法律情報

最高裁、強制わいせつ罪の「わいせつな行為」の意義について、性的意図を不要とする旨の判例変更へ

最高裁が強制わいせつ罪の被告事件で大法廷を開き、判例変更を行う方向になっています。

強制わいせつ罪の判例変更へ 「性的意図」なく成立  :日本経済新聞 2017/10/18 11:57

金を得る目的で児童ポルノを撮影し女児にわいせつな行為をしたとして、強制わいせつ罪などに問われた男(40)の上告審弁論が18日、最高裁大法廷(裁判長・寺田逸郎長官)で開かれ、結審した。年内にも言い渡される判決では、同罪の成立には「性的な意図」が必要とした過去の判例が変更される見通し。

 最高裁は1970年の判例で、強制わいせつ罪成立の要件として「性欲を満足させる性的な意図が必要」と判断したが、今回の事件の一、二審判決は判例に反して成立を認め、弁護側が判例違反を理由に上告した。

18日の弁論で、検察側は「性犯罪に厳正に対処するためには70年の判例が妥当性を欠くものとなっている」と主張。仮に被告に性的な意図がなくても強制わいせつ罪が成立するとして、上告棄却を求めた。

 弁護側は「性的な意図がなくても成立するなら、児童に対する医療行為や育児行為が処罰対象になるような不都合が生じる」と述べ、二審判決の破棄を求めた。

 一、二審判決によると、被告は別の男から金を借りる条件として児童ポルノの送信を要求され2015年、女児の下半身を触るなどした。被告自身の性的な意図は認められなかった。児童ポルノ禁止法違反罪にも問われ、有罪となっている。

(略)

 

刑法

(強制わいせつ)

第百七十六条 十三歳以上の男女に対し、暴行又は脅迫を用いてわいせつな行為をした者は、六月以上十年以下の懲役に処する。十三歳未満の男女に対し、わいせつな行為をした者も、同様とする。

 

強制わいせつの条文は上記のとおりなのですが、「わいせつな行為」の要件について、判例は性的な意図といういわば主観的要件を必要としています。

もっとも、本当の意味で主観的要件がいるというわけではなく、強制わいせつの保護法益である性的自由は、本人の性的自由であって、他人の性的自由ではないため、相手のいる類の性的行為になるはずだからということから、解釈として導かれていたものです。

このため、性的な目的ではなく単なる虐待、侮辱の類は入らないという結論になるわけです。

ここから考えますと、本件でも、従来の解釈のままでも、被告に性的な意図はなくても、その後には、性的な意図があるように感じられるので、それを受けて被告が行為している以上、入りそうに考えられないでもないです。

しかし、これはとりもなおさず、客観的に本人の性的自由を侵害する行為には、行為者たる被告に性的意図がない場合もあることが明らかになったということなのでしょう。

 

 

愛知労働局、36協定を超える違法な時間外労働で複数事業所で80時間を超えていたとして、大宝運輸に是正指導を行い、新しい公表基準に従って社名を公表

長時間労働が社会問題化する中で、違法な長時間労働については行政指導段階でも、企業名を公表するという運用がなされてきましたが、公表基準がかなり狭く設定されていたためその実例は1件にとどまっていました。

そのような中、電通の自殺を受けて、厚生労働省の長時間労働削減推進本部が過労死等ゼロ緊急対策を取りまとめて、行政指導である是正勧告段階での企業名の公表を拡大する運用が開始されました。

この運用開始後、新基準による公表の初の事例が出ましたので取り上げます。

違法な長時間労働を複数の事業場で行っていた企業に対し愛知労働局長が是正指導をしました | 愛知労働局

 

最長で月197時間残業…企業名公表の運送会社、愛知労働局 – 産経WEST 2017.9.4 21:12

 厚生労働省愛知労働局は4日、最長で1カ月当たり約197時間の違法な長時間労働を複数の事業所でさせ、2月の是正指導後も労働状況が改善しなかったとして、名古屋市の運送会社「大宝運輸」の社名を公表した。

