憲法・行政法事情

東京地裁、断熱フィルムに関して消費者庁が出した排除措置命令について、発売元の申立てにより執行停止を命じる

消費者庁が出した景品表示法の排除措置命令について執行停止が認められた初の事例が出たことが明らかになりました。

省エネが重要なテーマになって以降、断熱フィルムが注目されていますが、そのフィルムについて効果がないとして、排除措置命令を消費者庁が出しましたが、これに対して、製造販売元である翠光トップラインらが、取消訴訟、国会賠償訴訟を提起しましたが、その前に執行停止の申し立てをしていました。

東京地裁はこれを認め、執行停止を命じたことが明らかになりました。

消費者庁の発表

弊社に対する措置命令に関するお知らせ|株式会社 翠光トップライン

措置命令の取消訴訟等の提起のお知らせ|株式会社 翠光トップライン

東京地方裁判所による執行停止の決定に関するお知らせ|株式会社 翠光トップライン

同社によると決定の主文は以下の通りとされています。

主 文
消費者庁長官が平成27年2月27日付けで申立人株式会社翠光トップラインに対して行った不当景品類及び不当表示防止法6条に基づく措置命令(消表対第254号)及び同日付けで申立人株式会社ジェイトップラインに対して行った同条に基づく措置命令(消表対第255号)は、本案事件の第一審判決の言渡しまでその効力を停止する。

 

まだ本案の帰趨は定まっていませんが、活発化している消費者庁の権限行使に対して、事業者側の対応パターンの一つとして興味深い展開を見せているといえそうです。

宮城県、みなし仮設住宅の賃貸借が終了したものの退去しないとして、入居者を提訴へ

東日本大震災後の対応として、民間の賃貸住宅を地方自治体が借り上げて、そこに被災者に入居させ、それを仮設住宅と同様の取扱をして、賃料などが公費負担になっているものをみなし仮設住宅(応急仮設住宅)というそうです。

このみなし仮設住宅で、もともとの賃貸借契約が終了したのに入居者が退去しないとして、宮城県が入居者に、建物からの退去明渡しと賃料相当損害金の支払いを求めて提訴したことが明らかになりました。

宮城県が「みなし仮設住宅」退去求め提訴 被災3県で初、男性2人に – MSN産経ニュース 2014.9.8 12:07

東日本大震災で民間賃貸住宅を行政が借り上げる「みなし仮設住宅」の定期賃貸借契約の期間が終了したのに、退去しないのは契約違反だとして、宮城県が入居者の男性2人に明け渡しなどを求める訴えを、仙台地裁と同地裁石巻支部に起こしたことが8日、分かった。

 宮城県によると、岩手、福島を含む被災3県で、自治体がみなし仮設の入居者に退去を求めて提訴したのは初めて。

(略)

入居を続けるには貸主と入居者双方の同意が必要だが、貸主が再契約をしないと通告。県が別の仮設住宅への転居を案内しようとしても2人は応じず、建物の明け渡しと契約終了後の家賃の支払いを求めている。

応急仮設住宅(民間賃貸住宅)の基本的な仕組み – 宮城県公式ウェブサイト

そもそも震災対応の特殊な制度であり一般的な賃貸借の法理に乗せるのに相応しくないかもしれませんし、仮に乗せたとしても、報道によるともとの行政による借り上げが、定期借家であったと見受けられますので、その時点で特殊事情があるといえそうです。

賃貸借の議論においては、賃貸借の目的物が転貸されている場合、賃貸人と賃借人が合意解約しても、転借人には対抗できないという大審院判例があります。ここからいくと、元の賃貸借契約が入居者のあずかり知らぬところで終了してしまっても対抗できることになりそうです。

