民事法事情

最高裁、相続開始後に認知されて相続人となった者が民法910条に基づいて価格の支払請求をする場合の遺産の価格算定の基準時は請求時であり、請求と同時に遅滞となると判示

民法は共有はなるべく早く解消されるべきであるという民法全体を貫いているテーゼを遺産分割の場面にも適用しており、その帰結として一度行った遺産分割の安定性に配慮した制度設計を採用しています。具体的には、遺産分割後に認知によって相続人が増えた場合には、遺産分割のやり直しではなく、価格賠償しかできないという仕組みになっているところに現れています。

 

(相続の開始後に認知された者の価額の支払請求権)

第九百十条  相続の開始後認知によって相続人となった者が遺産の分割を請求しようとする場合において、他の共同相続人が既にその分割その他の処分をしたときは、価額のみによる支払の請求権を有する。

 

さて、このような理論的背景があることを踏まえると、いざこの910条に基づいて価格賠償が請求された場合、遺産の評価はいつの時点にすればよいでしょうか。

遺産分割の一般論としては、分割の価格算定の基準時は、分割時又は審判時の時価とされています。

この一般論からいくと、価格賠償の支払い時になるのかもしれませんが、この点について最高裁が判例を出しましたので取り上げます。

最高裁判所第二小法廷平成28年2月26日 平成26(受)1312 価額償還請求上告,同附帯上告事件

この点について最高裁は以下のように判示しています。

相続の開始後認知によって相続人となった者が他の共同相続人に対して民法910条に基づき価額の支払を請求する場合における遺産の価額算定の基準時は,価額の支払を請求した時であると解するのが相当である。

なぜならば,民法910条の規定は,相続の開始後に認知された者が遺産の分割を請求しようとする場合において,他の共同相続人が既にその分割その他の処分をしていたときには,当該分割等の効力を維持しつつ認知された者に価額の支払請求を認めることによって,他の共同相続人と認知された者との利害の調整を図るものであるところ,認知された者が価額の支払を請求した時点までの遺産の価額の変動を他の共同相続人が支払うべき金額に反映させるとともに,その時点で直ちに当該金額を算定し得るものとすることが,当事者間の衡平の観点から相当であるといえるからである。

以上から、最高裁は、価格支払請求時を基準時としました。

最高裁は以前からこの910条については、価格賠償で済ませる場合を限定的に解してまさに条文に書いてある通りの場面だけとする立場をとっていますので、その意味では基準時についても分割類似のことをするということにはならず、独自の考え方をとるということにつながると思われます。

価格賠償の支払い時にしてしまいますと、この910条がそもそも分割後の話ですので、分割からかなりたっていることになります。すると、時間の経過によって時価がどちらに転ぶのかはわかりませんが、ひとまず分割時の割合を決める根拠とした時価評価とかなり離れてしまうことになります。

そこで、なるべく近づけつつなんとかバランスをとるととなると、請求時ということがぎりぎりになり、それが衡平ということと思われます。

また、いわゆる遅延利息の点も争点となっており、この点については、価格支払請求は期限のない債務であると指摘しています。

民法910条に基づく他の共同相続人の価額の支払債務は,期限の定めのない債務であって,履行の請求を受けた時に遅滞に陥ると解するのが相当である。

いつ来るのか自体わからないものですので、これはその通りですが、評価の時期と離れることも遅延利息によってバランスをとることもできるという点も興味深いと思われます。

分割後に認知で相続人が追加されるということがどれほど発生するかは微妙ですので、本判例の影響は限定的なのかもしれませんが、相続法を貫く考え方に関わる点もあることから理論的には大きな意義を有するものであるように思われます。

東京地裁、アマゾンジャパンに対して、アマゾンのウェブサイトに中傷の書き込みをした投稿者の氏名・住所等の個人情報の開示を命令

インターネット上に書き込まれた投稿によって名誉棄損などの被害を受けた場合、インターネットの匿名性ゆえに誰がやったのか自体を調べるところから対応をはじめないといけません。

