判例・裁判例

さいたま地裁、ワンセグ付きの携帯電話は放送法の受信設備に該当しないとして、受信契約を締結する義務はないと判断

東京高裁、厚木市内の建物を暴力団事務所として使用することを禁じる仮処分命令に反したとして、周辺住民による間接強制の申立てが一部却下されたことに対する執行抗告審で、1日100万円の支払命令

昨今の山口組の抗争状態のため暴力団事務所として使用しないことを命じる仮の地位を定める仮処分命令に反したとして、間接強制の申立てがなされたという事件がありまして、報道からは詳細が不明なところがあるのですが、興味深い点がありましたので、取り上げます。

 

山口組系に制裁金、東京高裁認める 「事務所禁止」巡り  :日本経済新聞 2016/8/18 1:06

暴力団山口組系の3次団体が、神奈川県厚木市内の建物を事務所として使うことを禁じた仮処分に従わなかったとして、周辺住民が3次団体側に、使用した場合に1日100万円を支払うよう求める間接強制を申し立て、東京高裁が認める決定をしていたことが分かった。住民側弁護団が17日、明らかにした。決定は10日付。

 弁護団によると、横浜地裁小田原支部が2003年、この建物を事務所として使用するのを禁止する仮処分決定を出した。だが今年2月、建物にトラックが突っ込む事件が発生。山口組と暴力団神戸山口組の抗争とみられ、不安を訴える住民側が5月、同支部に間接強制を申し立てた。

 同支部は6月、03年の仮処分は現在の「6代目山口組」とは異なる「5代目山口組」の傘下組織に対するものだったとして、申し立てを一部却下。住民側が不服として執行抗告していた。

(略)

 

いわゆる仮の地位を定める仮処分で不作為債務の場合には、仮処分命令で直ちに金銭の支払いを命じられるわけではなく、改めて間接強制を申し立てる必要があり、授権決定を経て、それを債務名義として金銭執行をするということになります。

報道によりますと、住民が2003年に事務所として使用しない旨の仮処分決定を得たものの、ここにきて対立抗争によってトラックが突っ込む事件が発生したことから、使用している状態にあるとして間接強制の申し立てがされた模様です。

他の報道によりますと、組側は住んでいるだけとの言い分がある模様で、申尋でこれを言ったのかは定かではないのですが、まずはこの点がポイントとなりそうです。

また、二点目のポイントして、仮処分命令の債務者と現在の債務者が異なるという主張がされたことが報道からうかがわれます。

暴力団が法人組織などではないことから、個人が債務者とすると、代替わりによって異なるという理屈になりそうで、非常に問題と感じられます。

この点をどのように解釈したのかは定かではないのですが、東京高裁は、横浜地裁小田原支部の一部却下の決定に対する執行抗告を認めていますので、ここは債務者は同じであるという見解をとったものと思われます。

最高裁、花押は自筆証書遺言の要件である押印には当たらないとして遺言を無効と判断

札幌高裁、札幌ドームでファウルボールで失明した女性が提起した損害賠償請求訴訟の控訴審で、日本ハム、札幌ドーム、札幌市に賠償を命じた一審に対して、日本ハムのみに責任を認める

下記tweetで取り上げた事件の控訴審判決が出ました。

 

ファウル失明、札幌高裁も賠償命令 日ハムのみ3300万円 | どうしんウェブ/電子版(社会) 05/20 13:59、05/21 01:01 更新

札幌ドームでプロ野球観戦中にファウルボールの直撃を受けて右目を失明した札幌市内の30代女性が、北海道日本ハムなど3者に計約4700万円の損害賠償を求めた訴訟の控訴審判決が20日、札幌高裁であった。佐藤道明裁判長は、3者に約4200万円の支払いを命じた一審の札幌地裁判決を変更、「安全配慮が不十分だった」として日本ハム球団のみに約3300万円の賠償を命じた。

 球場の設備の安全性については問題がなかったとの判断を示し、ドームの管理会社の札幌ドームと、所有者の札幌市への請求は棄却した。一方、「女性が打球を見ていなかったのは過失と認められる」として、一審が認定した損害額から女性側の過失分の2割を差し引き、賠償額を減額した。

(略)

佐藤裁判長は判決理由で「女性は、観戦イベントで球団から招待を受けた子供の保護者。野球に関する知識はほとんどなく、ファウルボールの危険性もほとんど理解していなかった」と指摘。「球団には危険性を具体的に告知し、その危険を引き受けるか否かを判断する機会を与えるなどの安全配慮義務があったのに、十分ではなかった」と断じた。