しかし、大審院判例は合意解約を対抗できないとしたものであるため、本件は定期借家であることがこれらの判例と比べても異なります。また判例は、サブリースに関して、終了をテナントに対抗できないとしたことがありますが、これは賃貸人がサブリースという仕組み上、最初から承諾しているはずというところに根拠が求められています。本件は、あくまで震災対応の応急措置的なものである点、定期借家という形式をとっている点から行くと、承諾をしていたというところまでは求められないことから、やはり、一般的な賃貸借の議論に照らしても入居者には難しいのではないかと考えられます。

大阪地裁、市職員の労働組合が提起した大阪市による市庁舎内の事務所の使用不許可処分の取消訴訟で請求を認容して、処分を取消

橋下市長になってから大阪市において、市職員労組との対立的な出来事がいくつか起きましたがそのうちの一つに、労働組合の事務所を市庁舎内から退去させたというものがありました。

この件について、取消訴訟が提起されていましたが、大阪地裁は組合側の請求を認めて、処分の取り消しのほか損害賠償も認めました。

大阪市労組事務所、退去の取り消し命じる判決 : 社会 : 読売新聞(YOMIURI ONLINE) 2014年09月11日 00時57分

大阪市が市役所庁舎から職員労働組合の事務所を退去させたことの是非が争われた2件の訴訟の判決で、大阪地裁は10日、市労働組合連合会(市労連)など計8団体の訴えを認め、市に退去の取り消しと計約410万円の損害賠償などを命じた。

中垣内なかがいと健治裁判長は「事務所を退去させるのは、憲法が保障する職員の団結権の侵害。市長の裁量権を逸脱、乱用しており、違法だ」と述べた。

 橋下徹市長と労働組合の対立を巡る司法判断は初めて。市は、組合への便宜供与を禁じる条例を退去の根拠にしていたが、判決は「違法行為を適法とするための条例の運用は違憲で、無効」と言及した。

判決によると、8団体は1982年以降、市の許可を受け、庁舎地下1階の6部屋を事務所として使っていたが、市は2012年1月、「行政事務のスペースが足りない」として同年3月末での退去を通告。6団体が応じ、空き部屋には市の各局が入った。残る2団体は通告に従わず、現在も部屋を使用している。

 判決は、11年12月の就任当時、橋下市長は使用を許可する意向だったが、組合が同年の市長選で対立候補を支援するため庁舎内で政治活動をしたと市議会で指摘された直後、方針転換したと認定。「行政事務のスペース不足ではなく、政治活動の防止が目的。組合活動に著しい支障が生じると認識し、団結権を侵害する意図があった」とした。

 そのうえで「事務所で政治活動があった証拠はなく、退去は社会通念に照らして著しく妥当性を欠く」として、6団体に対する庁舎使用の不許可処分を取り消し、庁舎に残る2団体についても今年度の部屋の使用を許可するよう命じた。

(略)

労使間の争いを解決する機関には裁判所と別に労働委員会があり、大阪府労働委員会は今年2月、事務所退去を不当労働行為と認定。市が中央労働委員会に再審査を申し立てている。

(略)

使用者から労働組合への便宜供与は、労働組合性を失わせるという意味で許されませんが、必要最低限の組合事務所の貸与は例外とされています。

そのため、一般的な会社において、これまで貸与してきたものをいきなり退去させたとなれば、不当労働行為になることは堅いと思われます。しかし、本件の特殊性は、あくまで民主な統制に服する地方自治体においてのことであり、特に便宜供与を禁止する条例があるという点にあります。

それでも、便宜供与にそもそも当たらないと解されていることからすれば、やはり不当労働行為ということになるでしょう。判決全文は確認できていませんが、上記報道によると、事実認定において、当初は許可の意向だったのに一転したなどの事実が指摘されていることから、不当労働行為の意思があったので、権限の濫用があるのだという構成になっているものと思われます。ここからいくと、便宜供与ではあるが権限行使は濫用という構成をとっていると推測されるところです。