このためにプロバイダ責任法があり、これによる実例の集積は相当あるのですが、実際のところ、非常に手間がかかる、割に合わない負担というのが現実となっています。

これは、まずは、サイトの運営者にIPアドレスの開示を求めて、その後、そのIPアドレスをもとにプロバイダに書き込みをした者の情報の開示を求めるという二段階の手間がいるためです。

このたび、このような現状からみると非常に特異な事例が発生したことが明らかになりました。

 

アマゾンに開示命令 中傷書評の投稿者情報巡り東京地裁  :日本経済新聞 2016/4/11 11:40

通販大手アマゾンジャパン(東京・目黒)のサイトに投稿された書評によって社会的評価が低下したとして、本の著者側が同社に投稿者情報の開示を求めた訴訟の判決があり、東京地裁が投稿者の氏名や住所、メールアドレスの開示を命じていたことが11日までに分かった。裁判所がプロバイダー(接続業者)以外に利用者情報の開示を命じるのは異例。

 判決は3月25日付で、同社が控訴しなかったため11日までに確定した。

(略)

裁判例全文に当たれていないので、報道から検討するしかないのですが、上記で書いたような現状と比較すると、サイト運営者であるアマゾンに、個人情報まで含めて開示を求めることができた、二度手間が一度で済んだという一点ということになります。

これは、アマゾンが通販業者であることから、サイト運営者でありながら個人情報まで有しているという事情によるものです。

また、もう一点、上記報道では出てこないものの重要な点があったことが明らかになっています。

それは、アマゾンジャパンが管理していることをアマゾンが認めたということで、アマゾンの米国法人に対する訴えでなくてよくなったという点です。

外国法人を訴えるのは、そもそも送達が大変ですし、判決が出てもその執行が非常に難しいため、実効性が極めて低くなるのですが、内国法人に対する訴訟で済むためこれは非常に便利になります。

一般的にインターネットで行われている事業は、ウェブサイトは日本語でも運営しているのは外国法人ということはままあるのですが、アマゾンは日本法人に情報があることを認めたため、今回の結論に至っているわけです。

すると、本件は画期的ではありますが、アマゾンの特殊事情によるところが非常に大きいわけで、プロバイダ責任法上の実務が画期的に変わるわけではないということになりそうです。

もっともこの件があった以上、アマゾンのウェブサイト上でのレビューの記述には慎重さが必要だと考える向きもあるのかもしれませんが、それは別論といえましょう。

裁判例情報

東京地裁平成28年3月25日判決

最高裁、漁業協同組合の理事会の議決が特別利害関係を有する理事が加わったものであっても、当該理事を除外しても議決に必要な多数が存するときは、その効力は否定されないと判示

特別利害関係取締役の議決権は行使できないとされていますが、行使してしまった場合に取締役会の議決が無効になるのかについては規定を欠いており、一般原則から考察することになるものと思われます。

しかし、会社以外の各種法人の立法では、役員の意思決定機関である理事会について、会社法と同じく特別利害関係理事の議決権を排除する規定を有するものの、個別事例においてはその特別利害関係理事を除いても理事会の議決が成立する多数が占められていた場合には、決議を有効とする判例があります。

中小企業等協同組合法についてこのことを判示したのが以下になります。

最判昭和54年2月23日民集第33巻1号125頁

このたび、上記昭和54年判決を引用して、漁業組合の理事会の議決について同旨を判示した判例が出ました。

最高裁判所第二小法廷平成28年1月22日判決 平成27(行ヒ)156 損害賠償請求事件

この事案は、端的には理事8人のうち6人が出席した理事会で全会一致で出席理事のうちの一人が代表を務める組合に利益になる議決がされ、理事にはその組合の代表の息子も含まれていたということで、いわば特別利害関係理事が2名いたというようなケースでした。

