが,政策形成的な意義はともかくとして,この裁判例の安定性は微妙であるかもしれません。

裁判例情報

長野地裁平成24年8月24日判決

長野地裁,加入事業所が財政の悪化を懸念して厚生年金基金からの脱退を請求した事件で請求を認容

AIJの余波でもあるのですが,厚生年金に大きな衝撃をもたらす裁判例が出ました。

AIJの件等によって財政が悪化していた長野県建設業厚生年金基金に加入している事業所が,これを懸念して脱退を求めたところ,基金の意思決定機関である代議員会で否決されたため,脱退を求めて提訴したところ,長野地裁は脱退を認めました。

厚生年金基金脱退、認める判決…全国に影響か : 社会 : YOMIURI ONLINE(読売新聞)

長野県建設業厚生年金基金が脱退を認めなかったのは不当として、長野県の建設会社が脱退の確認を求めた訴訟の判決が24日、長野地裁であり、山本剛史裁判長は原告の請求を認めた。

(略)

会社側は、特別掛け金を支払うなどの手続きをすれば、代議員会の議決はなくても脱退できると主張。基金側は、加入企業の脱退が相次ぐと基金が存続できなくなるため、「脱退の自由」は制限されるとしていた。

(2012年8月24日13時36分  読売新聞)

財政の悪化している厚生年金基金は多いため,雪崩現象が発生する恐れがあり,影響が注目される裁判例といえます。

法的な整理ですが,厚生年金保険法では,基金から出て行ってくれという場合の脱退要件については規定があるのですが,加入している側からの脱退について規定を欠いています。そこで,事業所の加入があるたびに規約を変更しているという形をとっていることの逆として,規約変更が認められないと脱退させないという扱いがされています。

この根拠は,上記報道の引用中に記載がありますが,保険が成立しなくなってしまうので脱退の自由が制限されるのだというところにあります。

これは実務の通説的理解であると思われ,これによって身動きが取れなくなっている事業所は多数あると思われます。

非常に影響が大きくなりうる判決と言えると思われます。

また,このような法律の規定の仕組みは,健康保険でも同じになっており,この厚生年金基金のことは健康保険組合にもそのまま妥当しうる点があります。

この点からも非常に重い裁判例であり,控訴されるのかも含めて,今後が注目されます。

裁判例情報

長野地裁平成24年8月24日判決

名古屋高裁,国が10年遡って障害基礎年金の受給資格を認めた女性に対して会計法を根拠に5年分しか支給しなかったため,女性が不払いの分の支払いを求めた訴訟の控訴審で請求を認容

年金は自分で請求しないともらえませんが,受給資格があってももらっていなかった分は,会計法に定めのある公法上の債権の時効の問題として5年分を超えると消滅するという運用がされています。

この運用によって,10年さかのぼって受給資格の認定を受けながら,5年分しか障害基礎年金を支給されなかった女性が,不支給であった分の支給を求めた訴訟の控訴審判決で,名古屋高裁は請求棄却だった一審判決を取消して,請求を認めました。

名古屋高裁の理由は,上記のような年金は請求をしないと盛られない仕組みに着目して,認定されてから給付を受けられるので,その時点から時効が起算されるというものです。

まず,民法的な視点から考えても,この理由の当否も問題となりそうです。

さらに,実務の扱いと全く異なり大変衝撃的な内容ですので,国側の今後の対応が注目されます。

裁判例情報

名古屋高裁平成24年4月20日判決