あくまで行政処分の取消訴訟であるという点に配慮した構成をしているのではないかと思われます。もっとも、行政上の必要性がある公の施設において貸与を続けないといけないのかは、別の問題であり、本件の構成をかんがみると、事情によっては組合事務所を貸与しなくても不当労働行為にはならない場面がありうるものと思われます。

裁判例情報

大阪地裁平成26年9月10日判決

札幌地裁、店舗側による食べログの投稿情報削除請求を認めず

食べログに掲載された投稿内容等の削除を求める請求について、札幌地裁が請求を棄却していたことが明らかになりました。

食べログ掲載の投稿情報、削除認めず 札幌地裁判決  :日本経済新聞 2014/9/4 21:36

飲食店の利用者が感想を投稿するグルメサイトに事実と違う内容を投稿されたとして、札幌市の飲食店経営会社が、「食べログ」を運営するカカクコムに店舗情報の削除などを求めた訴訟の判決で、札幌地裁は4日、請求を棄却した。原告側は控訴を検討する。

 判決理由で長谷川恭弘裁判長は「原告の会社は法人であり、広く一般人を対象に飲食店を営業しているのだから、自己の情報を『個人』と同じようにコントロールする権利はない」と指摘。

 さらに「原告の請求を認めれば、情報が掲載される媒体を選択し、望まない場合は掲載を拒絶する自由を原告に与えることになる。他人の表現行為や得られる情報が恣意的に制限されることにもなり、容認できない」との判断を示した。

 判決によると、飲食店は北広島市にあり、「料理が出るまで長時間待たされた」との投稿が食べログに寄せられた。(略)

判決の構成は、表現の自由及び自己情報コントロール権に基づいており、根拠がかなり固いことが特徴的です。法人だから自己情報コントロール権がないというくだりだけだと、個人事業主の場合にやや気になるところが出てきますが、表現の自由にも根拠を求めていることから、かなりの手堅い構成になっています。

食べログをめぐっては、他にも大阪で隠れ家を売りにしている飲食店の運営企業が、こちらは店の情報そのものの削除を求める訴訟を提起していることが明らかになっていますが、こちらでも当然のことながら同じ構成で食べログ側は拒否をしたことから訴訟提起となっており、今後の展開が注目されます。

裁判例情報

札幌地裁平成26年9月4日判決

佐賀地裁、ゼミの教官が統一教会からの脱会を勧めた行為を、信仰の自由を侵害したとして8万8千円の損賠賠償を認める

信仰の自由を侵害されたという事実認定がなされて、損害賠償が認められたという大変珍しい裁判例が出ましたので取り上げます。

統一教会信仰侮辱、佐賀大に賠償命令-地裁/佐賀新聞ニュース/The Saga Shimbun :佐賀のニュース

佐賀大の20代の女子学生(当時)と両親が、統一教会の信仰を侮辱され、脱会を勧められ信教の自由を侵害されたとして、50代の男性准教授と大学側に440万円の損害賠償を求めた訴訟の判決が25日、佐賀地裁であり、波多江真史裁判長は訴えの一部を認め、大学に約9万円の支払いを命じた。

判決によると、准教授は2012年2月、大学の研究室で、当時ゼミ生で学内の学生信者団体代表だった女子学生に、統一教会の教義を批判し執拗(しつよう)に脱会を勧めた。合同結婚式を通じて結婚した両親を「犬猫の結婚」と侮辱するなどした。

波多江裁判長は、准教授の発言は不適切で「信仰の自由を侵害する」と指摘。一方、准教授との会話を無断で録音していた女子学生の目的が、大学によるカルト対策への攻撃材料にするためだったと認定し、「精神的苦痛はさほど大きいものとはいえない」とした。

(略)

国立大学法人なので国家賠償なのですが、不法行為全般に通じるものがあると考えてよいかと思います。

単に脱会を勧めるだけなら別でしょうが、上記のような程度と回数に及ぶと違法性があるということになりましょう。

もっともポイントであるのは、学生側が秘密録音していたことの評価についての下りでして、秘密録音をしているくらいであるので、後で利用する意図があったのであろうから、逆に言うと、精神的苦痛を大きくとらえることはできないとしている点です。