しかし、この二名を除外しても議決は有効に成立するとして効力を否定されないとしたものです。

特別利害関係人の議決権の除外は、各種法人の立法に共通ですが、議決権が行使されてしまった場合の議決の効果についても同じ理解になるでしょうか。

この判例では以下のように一般論を判示しています。

水産業協同組合法37条2項が,漁業協同組合の理事会の議決について特別の利害関係を有する理事が議決に加わることはできない旨を定めているのは,理事会の議決の公正を図り,漁業協同組合の利益を保護するためであると解されるから,漁業協同組合の理事会において,議決について特別の利害関係を有する理事が議決権を行使した場合であっても,その議決権の行使により議決の結果に変動が生ずることがないときは,そのことをもって,議決の効力が失われるものではないというべきである。

会社法では、東京高判平成8年2月8日などを見る限り、特別利害関係人の議決権行使の事実のほかに、議長も務めてしまうなどその他の事情も含めて総合考慮するのだろうと思われます。

このような判断は各種法人の場合にも妥当させた方がよいと思われるのですが、上記のように本件も含めて各種法人の場合の判示の仕方が数にしか言及していないため、議決権の数以外の事情も検討に入れるような判断の余地がなさそうに思われます。

会社、その他の各種法人の意思決定の問題は結構発生していることから、判例の蓄積から理事会運営のガバナンスにどのようにフィードバックしていくべきかは気になるところといえましょう。

最高裁、主たる債務者に対する求償権に時効中断事由があっても、共同保証人に対する求償権に時効中断は生じないと判示

連帯保証人の一人が主債務者に代わって、債権者に弁済して主債務者に対する求償権を取得し、その後主債務者が一部は弁済したもののそのままになってしまったことから、主債務者に求償金請求訴訟を提起して勝訴確定したところ、そこから10年の事項にかかりそうになったため、共同保証人に対する求償権行使をしたという事案で判例が出るに至りました。

なぜ法的論点のある事件になったかというと、共同保証人から消滅時効の抗弁が主張されたためです。

最高裁判所第一小法廷平成27年11月19日判決 平成25(受)2001 求償金等請求事件

本件は、共同保証人間の求償権行使という法的構成なのですが、主債務者に対する求償権の時効中断事由(本件では訴訟上の請求)は、共同保証人間の求償権の時効中断事由にならないと主張がされたため、最高裁が判断するに至ったものです。

一見すると、主債務者に対しては時効中断しているのに共同保証人に対しては影響しないのはおかしいのではないか、請求の絶対効はどうなったのかと感じてしまいかねないですが、本件は共同保証人間の求償権講師であるところがポイントです。

(共同保証人間の求償権)

第四百六十五条  第四百四十二条から第四百四十四条までの規定は、数人の保証人がある場合において、そのうちの一人の保証人が、主たる債務が不可分であるため又は各保証人が全額を弁済すべき旨の特約があるため、その全額又は自己の負担部分を超える額を弁済したときについて準用する。

 第四百六十二条の規定は、前項に規定する場合を除き、互いに連帯しない保証人の一人が全額又は自己の負担部分を超える額を弁済したときについて準用する。

本来、最終的には主債務者が全責任を負うのが保証人の場合の関係性ですが、無資力の場合には、共同保証人間で頭数割で負担することにして、それを実現するための清算のために特に設けられたのが、保証人間の求償権です。

すると、保証人に対する求償権とは性格的にも別物であるわけでして、この点から最高裁は端的に下記のように判示をしています。

民法465条に規定する共同保証人間の求償権は,主たる債務者の資力が不十分な場合に,弁済をした保証人のみが損失を負担しなければならないとすると共同保証人間の公平に反することから,共同保証人間の負担を最終的に調整するためのものであり,保証人が主たる債務者に対して取得した求償権を担保するためのものではないと解される。したがって,保証人が主たる債務者に対して取得した求償権の消滅時効の中断事由がある場合であっても,共同保証人間の求償権について消滅時効の中断の効力は生じないものと解するのが相当である。

したがって、主債務の求償権が10年の時効にかかりそうになっているくらいで、その間、保証人間の求償権には何もしてこなかったわけですので、当然、時効消滅という結論になったわけなのでした。

要するに、保証人間の求償権についても何かしておくべきだったということになりますが、主債務者に対してなら全部いけるのに、保証人間の求償権についても手当をするというのはなかなか想起しがたいことなのかもしれません。