 同労働局によると、昨年12月~今年2月の立ち入り調査で、2事業所の計54人が80時間を超える残業をし、うち50人で100時間超を確認。最長のケースで約197時間に上った。7月の立ち入り調査でも最長約134時間の従業員がおり、30人が80時間超で、うち24人が100時間を超えていたことから再度、是正指導した。

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公表拡大をしてもまだ2件目かという見方もあろうところと思われます。しかし、この公表は、あくまで行政上の情報提供という整理になり、法的根拠があるものではなく、しかも公表がされると上場企業であると株価が急落するなど大変な影響があることから、明確な公表基準を設けて相当、深刻な事案に限定することは行政法の観点から行くと、やはり必要であろうと感じられるところです。

公表による業績等への甚大な影響を恐れている企業は多い印象で、一罰百戒の効果はあるように感じられます。したがって、公表例が少ないというだけで、実効性がないのではないかと判断するのは早計ではないかと思われます。

 

 

 

最高裁、暴力団排除条項に基づいて条項新設前に開設された口座の解約を有効と判断して、道仁会会長らの請求を棄却した原判決を支持して上告を棄却

銀行の取引約款に暴力団排除条項が導入されて久しいですが、この条項を根拠に、暴排条項導入前に開設された暴力団幹部の口座を三井住友銀行、みずほ銀行が解約したところ、解約の無効を主張して両行が提訴されましたが、第一審福岡地裁、控訴審福岡高裁とも解約を有効としていました。

これに対して上告、上告受理申立がされましたが、最高裁は棄却する決定をしていたことが判明しまして、暴力団排除条項を遡及適用して口座を解約することを有効とする判断が確定しました。

 

銀行勝訴の判決確定 道仁会会長らの口座解約巡り  :日本経済新聞 2017/9/1 21:24

預金口座の解約を巡って訴えを起こしたのは、暴力団道仁会の小林哲治会長ら幹部2人。三井住友銀行、みずほ銀行に解約の無効を訴えたが、7月に「暴力団排除で既存口座を解約することには合理性がある」との判決が最高裁で確定した。

 確定判決によると、幹部2人は1999~2006年に口座を開設した。両行は10年2月、約款に「暴力団組員と判明した場合、口座を解約できる」との暴排条項を追加。15年4~5月に2人の口座を解約した。

 2人は暴排条項の導入前に遡った解約は無効だとして提訴。「口座は社会生活に欠かせず、不利益が大きい」と訴えた。

 一審・福岡地裁判決は口座が違法行為に使われる危険性を重視し「既存口座を解約できなければ暴排の目的を達成できない」と判断した。二審・福岡高裁も解約が有効と認めた。2人は上告したが、最高裁第3小法廷(林景一裁判長)は7月11日の決定で上告を退け、銀行の勝訴が確定した。

 

なお、原判決では、口座がいわゆる生活費口座ではないことにも言及があり、該当する場合には解約が制限される可能性も否定されてはいません。

しかし、第一審判決では、銀行口座がなくてもおよそ社会生活が営めないわけではない旨が指摘されたり、第一審判決、原判決とも暴力団を脱退すれば解約という事態は回避できるので自分で何とか吸うることができるという点に言及がされています。

ここからいきますと、生活費口座であっても必ずしも解約が制限されるわけではないという結論になるように思われます。

実際、生活費口座なら解約できないとなると、反社会的な目的と生活目的を混在すれば回避できてしまうことになりますので、やはりそのような解釈が妥当ということになりましょう。

 

 

判例情報

最高裁平成29年7月11日決定

福岡高裁平成28年10月4日判決

福岡地裁平成28年3月4日判決

新宿労働基準監督署、新国立競技場の建設現場で管理業務に従事していた労働者が自殺して遺族が過重労働によるものとして労災申請をしたことに関連して建設現場を調査

過重労働対策が社会的課題になっていますが、新国立競技場の建設現場でも労災申請がされる労働者の自殺が起きており、これに対して労基署が調査を行っていることが明らかになりました。