 昨年3月の一審札幌地裁判決は、球団側が2006年に内野席前の防球ネットを撤去したことなどについて「臨場感の確保に偏り、球場が通常備えるべき安全性を欠いていた」としたが、控訴審は「臨場感も野球観戦の本質的な要素」と指摘。その上で、防球ネットはなかったものの「内野フェンスの高さは他球場に比べて特に低かったわけではなく、ファウルボールへの注意を促す放送など他の対策も考慮すると、プロ野球の球場が通常有すべき安全性を欠いていたとは言えない」とした。

(略)

原判決では、球場の設備そのものが安全性を欠いているという判断がなされ、球団だけではなく施設を保有している札幌市、札幌ドームにも責任を認めていたのですが、控訴審では、球場の設備面の安全性がほかの球場と比べて劣っているわけではないと判断が一変しました。

そのうえで、球団の安全配慮義務として、野球をよく知らない観客への配慮が足りないという判断がされ、これを根拠に損害賠償責任を肯定しています。

チケットなどに告知などは入っているものですが、基本的に誰が入ってくるのかわからない球場という環境でそれ以上の安全配慮義務を果たすのはむつかしそうです。しかし、本件では球団から招待を受けた子供の保護者の観客であるという点が意味を持っているようであり、そのような場面では個別に安全についての告知等の配慮をするべきということになるのだと思われます。

裁判例情報

札幌高裁平成28年5月20日判決

最高裁、株主総会の議案が否決された決議の取消の訴えは不適法と判示

会社の組織に関する訴えは、会社法に特に定めが置かれていますが、この訴訟の中に株主総会決議の取消の訴えがあります。

この決議取消の訴えが、議案を否決する決議についてもできるのかという点が争われて判例が出ましたので取り上げます。

最高裁判所第二小法廷平成28年3月4日判決 平成27(受)1431 株主総会決議取消請求事件

本件は、実のところ、なんとも人を食った話でして、被上告人(会社)の株主である上告人が、被上告人での取締役から解任する議案が否決されたところ、その否決について上告人が取消の訴えを提起したというものです。

まるで自分を解任されなかったのが不当であるかのような話で矛盾挙動のようにも見えますが、別訴で解任の訴えが提起されており、否決の決議が取り消されるとその訴えが不適法になるので、この訴えは適法だと主張してここまで来てしまったものです。

最高裁は、議案を否決した決議の取消の訴えは不適法としました。その理由については以下のように述べています。

会社法は,会社の組織に関する訴えについての諸規定を置き(同法828条以下),瑕疵のある株主総会等の決議についても,その決議の日から3箇月以内に限って訴えをもって取消しを請求できる旨規定して法律関係の早期安定を図り(同法831条),併せて,当該訴えにおける被告,認容判決の効力が及ぶ者の範囲,判決の効力等も規定している(同法834条から839条まで)。このような規定は,株主総会等の決議によって,新たな法律関係が生ずることを前提とするものである。

要するに、新しい法律関係を生んでしまうので、早期確定の観点から対世効のある組織法上の訴えを限定しているのであって、否決されただけだと何も生じていないので早期に確定させないといけない理由はないということです。

要するにもう一度、議案を出せばいいではないかということになります。

もっとも、再提案制限にかかることがあるので、やはり瑕疵があるなら訴えの利益があるのではないかということもいえないではないですが、補足意見で、重大な瑕疵があるなら再提案できると解するべきであり、その当否で争えばよく、否決された決議を取り消すまではないという趣旨が言及されています。

これは、条文上、まさに書いてあるわけではないのですが、判旨の通りと思われます。

そもそもなんとも人を食ったような話で問題となった事案であることから言っても、そもそも問題となること自体が妙なことであったといえるのかもしれません。

最高裁、建物区分所有法の59条競売を請求する権利を被保全権利として、処分禁止の仮処分を申し立てることはできないと判示

建物区分所有法の59条競売の特殊性には、このブログでもすでに何度か取り上げてきたところですが、競売をして区分所有者の所有権を強制的に奪ってしまうものですので、かなり極限的なものと理解されています。