しかし、それよりもさらにそもそも論ですが、本件は、保証人間の求償権の事件ですが、共同保証人がいるケースでこの権利が行使されることはあまりないように思われます。というのは、現実には、共同保証人には主債務の求償権についても連帯保証を求めていることが多いからであり、このように求める保証人は機関保証であり、そういう意味で保証人を要求しているからと考えられます。

したがって、求償権へ連帯保証をつければいいことですので、やや珍しい事態に対する判例であり、実務的にこれが即影響する場面というのもそうはないように思われます。

なお、民法改正案では、この465条は改正されないことになっていますので、本件の判示もそのまま改正法成立後も意義をもつものと考えられます。

最高裁、自筆証書遺言の文面全体に斜線を引いた行為を、故意に遺言書を廃棄したときに該当するとして、遺言を撤回したと判断

遺言にはいくつか方式が決まっており、それぞれについて作成方式が厳格に定まっています。

民事行為についてはあまり要式性を要求しない日本法では珍しいのですが、遺言の作成そのものがそれほど多くなかったことと、作成するにしても専門家の関与が必要となる公正証書遺言が大半であるため、遺言をめぐる法律紛争は、一般的に想像するよりはとても少ないのが現実です。遺産相続の紛争は増えていますが、遺言についての紛争はそう多くはありません。

そのような中、自筆証書遺言をめぐり、紛争になってしまったという例が発生、最高裁判決が出るに至りました。

最高裁判所第二小法廷平成27年11月20日 平成26(受)1458 遺言無効確認請求事件

本件は要するに、自筆証書遺言に赤線で斜線を引いた行為が、遺言を撤回したものといえるかということにつきます。

本件で問題となった自筆証書遺言に即していうと、方式に関する民法の定めは以下の通りになります。

民法

(自筆証書遺言)

第九百六十八条  自筆証書によって遺言をするには、遺言者が、その全文、日付及び氏名を自書し、これに印を押さなければならない。

 自筆証書中の加除その他の変更は、遺言者が、その場所を指示し、これを変更した旨を付記して特にこれに署名し、かつ、その変更の場所に印を押さなければ、その効力を生じない。

 

(遺言書又は遺贈の目的物の破棄)

第千二十四条  遺言者が故意に遺言書を破棄したときは、その破棄した部分については、遺言を撤回したものとみなす。遺言者が故意に遺贈の目的物を破棄したときも、同様とする。

968条は自筆証書遺言専用の定めですが、作成や修正するときは定めている通り、署名押印がいるわけです。

これに対して、1024条はすべての方式の遺言に共通の規定であり、破棄すれば撤回したとみなすという規定です。

本件は、斜線を引いただけであるので、それだけでは上記のどれに当たるのかが判然としないので問題となったものです。

原審は斜線を引いただけだと、文字は読めるとして、破棄にあたらないとして、遺言は以前として有効としました。

これに対して最高裁は、968条が厳格に方式を要求していることとの比較で、以前として判読できるので、撤回に当たらないという判断にも理解は示しつつも、これを否定して、968条2項は、遺言をするということ自体は以前としてあり、内容の変更であるため、その方式を厳格に定めていると理解をして、すべての効力を失わせる場合には、同様に判断することはできないとしました。要するに方式を厳格に要求する必要はないということと考えられます。

ここから、斜線を引くということの一般的な意味を考察して、故意に破棄したときに該当するというべきであるとして遺言は撤回したものと判断、破棄自判をして請求を認容しました。

 

本件自体は、自筆証書遺言が問題となっているため、どれほど同種の紛争事例があるか若干疑問であるため、本件判決の意義については微妙な気がしないでもありませんが、遺言の変更と撤回とでは、遺言の効力自体は存続するか否かで大きな違いがあるので、方式性の要求の度合いが異なるという考え方は、一般的なものになりえますので、やはり大きな意義があるように思われます。