新国立工事現場に立ち入り調査、新宿労基署、作業員自殺受け  :日本経済新聞 2017/7/21 14:20

新国立競技場の工事現場で管理業務に従事していた入社1年目の建設会社の男性社員(当時23)が3月に自殺し、遺族が労災申請したことを受け、新宿労働基準監督署(東京・新宿)は21日までに工事現場を任意で立ち入り調査した。

 男性は昨年4月に東京都内の建設会社に入社。同社は新国立競技場の建設を請け負う大成建設から地盤改良工事を受注し、男性は同12月に施工管理業務に就いた。会社の調査によると、男性の時間外労働は今年2月に約193時間に上った。男性は3月に失踪し、4月に長野県で遺体で見つかった。

 建設現場を管轄する新宿労基署が19日に調査を実施。現場監督者らから勤務状況などを聞き取ったとみられる。

3月に自殺があり、7月12日に遺族が労災申請をしたとのことで、それに対して一週間ほどで労基署の調査が入ったことになります。

報道ではそこまで触れられていませんが、過労自殺が疑われる労災申請の場合、関連する労基署の調査は、今日では二種類ありえまして、労災認定のための調査と過重労働が行われていないかの調査になります。

本件はおそらく前者だと思うのですが、改めて労働基準法違反について行政指導または送検のために調査に来る可能性もあるところです。

労災と労基署の監督行政の連動は、脳心臓疾患、精神疾患の労災申請の場合に発動されることから、労災の可能性のある事態の発生も重要な契機となることは認識が必要となっています。

大阪地裁、高架下を利用してきた倉庫業者が橋の耐震工事を理由に受けた占有不許可処分の取消訴訟「中津高架橋訴訟」で請求を棄却

大阪大学、共同研究でゼネコン4社に便宜を図った見返りに賄賂を受け取ったほか大学の研究費を流用したとして、収賄、背任罪で公判中の教授を懲戒解雇

大分地裁、「ほっともっと」の元店長が残業代を請求した訴訟で、同社の店長は「名ばかり管理職」であるとして約1000万円の一部認容

名古屋地裁、山口組傘下の暴力団が飲食店からみかじめ料を脅し取った事件で、山口組の組長に使用者責任を認める

東京地裁、「日本会議の研究」の出版差止めの仮処分に対する保全異議の申立てを認め、保全命令を取消

出版差し止めの仮処分というと満足的仮処分の一種になりますが、「日本会議の研究」という書籍について出された出版差し止めの仮処分について出版社からの保全異議申立てが認容され、保全命令が取り消されて出版可能となる事例が出ました。

「日本会議の研究」販売差し止めの仮処分取り消し:朝日新聞デジタル 2017年3月31日21時32分

憲法改正運動を進める団体「日本会議」の成り立ちなどを書いた書籍「日本会議の研究」の販売差し止めを命じた東京地裁の仮処分決定に対し、出版元の扶桑社が保全異議を申し立てた審理で、同地裁(中山孝雄裁判長)は31日、仮処分を取り消す決定を出した。同社は仮処分決定後、指摘された箇所を抹消した修正版を販売していた。修正前の本を再び販売するかは「検討中」という。

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異議審の決定は「出版物の差し止めは、真実ではないことなどが明白の場合に例外的に許される」と指摘。問題とされた部分について「真実ではないことが明白であると認めるのは困難」とした。

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仮処分の保全命令に対する不服申立ては、複雑でわかりにくいですが、保全命令を出されてしまった場合、それまでに生じていた事実について検討の対象とする不服申立ては、保全異議であり、それに対する不服申し立ては、保全抗告になることになります。

今回は保全異議に対する判断でして、この後、もとの出版差止めを申立てた保全債権者(本件では書籍中で言及されている人物)から保全抗告される模様です。本件については今しばらく係争が続く模様です。

大阪簡裁、大阪労働局が違法な時間外労働等の労働基準法違反で送検し、大阪区検が略式起訴した和食「さと」のサトレストランシステムズを、略式手続は不相当として正式裁判へ