そのような考え方を適用したものとして、59条競売のために処分禁止の仮処分はできないという判例が出ましたので取り上げます。

最高裁判所第二小法廷平成28年3月18日決定 平成27(許)15 仮処分決定取消及び仮処分命令申立て却下決定に対する保全抗告棄却決定に対する許可抗告事件

最高裁は端的に民事保全法に上がっている請求権ではないとしています。

民事保全法53条は同条1項に規定する登記請求権を保全するための処分禁止の仮処分の執行方法について,同法55条は建物の収去及びその敷地の明渡しの請求権を保全するためのその建物の処分禁止の仮処分の執行方法についてそれぞれ規定しているところ,建物の区分所有等に関する法律59条1項の規定に基づき区分所有権及び敷地利用権の競売を請求する権利は,民事保全法53条又は55条に規定する上記の各請求権であるとはいえない。

条文は下記のように被保全権利も明確に記載しており、競売をすることができるという59条競売は確かに異なるとえましょう。

民事保全法

(不動産の登記請求権を保全するための処分禁止の仮処分の執行)

第五十三条  不動産に関する権利についての登記(仮登記を除く。)を請求する権利(以下「登記請求権」という。)を保全するための処分禁止の仮処分の執行は、処分禁止の登記をする方法により行う。

 不動産に関する所有権以外の権利の保存、設定又は変更についての登記請求権を保全するための処分禁止の仮処分の執行は、前項の処分禁止の登記とともに、仮処分による仮登記(以下「保全仮登記」という。)をする方法により行う。

 第四十七条第二項及び第三項並びに民事執行法第四十八条第二項 、第五十三条及び第五十四条の規定は、前二項の処分禁止の仮処分の執行について準用する。

(建物収去土地明渡請求権を保全するための建物の処分禁止の仮処分の執行)

第五十五条  建物の収去及びその敷地の明渡しの請求権を保全するため、その建物の処分禁止の仮処分命令が発せられたときは、その仮処分の執行は、処分禁止の登記をする方法により行う。

 第四十七条第二項及び第三項並びに民事執行法第四十八条第二項 、第五十三条及び第五十四条の規定は、前項の処分禁止の仮処分の執行について準用する。

 

また、59条競売の特殊性について以下のようにも言及して念を押しています。

上記の競売を請求する権利は,特定の区分所有者が,区分所有者の共同の利益に反する行為をし,又はその行為をするおそれがあることを原因として,区分所有者の共同生活の維持を図るため,他の区分所有者等において,当該行為に係る区分所有者の区分所有権等を競売により強制的に処分させ,もって当該区分所有者を区分所有関係から排除しようとする趣旨のもの – 2 – である。このことからしても,当該区分所有者が任意にその区分所有権等を処分することは,上記趣旨に反するものとはいえず,これを禁止することは相当でない。

59条競売をする権利を被保全権利として仮処分ができるようになってしまうと、最終手段とした立法の趣旨が損なわれてしまいますので確かにその通りだと思われます。

しかし、一方で分譲マンションにおける紛争解決には何ら資するところはないわけで非常に悩ましい状況を固定化させるだけなのかもしれません。

最高裁、相続開始後に認知されて相続人となった者が民法910条に基づいて価格の支払請求をする場合の遺産の価格算定の基準時は請求時であり、請求と同時に遅滞となると判示

民法は共有はなるべく早く解消されるべきであるという民法全体を貫いているテーゼを遺産分割の場面にも適用しており、その帰結として一度行った遺産分割の安定性に配慮した制度設計を採用しています。具体的には、遺産分割後に認知によって相続人が増えた場合には、遺産分割のやり直しではなく、価格賠償しかできないという仕組みになっているところに現れています。

 

(相続の開始後に認知された者の価額の支払請求権)

第九百十条  相続の開始後認知によって相続人となった者が遺産の分割を請求しようとする場合において、他の共同相続人が既にその分割その他の処分をしたときは、価額のみによる支払の請求権を有する。

 

さて、このような理論的背景があることを踏まえると、いざこの910条に基づいて価格賠償が請求された場合、遺産の評価はいつの時点にすればよいでしょうか。

遺産分割の一般論としては、分割の価格算定の基準時は、分割時又は審判時の時価とされています。

この一般論からいくと、価格賠償の支払い時になるのかもしれませんが、この点について最高裁が判例を出しましたので取り上げます。

最高裁判所第二小法廷平成28年2月26日 平成26(受)1312 価額償還請求上告,同附帯上告事件

この点について最高裁は以下のように判示しています。

相続の開始後認知によって相続人となった者が他の共同相続人に対して民法910条に基づき価額の支払を請求する場合における遺産の価額算定の基準時は,価額の支払を請求した時であると解するのが相当である。