さて、余談ですが、本件では斜線を引いたのは遺言者であること自体は、事実認定がされており問題となっていません。赤い斜線というだけですので、この事実認定自体それなりに難しいような気がしまして、類似事例で実際の紛争の争点はむしろそちらになるのではないかと勘繰られるところであります。

 

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消費者委員会消費者契約法専門調査会の中間とりまとめに対して、三井不動産、楽天などの企業の法務担当者有志が説明会を開催、勧誘に広告を含める案について懸念の意見が出される

政府の消費者員会消費者契約法専門調査会が8月に公表した中間とりまとめにおいて、「勧誘」に広告のうち一定のものを含む可能性が示されました。

消費者委員会 消費者契約法専門調査会「中間取りまとめ」(PDF形式:371KB)

該当する記述は長いのですが、今後の検討の方向性については以下のようにまとめられています。

事業者が、当該事業者と消費者との間でのある特定の取引を誘引する目的をもってした行為については、それが不特定の者を対象としたものであっても、それを受け取った消費者との関係では、個別の契約を締結する意思の形成に向けられたものと評価することができると考えられる。そこで、事業者が、当該事業者との特定の取引を誘引する目的をもってする行為をしたと客観的に判断される場合、そこに重要事項についての不実告知等があり、これにより消費者が誤認をしたときは、意思表示の取消しの規律を適用することが考えられるが、適用対象となる行為の範囲については、事業者に与える影響等も踏まえ、引き続き検討すべきである。

広告一般を含めるわけではないことは当然前提としていますが、このような枠組みにしますと、個別判断のようになるため事業者の側にとっては大変判断に困る事態になることは容易に想像されます。

このため早くも経済界からは懸念の意見が出ており、法務担当者有志が説明会を開催して、会場から様々な意見がだされるという機会があった模様です。

広告も「勧誘」に、企業側が懸念 消費者契約法改正で  :日本経済新聞 2015/9/10 21:33

消費者契約法の改正を巡り、三井不動産、楽天など大手企業の法務担当者有志が10日都内で説明会を開いた。政府の消費者委員会専門調査会が8月にまとめた中間報告では、契約を取り消せる「勧誘」の対象に広告を含める案などが盛り込まれた。説明会では広告に書いていないことを理由に返品を求める事態が頻発するなど、企業活動に影響が出ることを懸念する声が相次いだ。

 広告やネット、小売り、アパレル、金融などの担当者100人以上に加え、消費者委員会の事務局が参加した。規制が強化されると、ポスターなどに消費者に伝えるべき注意を限りなく記載する必要が出てくるとの指摘がある。

 説明会では「どれが『勧誘』に該当したかの判断は難しい」(電通担当者)との声が出た。三井不動産担当者は「誇大広告などは宅地建物取引業法でも対応しており、業者への罰則もある。新たな規制は混乱を起こす」と指摘した。

(略)

まだまだ法改正の議論としては途中ですが、かなり尖鋭的な取りまとめがされたことから、事業者からの動きも早くも活発なものになっている模様です。

最高裁、債権譲渡について異議なき承諾をした債務者でも、譲渡人に対抗することができた事由の存在について善意だが過失のある譲受人に対しては、当該事由を対抗することができると判示

長くてわかりにくいタイトルで申し訳ございません。

債権譲渡の異議なく承諾について、新たな判例が6月に出ていましたので、遅れましたが取り上げます。

民法

第四六八条(指名債権の譲渡における債務者の抗弁)
 債務者が異議をとどめないで前条の承諾をしたときは、譲渡人に対抗することができた事由があっても、これをもって譲受人に対抗することができない。この場合において、債務者がその債務を消滅させるために譲渡人に払い渡したものがあるときはこれを取り戻し、譲渡人に対して負担した債務があるときはこれを成立しないものとみなすことができる。
2譲渡人が譲渡の通知をしたにとどまるときは、債務者は、その通知を受けるまでに譲渡人に対して生じた事由をもって譲受人に対抗することができる。

民法の条文では、債権譲渡された場合に債務者が異議なき承諾をした場合には、譲受人側には特に要件は不要であり、異議なく承諾さえあれば、抗弁など一切の事由を対抗できなくなるかのように読めます。