これは信仰の自由があくまで内心の問題であることから、このような言い方ができるものでして、秘密録音があるということからすべからく思惑があると捉えてマイナス評価するわけではないでしょうが、興味深い評価の仕方であり、実務的に注意しておくべき点であるように思われます。

裁判例情報

佐賀地裁平成26年4月25日判決

東京高裁,許認可を巡る行政への事前相談は国家賠償法上の公権力の行使には当たらないと判示

普通,許認可を求める場合,いきなり申請をせずに,担当している部署に確認や相談をするのが一般的だと思われます。その事前相談で誤った情報を伝えられたために損害を被ったとして国家賠償請求になっている事案があるとのことで,このたび1月末に控訴審判決が出た模様です。

報道によると,原審の横浜地裁小田原支部は国賠を認めるという衝撃的な判断をしている模様でそれに対して控訴がなされたところ,東京高裁は一転して請求を棄却した模様です。

ポイントとなったのは,事前相談への回答が公権力の行使に当たるかという点であるようで,東京高裁は事前相談への回答は「行政サービスの一環」として,公権力の行使への該当性を否定した模様です。

もっとも,原審では,事前相談への回答一般が公権力の行使に該当するという言い方をしているわけではありません。

本件で問題となったのは井戸の設置が許可できるのかという問題だったのですが,当該条例の解釈自体が裁判所で問題となってしまい,井戸の設置が許可される余地があると解釈されたため,そのような条例である以上,回答は具体的にするべきであるという結論になったという論理的な流れがあります。したがってあくまで事例判断だったわけで,果たして原審を変更して違法性なしとした判断が妥当であったかには異論もあるかもしれません。

原判決情報

横浜地方裁判所小田原支部平成25年09月13日判決 平成23(ワ)955 損害賠償(国家賠償)

本判決の詳しい日時等は不明ですので,確認できたら追って追記します。

東京地裁,障害基礎年金の認定に診断書がなくても可能として不支給処分を取消

遡っての障害基礎年金の支給を申請したところ,支給時点以降の分以外は不支給となったところ,取消訴訟が提起され,東京地裁は不支給処分を取り消すというかなり大胆な判決がされました。

障害基礎年金:女性の請求認める判決 東京地裁- 毎日jp(毎日新聞)

障害やけがの程度に応じて支給される障害基礎年金を巡り、支給開始の20歳の時には制度を知らなかった東京都内の知的障害の女性(32)が、当時の医師の診断書がないことを理由に過去にさかのぼっての支給を認めない国の処分は誤りだとして取り消しを求めた訴訟で、東京地裁は8日、女性の請求を認める判決を言い渡した。谷口豊裁判長は「20歳当時を知る関係者の証言から女性に障害があったと認められ、処分は違法」と述べた。

女性は28歳だった2009年8月に制度を知り、軽度の知的障害との診断を受け、翌月から年金を受給。20〜28歳分の支給も国側に求めたが診断書がないために退けられ、11年に提訴していた。

判決は、女性が20歳当時に通っていた洋裁専門学校の担任が、▽ミシンを1人では使えなかった▽衣服をうまく着脱できなかった−−などと証言したことを重視し、障害等級2級に該当していたと認定した。(略)

この事件には,時効の問題から障害基礎年金をどこまで遡って支給を受けられるのかという論点がまずありますが,さらにそれをクリアしたうえで,障害の認定に当たっての事実認定に関する裁量が問題となっています。

前者の問題についてはすでに別の裁判例でも取り上げたことがありますが一つの争点です。

今回はさらにその先の問題として事実認定に関して問題となっています。というのは,障害年金は,請求するに当たり,主治医から所定の診断書に状況を記載してもらう必要があり,それを添付資料として必ず提出しないと受理されません。