なぜならば,民法910条の規定は,相続の開始後に認知された者が遺産の分割を請求しようとする場合において,他の共同相続人が既にその分割その他の処分をしていたときには,当該分割等の効力を維持しつつ認知された者に価額の支払請求を認めることによって,他の共同相続人と認知された者との利害の調整を図るものであるところ,認知された者が価額の支払を請求した時点までの遺産の価額の変動を他の共同相続人が支払うべき金額に反映させるとともに,その時点で直ちに当該金額を算定し得るものとすることが,当事者間の衡平の観点から相当であるといえるからである。

以上から、最高裁は、価格支払請求時を基準時としました。

最高裁は以前からこの910条については、価格賠償で済ませる場合を限定的に解してまさに条文に書いてある通りの場面だけとする立場をとっていますので、その意味では基準時についても分割類似のことをするということにはならず、独自の考え方をとるということにつながると思われます。

価格賠償の支払い時にしてしまいますと、この910条がそもそも分割後の話ですので、分割からかなりたっていることになります。すると、時間の経過によって時価がどちらに転ぶのかはわかりませんが、ひとまず分割時の割合を決める根拠とした時価評価とかなり離れてしまうことになります。

そこで、なるべく近づけつつなんとかバランスをとるととなると、請求時ということがぎりぎりになり、それが衡平ということと思われます。

また、いわゆる遅延利息の点も争点となっており、この点については、価格支払請求は期限のない債務であると指摘しています。

民法910条に基づく他の共同相続人の価額の支払債務は,期限の定めのない債務であって,履行の請求を受けた時に遅滞に陥ると解するのが相当である。

いつ来るのか自体わからないものですので、これはその通りですが、評価の時期と離れることも遅延利息によってバランスをとることもできるという点も興味深いと思われます。

分割後に認知で相続人が追加されるということがどれほど発生するかは微妙ですので、本判例の影響は限定的なのかもしれませんが、相続法を貫く考え方に関わる点もあることから理論的には大きな意義を有するものであるように思われます。

東京高裁、いわゆる海外派遣のケースで特別加入していなかった場合でも労災保険の給付を認める

海外勤務の場合の労災適用の可否については、海外出張なら労災適用可、海外派遣なら適用なしとされており、そのかわり特別加入すれば対象となるという制度となっています。

 

労働者災害補償保険法

第四章の二 特別加入

第三十三条  次の各号に掲げる者(第二号、第四号及び第五号に掲げる者にあつては、労働者である者を除く。)の業務災害及び通勤災害に関しては、この章に定めるところによる。

 厚生労働省令で定める数以下の労働者を使用する事業(厚生労働省令で定める事業を除く。第七号において「特定事業」という。)の事業主で徴収法第三十三条第三項 の労働保険事務組合(以下「労働保険事務組合」という。)に同条第一項 の労働保険事務の処理を委託するものである者(事業主が法人その他の団体であるときは、代表者)

 前号の事業主が行う事業に従事する者

 厚生労働省令で定める種類の事業を労働者を使用しないで行うことを常態とする者

 前号の者が行う事業に従事する者

 厚生労働省令で定める種類の作業に従事する者

 この法律の施行地外の地域のうち開発途上にある地域に対する技術協力の実施の事業(事業の期間が予定される事業を除く。)を行う団体が、当該団体の業務の実施のため、当該開発途上にある地域(業務災害及び通勤災害に関する保護制度の状況その他の事情を考慮して厚生労働省令で定める国の地域を除く。)において行われる事業に従事させるために派遣する者

 この法律の施行地内において事業(事業の期間が予定される事業を除く。)を行う事業主が、この法律の施行地外の地域(業務災害及び通勤災害に関する保護制度の状況その他の事情を考慮して厚生労働省令で定める国の地域を除く。)において行われる事業に従事させるために派遣する者(当該事業が特定事業に該当しないときは、当該事業に使用される労働者として派遣する者に限る。)

 

このような仕組みをとっているのは、労災保険が社会保障制度である強制保険であり、主権行為の性格を持っているためであり、それでも海外にいる場合には保護が薄いので特別加入によるオプションを設定しているということになります。

このたび、この特別加入をしておらず、海外の事務所に赴任していて死亡したというケースで労災適用を認めなかった労働基準監督署の判断を、東京高裁が取り消して遺族補償の支給を明示したという裁判例が出ました。