しかし、この点については判例によって、主観的要件がついており、請負についての有名な判例(最判昭和42年10月27日民集21巻8号2161頁)から一般化されて、譲受人が悪意なら対抗可と理解されています。

この主観的要件についてはさらに拡大されて理解されており、悪意だけではなく有過失でも対抗可と解するのが有力説であり内田説もこの立場でした。

実務でも要件事実的には、譲受人の悪意または有過失は、譲受債権請求訴訟の再々抗弁に回るとされており、ある意味、定説となっていました。

このたび最高裁が、正面から譲受人が有過失の場合にも対抗可であることを認めた判決が出ました。

最高裁判所第二小法廷平成27年6月1日判決  平成26(受)1817 不当利得返還請求事件

最高裁判所第二小法廷平成27年6月1日判決  平成26(受)2344 不当利得返還請求事件

理由について最高裁は、よりシンプルに判示をしている2344号事件の方で、以下のように述べています。

民法468条1項前段は,債務者が異議をとどめないで指名債権譲渡の承諾をしたときは,譲渡人に対抗することができた事由があっても,これをもって譲受人に対抗することができないとするところ,その趣旨は,譲受人の利益を保護し,一般債権取引の安全を保障することにある(最高裁昭和42年(オ)第186号同年10月27日第二小法廷判決・民集21巻8号2161頁参照)。そうすると,譲受人において上記事由の存在を知らなかったとしても,このことに過失がある場合には,譲受人の利益を保護しなければならない必要性は低いというべきである。実質的にみても,同項前段は,債務者の単なる承諾のみによって,譲渡人に対抗することができた事由をもって譲受人に対抗することができなくなるという重大な効果を生じさせるものであり,譲受人が通常の注意を払えば上記事由の存在を知り得たという場合にまで上記効果を生じさせるというのは,両当事者間の均衡を欠くものといわざるを得ない。

上記は有力説が根拠としてきた理由そのままであり、正面からこのように有力説の立場をとったといえましょう。

実務に何らの変更を与えるものではないといえるかと思われますが、重要な判示であることは確かであるといえるでしょう。

最高裁、責任無能力者の未成年者が他人に損害を与えたもののその態様が通常は人身に危険が及ぶような行為ではない場合、親権者に具体的に予見が可能であるなど特別の事情が認められない限り、監督義務を尽くしていなかったと判断するべきではないと判示

報道でも大きく取り上げられましたが、子供がサッカーボールを蹴って道にボールが飛び出してしまい、通りかかったバイクの老人がそれによって怪我をしてしまい、入院を経て、誤嚥性肺炎でなくなってしまったという事案について、親の監督責任が問われた損害賠償請求訴訟で、最高裁が一部認容していた原判決を破棄して請求棄却の自判を行いました。判決が出て1カ月たちますが取り上げます。

最高裁判所第一小法廷 平成27年4月9日判決 平成24(受)1948 損害賠償請求事件

民法により未成年者は責任無能力ですが、責任無能力者が損害を与えた場合には、監督義務者が監督義務を怠っていない場合以外、責任を負うことになっています。

第七一四条(責任無能力者の監督義務者等の責任)
 前二条の規定により責任無能力者がその責任を負わない場合において、その責任無能力者を監督する法定の義務を負う者は、その責任無能力者が第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。ただし、監督義務者がその義務を怠らなかったとき、又はその義務を怠らなくても損害が生ずべきであったときは、この限りでない。
2監督義務者に代わって責任無能力者を監督する者も、前項の責任を負う。

そしてこの監督義務者の責任は、立証責任が転換していることがハードルを上げることにつながり、事実上無過失責任の様相を呈してしまっていました。そのような判断の根底には、誰も賠償の責を負わないというのはおかしいと考えて、事実上、代位責任的に破断しているきらいがあるのですが、条文そのものは監督義務者の責任という形式自体は維持されています。

このような考え方には当然批判のあるところであり、監督義務を怠っていなかったとするのは酷ではないのか、どうすれば監督責任を果たしていたといえるのかということが指摘されることになっていました。