今回は発症当時とされる20歳ごろの時期についてはまだ受診していなかった模様で診断書がないということなのですが,それでもそのほかの事実から障害の状態と認定できるなら受給資格ありとなるかということが問題となったわけです。

東京地裁は,間接事実から受給資格ありと認定できるので不支給処分は違法と判断しました。

法律上は障害の状態が要件となっているところですが,診断書の記載をもとにして障害状態にあるかを読み解いて認定をするというのが年金実務となっており,裁判所のするような間接事実から認定してしまうということは行っていないわけです。このような認定の仕方をすると,実務上は大変な混乱をきたす恐れがあり,実務が回らなくなってしまう可能性もありそうです。

一方で障害年金は,障害者にとっては非常に重要な生計を保つための手段になりますので,すこしでも障害の実態に即して受給を受けることが望ましいのは確かです。裁判で判断されたら支給するがそれ以外では診断書一本主義のような運用にすることもありでしょうが,厚生労働省の所管する制度ではそのような対応を取らず,裁判で判断されたことを実務にも反映させるように改めていくという動きをする傾向があります。それは,正しい反応ではあるのですが,現在の年金実務は相当程度,混乱しており障害年金の場合,支給までの手続きがかなり遅れ気味になっている傾向があります。そのような中,実務とのすり合わせをどうするのかなど,深刻な問題を招来させそうな一件といえるでしょう。

裁判例情報

東京地裁平成25年11月8日判決

ケンコーコム,処方箋薬のネット販売をめぐって確認訴訟を提起

医薬品のネット販売については判例が出てその後行政も動くという大事になっていますが,報道でも大きく取り上げられたこともあり,大変著名になっています。

厚生労働省がネット販売を全面解禁するのではなく,処方箋薬などを除外したことから,ネット販売業者からは強い反発を呼んでいますが,具体的な動きとして訴訟を提起したことが明らかになりました。

訴訟の提起に関するお知らせ

国を相手にした確認訴訟ということですので,公法上の当事者訴訟ということになると思われます。すると,内容面もさることながら,本件では訴訟提起がかなり早期であるため,訴訟要件など形式的な面が問題となることが予想されます。

特に問題となるのは確認の利益のうち,即時確定の利益など今争う必要があるのかということになると思われます。

世間的な注目を浴びているうちに訴訟提起に動いておくという戦略的な面があると思われますが,訴訟戦術としては問題が一つ増える事態になりそうです。

東京地裁,虐待の疑いがあるとして児童相談所が子供を保護したところ,両親が親権を奪われたとして国家賠償請求をした事件で,虐待の恐れがあり保護し続けることは違法ではないとして請求棄却

子供の虐待と児童相談所の権限行使は,対応の遅れが問題となることがありますが,権限行使をして,虐待の恐れのある子供を保護したところ,両親から実質的に親権を奪われたとして国家賠償請求がされた訴訟で,東京地裁が請求を棄却したことが明らかになりました。

報道によると,争点となったのは虐待があったかというところからして問題となっており,虐待の法律論として,「両親の意図にかかわらず、子供に常識を逸脱した苦痛を加えれば虐待だ」として,事例判断としてということになりますが,虐待とその後も虐待の恐れがあったと認定し,子供を両親から話し続けることは違法ではないと判断しています。

虐待についての法律論が示されたところには意義深いものがあるように思われます。

児童相談所の権限行使の当否ということですとこのような判断になるでしょうが,隣接分野として,新設された親権停止の制度ができています。

裁判所の判断についての国家賠償の判断枠組みとこれまでの判例ではまず賠償は認められなかったということから考えますと,裁判所が一度,親権停止の審判をしたとしたら,その判断そのものに対しての国家賠償ということはおよそ認められないということになるのでしょう。