海外勤務に労災適用 東京高裁、遺族が逆転勝訴  :日本経済新聞 2016/4/27 22:41

 海外勤務中の死亡に労災保険が適用されるかどうかが争われた訴訟で、東京高裁(杉原則彦裁判長)は27日、保険を適用できないとした一審・東京地裁判決を取り消し、遺族補償の支給を認めた。赴任先の中国・上海で死亡した男性(当時45)の妻が逆転勝訴した。

(略)

判決によると、男性は2006年、運送会社の上海事務所に首席代表として赴任し、10年に急性心筋梗塞で死亡した。

 中央労働基準監督署は、男性が現地事業所に所属しており「出張中の労災ではない。特別加入もしていない」と遺族補償の支給を認めなかった。

 杉原裁判長は、労災保険の適用について「仕事の内容や国内拠点からの指揮命令などを総合的に判断すべきだ」と指摘。東京の本社に業務の決定権があったことや、出勤簿を本社に出していたことから「男性は実質的には国内の事業所に所属していた」と判断し、労基署の処分を取り消した。

(略)

 

判決全文をまだ確認できていないので、報道からだけで判断しますと、現地の事業所の実態、独立性を問題としている模様です。

そして日本国内の事業所に従属的だとして労災適用の対象としたものと読み取れます。

結論としては救済の範囲を広げるものであり、妥当に感じられないでもないですが、日本の事業所に従属的であるといっても現地に日本の監督官庁の監督権限を及ぼせるわけではないこと、特別加入していない海外派遣中は保険料は徴収されていないはずであることから、保険料なしで保障が受けられることを招きかねないことなど、細かく見ると問題が山積する可能性があります。

もっとも、責任保険であり行政による監督と表裏立体であるという点もどこまで貫くのかというと疑問もないわけではなく、特別加入の制度を設けていることからも保険の性格があることは否定できないわけです。

既存の制度と大きな抵触があるため上告される可能性もかなりあると思われますが、この判断の与えるインパクトというと、そもそも特別加入しておけば直面することもない問題ですので、限定的な意義にとどまるものと思われます。

裁判例情報

東京高裁平成28年4月27日判決

福岡地裁、島根原発等で働いたことで被ばくして心筋梗塞になったとして、労災給付請求したものの不支給決定を受けた元作業員が提起した取消訴訟で請求を棄却

 

上記、tweetの詳細記事をお送りします。

原発労災訴訟:心筋梗塞発症の原告請求棄却 福岡地裁 – 毎日新聞 2016年4月15日 14時04分

原発労働での放射線被ばくが原因で心筋梗塞(こうそく)を発症したとして、福岡市早良区の元溶接工、梅田隆亮さん(81)が国を相手取って労災申請を退けた処分の取り消しを求めた訴訟の判決が15日、福岡地裁であり、山口浩司裁判長(岡田健裁判長代読)は請求を棄却した。

     争点は被ばく線量と心筋梗塞との因果関係だった。原告側は被ばく線量について、事業者の労働管理記録に残っている計8.6ミリシーベルトの数値は実態を反映しておらず低すぎると主張したが、山口裁判長は「証拠がない」と否定。「内部被ばくの量も限られており、放射線被ばくの寄与の程度はわずかなものに過ぎない」と疾病との因果関係を認めなかった。

    (略)

     

    労災とは業務上の理由で傷病にり患したことですが、国によって労災であると認められると労災保険から給付を受けられることになります。業務上とは、業務起因性と業務遂行性のあることで、非常に定性的な要件なのですが、いくつか類型化されているものについては数値基準などからなる認定基準があり、それに合致するとほぼそのまま認定がなされます。

    放射線障害についてはそもそも電離放射線を浴びることによって引き起こされる疾病として、急性放射線障害などいくつかが列挙されています。

    基発第810号昭和51年11月8日 電離放射線に係る疾病の業務上外の認定基準について

     急性放射線障害

     比較的短い期間に大量の電離放射線に被ばくしたことにより生じた障害をいい、これに該当するものは、次のとおりである。

    (1)急性放射線症(急性放射線死を含む。)
    (2)急性放射線皮膚障害
    (3)その他の急性局所放射線障害(上記(1)及び(2)に該当するものを除く。)

     慢性的被ばくによる電離放射線障害

     長期間にわたり連続的又は断続的に電離放射線に被ばくしたことにより生じた障害をいい、これに該当するものは、次のとおりである。

    (1)慢性放射性皮膚障害
    (2)放射線造血器障害(白血病及び再生不良性貧血を除く。)