本件はそのような中、最高裁まで係属した事件ですが、大変、特徴的な事実関係がありました。

未成年者の行為はサッカーゴールにフリーキックをしたところ、道路までボールが転げ出てしまったというものでしたが、以下のような事実があったことが判示されています。

  • ゴールからさらにその先の学校の門までは10メートル
  • 門の左右にはネットが張られており、その外には1.8メートルの側溝
  • 本件では門の外にかかっている橋にボールが行ってしまい道路に転げ出てしまった
  • 道路の交通量は普段多くない

このようにボールが出てしまったことと、ちょうどバイクが通りかかったことは、かなり偶然性が高いといえます。

このような点をとらえて最高裁は、この行為を、通常は人身に危険が及ぶ行為ではないと評価をしまして、通常は人身に危険が及ぶ行為ではない行為から損害が発生した場合に監督義務を尽くしていたかの判断基準を以下のように述べています。

親権者の直接的な監視下にない子の行動についての日頃の指導監督は,ある程度一般的なものとならざるを得ないから,通常は人身に危険が及ぶものとはみられない行為によってたまたま人身に損害を生じさせた場合は,当該行為について具体的に予見可能であるなど特別の事情が認められない限り,子に対する監督義務を尽くしていなかったとすべきではない。

その上で、特別の事情があったとうかがわれないとして請求を棄却する判断をしています。

通常は人身に危険が及ぶ行為ではないのに、特別に予見される場合というと、未成年者が故意でやったことでそれを監督義務者が知っていたとかそういう極限的な場合ではないと該当しないように思われますので、監督義務者の責任についてかなり実質的判断をしたといえるように思われます。

ただ、報道ではこれで一気に流れがかなり変わるというような受け止め方がされていましたが、「通常は人身に危険が及ぶ行為ではない」の判断において、本件では単なる公園でのボール遊びとかよりはかなり偶然性を感じさせる要素が基礎になっていることから、果たして射程がどこまで広いのかは微妙な感じがします。

また、監督義務の判断を実質化させると、未成年者による行為であるというために、誰も賠償の責を負わないという事態が発生してしまうことからも、大変難しい問題です。立法措置を考えないうえでバランスを考えるならば、監督義務者の責任のハードル自体はやはり若干変えざるを得ないようにも思われ、そのような苦しい判断があるからか、この判例の判示はどうもすっきりしない書き方になっているきらいがあります。

監督義務を尽くしていなかったとすべきではないという一般論の後の当てはめ的な個所で、義務を怠らなかったとまで言ってしまっており、論の運びとの対応関係がやや不整合な感じを受けるところがあります。

最高裁も要旨の書き方や公表した判決文中の下線の引き方で事例判断であることを強調しており、あまり射程を広げて捉えないほうが無難な感じがする一件と言えるかと思われます。

 

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日本郵政インフォメーションテクノロジー、ソフトバンクモバイルと野村総合研究所を相手取って通信回線敷設の遅れで損害が生じたとして損害賠償請求訴訟を提起

日本郵政が全国の郵便局などの拠点を結ぶ新しい通信ネットワークを作る工事をソフトバンクモバイルなどが受注したものの、工事が遅延して損害が生じたとして、日本郵政の子会社がソフトバンクモバイルと野村総合研究所を相手取って損害賠償請求訴訟を提起したことが明らかになりました。

ソフトバンクと日本郵政が相互に訴訟提起、ITシステム納入で | マイナビニュース [2015/05/02]

日本郵政と日本郵政インフォメーションテクノロジー(JPiT)は5月1日、ソフトバンクモバイル(SBM)と野村総合研究所(NRI)を相手取り、両者に発注した業務の履行遅延から生じた損害に相当する161.5億円の賠償を求め、東京地方裁判所に訴訟提起を行ったと発表した。なお、ソフトバンクモバイルも、4月30日にJPiTを被告とする追加報酬の支払い請求訴訟の提起を行っている。