裁判例情報

東京地裁平成25年8月29日判決

最高裁,国税徴収法に基づき持分につき差押処分を受けた滞納者と当該不動産を共有している共有者は差押処分の取消訴訟の原告適格を有すると判示

行政事件訴訟法9条の原告適格について,新しい判例が出ましたので取り上げます。

最高裁判所第二小法廷平成25年07月12日判決 平成24(行ヒ)156 差押処分取消,国家賠償等請求事件

X,A,Bが共有している土地と建物があり,その共有者のうちのBが共有が生じる原因となった相続にかかる相続税を滞納したとして,当該不動産のBの持分に国税徴収法に基づく滞納処分といて差押処分をしたところ,XとAが差押処分の取消訴訟を提起するという一見すると不思議な事態が起きました。

原審は,差押がされたのはBの持分であり原告適格がないとして却下したところ,上告され,最高裁は原告適格については肯定する判断をしました。

第9条(原告適格) 
処分の取消しの訴え及び裁決の取消しの訴え(以下「取消訴訟」という。)は、当該処分又は裁決の取消しを求めるにつき法律上の利益を有する者(処分又は裁決の効果が期間の経過その他の理由によりなくなつた後においてもなお処分又は裁決の取消しによつて回復すべき法律上の利益を有する者を含む。)に限り、提起することができる。
2 裁判所は、処分又は裁決の相手方以外の者について前項に規定する法律上の利益の有無を判断するに当たつては、当該処分又は裁決の根拠となる法令の規定の文言のみによることなく、当該法令の趣旨及び目的並びに当該処分において考慮されるべき利益の内容及び性質を考慮するものとする。この場合において、当該法令の趣旨及び目的を考慮するに当たつては、当該法令と目的を共通にする関係法令があるときはその趣旨及び目的をも参酌するものとし、当該利益の内容及び性質を考慮するに当たつては、当該処分又は裁決がその根拠となる法令に違反してされた場合に害されることとなる利益の内容及び性質並びにこれが害される態様及び程度をも勘案するものとする。

司法試験で行政法が,科目に入ってからは必須の手法になりましたが,法律上の利益があるかについて最高裁は関連法令を参酌する形で検討を行っています。

最高裁は租税滞納処分の以下のような点に着目しています。

滞納者と他の者との共有に係る不動産につき滞納者の持分が同項に基づいて差し押さえられた場合には,滞納者において,当該持分の譲渡や当該不動産に係る用益権設定等の処分が禁止されるため,滞納処分による差押登記後に当該不動産につき賃貸や地上権設定等をしてもこれを公売処分による当該持分の買受人に対抗することができず,その結果,滞納者の持分と使用収益上の不可分一体をなす持分を有する他の共有者についても当該不動産に係る用益権設定等の処分が制約を受け,その処分の権利が制限されることとなる。 加えて,不動産につき同項に基づく差押処分がされた場合の使用又は収益については,当該不動産の価値を著しく減耗させる行為がされると認められるときに,税務署長は滞納者及び当該不動産につき使用又は収益をする権利を有する第三者に対しその使用又は収益を制限することができるものとされており(同法69条1項ただし書,同条2項),滞納者と他の者との共有に係る不動産における滞納者以外の共有者は上記の第三者に当たるものと解されるので,滞納者の持分が差し押さえられた土地上に建物を新築するなど,当該不動産の価値を著しく減耗させる使用又は収益に関しては,滞納者のみならず,他の共有者についても同法69条所定の上記制限が及ぶこととなる。

以上の点を指摘して,法律上の利益があるとして原告適格を肯定しています。

すると本来なら本案審理をしていないことになりそうなので,差戻しという結論になりそうです。しかし,この判例には続きがあり,実は原審は仮にということで本案の判断をしていて,処分には違法性がないという判断をしていました。最高裁はこれをとらえて差し戻すと却下から棄却に不利益に変更される判決が出ることになるので,不利益変更禁止の原則から上告を棄却するという結論にしています。

この最後の処理のところも非常に興味深いですが,まずは,原告適格を肯定した例にまた一つ加わったという確認が重要だと思われます。