     電離放射線による悪性新生物

     電離放射線に被ばくした後、比較的長い潜伏期間を経て現われる悪性新生物をいい、これに該当するものは、次のとおりである。

    (1)白血病
    (2)電離放射線の外部被ばくによって生じた次に掲げる原発性の悪性新生物
      イ 皮膚がん
      ロ 甲状腺がん
      ハ 骨の悪性新生物
    (3)電離放射線の内部被ばくによって生じた次に掲げる特定臓器の悪性新生物
      イ 肺がん
      ロ 骨の悪性新生物
      ハ 肝及び胆道系の悪性新生物
      二 甲状腺がん

     電離放射線による退行性疾患等

     上記1から3までに掲げる疾病以外の疾病で、相当量の電離放射線に被ばくしたことによって起こり得るものは、次のとおりである。

    (1)白内障
    (2)再生不良性貧血
    (3)骨壊疽(えそ)、骨粗鬆症
    (4)その他身体局所に生じた線維症等

     

    上記を見る限り、心筋梗塞のような疾患はただちには該当してこないため、労基署の判断としては、個別に業務起因性が立証されないと労災とは認められないという対応をとると考えられることから本件のような事態になっているものと思われます。

    訴訟では被ばく量に関する実態が放射線管理手帳と異なるなどとする点も争点となったことが伺われるのですが、従事期間が短いことや作業内容も当然検討しますのでそれらが影響した事実認定がされているものと考えられます。

    また、その前にそもそもこの疾患になるのかどうかも論点になりそうです。

    裁判例情報

    福岡地裁平成28年3月15日

    東京地裁、アマゾンジャパンに対して、アマゾンのウェブサイトに中傷の書き込みをした投稿者の氏名・住所等の個人情報の開示を命令

    インターネット上に書き込まれた投稿によって名誉棄損などの被害を受けた場合、インターネットの匿名性ゆえに誰がやったのか自体を調べるところから対応をはじめないといけません。

    このためにプロバイダ責任法があり、これによる実例の集積は相当あるのですが、実際のところ、非常に手間がかかる、割に合わない負担というのが現実となっています。

    これは、まずは、サイトの運営者にIPアドレスの開示を求めて、その後、そのIPアドレスをもとにプロバイダに書き込みをした者の情報の開示を求めるという二段階の手間がいるためです。

    このたび、このような現状からみると非常に特異な事例が発生したことが明らかになりました。

     

    アマゾンに開示命令 中傷書評の投稿者情報巡り東京地裁  :日本経済新聞 2016/4/11 11:40

    通販大手アマゾンジャパン(東京・目黒)のサイトに投稿された書評によって社会的評価が低下したとして、本の著者側が同社に投稿者情報の開示を求めた訴訟の判決があり、東京地裁が投稿者の氏名や住所、メールアドレスの開示を命じていたことが11日までに分かった。裁判所がプロバイダー(接続業者)以外に利用者情報の開示を命じるのは異例。

     判決は3月25日付で、同社が控訴しなかったため11日までに確定した。

    (略)

    裁判例全文に当たれていないので、報道から検討するしかないのですが、上記で書いたような現状と比較すると、サイト運営者であるアマゾンに、個人情報まで含めて開示を求めることができた、二度手間が一度で済んだという一点ということになります。

    これは、アマゾンが通販業者であることから、サイト運営者でありながら個人情報まで有しているという事情によるものです。

    また、もう一点、上記報道では出てこないものの重要な点があったことが明らかになっています。

    それは、アマゾンジャパンが管理していることをアマゾンが認めたということで、アマゾンの米国法人に対する訴えでなくてよくなったという点です。

    外国法人を訴えるのは、そもそも送達が大変ですし、判決が出てもその執行が非常に難しいため、実効性が極めて低くなるのですが、内国法人に対する訴訟で済むためこれは非常に便利になります。

    一般的にインターネットで行われている事業は、ウェブサイトは日本語でも運営しているのは外国法人ということはままあるのですが、アマゾンは日本法人に情報があることを認めたため、今回の結論に至っているわけです。

    すると、本件は画期的ではありますが、アマゾンの特殊事情によるところが非常に大きいわけで、プロバイダ責任法上の実務が画期的に変わるわけではないということになりそうです。

    もっともこの件があった以上、アマゾンのウェブサイト上でのレビューの記述には慎重さが必要だと考える向きもあるのかもしれませんが、それは別論といえましょう。

    裁判例情報

    東京地裁平成28年3月25日判決