SBMとJPiTは、2013年2月7日に全国の日本郵政グループの事業所拠点を繋げるネットワーク「5次PNET」の通信回線整備の事業契約を締結。SBMは通信回線の敷設工事など、NRIはネットワークの移行管理・調整業務を発注したという。

(略)

しかし、この移行作業が遅滞しており、納期も3月31日から6月30日に延期されたことから「日本郵政グループに損害が発生」(JPiTリリースより)し、損害賠償の請求を行ったとしている。

一方でソフトバンクモバイルは、JPiTから当初の契約における受注業務の範囲を超える業務の依頼を受けており、「追加の業務も実施してきた」(リリースより)という。

両社は損害賠償の請求、追加業務に関する報酬の請求など、相互に交渉を続けてきたが、協議による解決には至らなかった。JPiTは4月9日付でSBMに、4月23日付でNRIに訴訟提起を行う旨を通知している。請求額については、SBMからJPiTが約149億円、JPiTからSBMとNRIへは161.5億円となっている。

(略)

上記報道ではかなり中身やその後の経緯まで言及されており、よくわかる内容となっています。

システム開発系で発生するトラブルとしてはありがちな内容ともいえるのですが、通信回線といったハードの工事も含まれることからシステムでよくありがちなトラブルと同じ問題といえるのかは微妙なところがあります。

一方で、だんだんと当初の発注から拡大していったという契約後に動き出してからの経緯についても触れざるを得ないという点でシステム系のトラブルと同じ感じがあります。

日本郵政、ソフトバンクモバイル、野村総研といった大企業でこのようなトラブルになったということは一見するとやや意外なところですが、上記の報道でもある通り、話し合いが不調で司法の判断にゆだねるを得なくなったという経緯もうかがわれます。その点は利害関係者の多い大企業だからこその判断である点もあるので、むしろ司法の場に移ったのはある意味当然の判断なのだと思われます。

 

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三菱商事、多摩テックの跡地開発をめぐって明治大学を提訴

2009年に閉園した遊園地「多摩テック」の跡地開発について、明治大学がスポーツパークを開設することを計画して、道微視商事との事業スキームが動いていましたが、東日本大震災後の建設費の高騰で、2013年11月に明治大学が中止を発表していました。

本学のスポーツパーク(仮称)事業計画について

その後も三菱商事と明治大学との間では話し合いが行われたものと思われますが、司法で決着をつけざるを得なくなった模様で、三菱商事が明治大学を提訴したことが明らかになりました。すでに第1回口頭弁論が開かれています。

三菱商事、明治大を提訴 施設計画中断で60億円請求 – 47NEWS(よんななニュース)2015/05/01 19:18 【共同通信】

遊園地「多摩テック」(東京都日野市)跡地にスポーツ施設を建てる明治大の計画が中断したため損害を受けたとして、土地の代金を立て替えた三菱商事が、明大に約60億9千万円の支払いを求める訴えを東京地裁に起こしていたことが1日、分かった。

 関係者によると、1日の第1回口頭弁論で明大は請求棄却を求めた。

 訴状によると、明大は2009年9月に閉園した多摩テックの跡地にスポーツ施設を建てることを計画。11年1月、三菱商事が土地を購入して開発許可を取得し、明大が土地を買い取るとの合意書を交わした。

日経の報道によると、開発スキームは、三菱商事が土地を取得して開発許可を取得、明治大学が土地を買い取るというものであったとのことです。

これだと建物の建設がどうなるのかが不明なのですが、とにかく共同事業ではあることから、明治大学によって中止とされてしまったことで三菱商事にとっては取得した土地に関して明治大学に損害賠償請求をしたということのようです。

このような開発スキームがあいまいなやり取りのまま進むとは思われませんので、あいまいなまま進んだ経緯をとらえて契約の解釈をするということではなく、建設費の高騰が事情変更の原則に抵触するのかなどの論点になるように思われますが、詳細が不明であるため憶測にすぎません。

企業と大学の共同事業について紛争になる例がちらほら見受けられますが、大学の体質もさることながら、この数年来、日本社会はとても急激な変化に見舞われることが多いためその余波を受けているという面が大きいと思われます。

 

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