判例・裁判例

最高裁、抵当権の被担保債権が免責許可決定を受けた場合、当該抵当権は民法396条の適用は受けず、20年の消滅時効にかかると判示

抵当権は、民法396条によって被担保債権と同時でなければ時効消滅しないと定められています。

これは、担保にするために抵当権を設定しているのに先に時効消滅してしまっては意味がないのと、自らの債務の履行は怠りながら、抵当権の消滅を主張することは信義則に反するからとされています。この信義則という点から、396条は債務者及び物上保証人に対してと対象を限っています。

 

(抵当権の消滅時効)

第三百九十六条 抵当権は、債務者及び抵当権設定者に対しては、その担保する債権と同時でなければ、時効によって消滅しない。

 

この度、被担保債権が債務者の破産とその後の免責許可決定によって、債務としては究極的に弁済しなくてよくなったために、根抵当権の帰趨が問題となるという事案について判例が出されました。

最高裁判所第二小法廷 平成30年2月23日判決 平成29(受)468 建物根抵当権設定仮登記抹消登記手続請求事件

原判決は、396条を形式的に適用して、免責許可決定が出ると消滅時効の進行が観念できないとして、被担保債権が時効消滅しないので、ずっと存続するという帰結を導いていました。

これに対して最高裁は、消滅しない抵当権を民法が想定しているとは考え難いとして、民法396条は被担保債権たる債権に消滅時効が観念されない場合には適用はないとして、消滅時効の原則に戻り、債権または所有権以外の財産権に該当するとして、20年の消滅時効にかかるとしました。

消滅時効がなく永遠に存続する所有権以外の財産権があってもおかしくないとは思いますが、それが被担保債権について免責許可決定が出た場合の抵当権というのではいくらなんでも特殊過ぎ、むしろ抵当権だけ永遠に存続するというのはどういうことなのかと疑問に考えられますので、消滅時効がないことを正当化する理由がなく、最高裁の言うとおりだと思われます。

最高裁、滞納処分による差押後、競売開始前に設定された賃借権により使用収益する者は、民法395条の競売手続の開始前から使用収益する者に該当すると判示

民法395条に抵当権に対抗できない抵当建物使用者の引渡しの猶予についての条文がありますが、この条文に該当する例について判示した最高裁判決が出ましたので取り上げます。

最高裁判所第三小法廷平成30年4月17日決定 平成30(許)3 不動産引渡命令に対する執行抗告審の取消決定に対する許可抗告事件

民法395条には、昔悪名高かった短期賃貸借に代わって、抵当権に対抗力がない建物を使用収益する者は、引渡しの猶予だけが認められているとする規定があります。

 

(抵当建物使用者の引渡しの猶予)

第三百九十五条 抵当権者に対抗することができない賃貸借により抵当権の目的である建物の使用又は収益をする者であって次に掲げるもの(次項において「抵当建物使用者」という。)は、その建物の競売における買受人の買受けの時から六箇月を経過するまでは、その建物を買受人に引き渡すことを要しない。

一 競売手続の開始前から使用又は収益をする者

二 強制管理又は担保不動産収益執行の管理人が競売手続の開始後にした賃貸借により使用又は収益をする者

2 前項の規定は、買受人の買受けの時より後に同項の建物の使用をしたことの対価について、買受人が抵当建物使用者に対し相当の期間を定めてその一箇月分以上の支払の催告をし、その相当の期間内に履行がない場合には、適用しない。

 

それほど大きな効力はなさそうなのですが、この条文が問題となる事件が起きました。

要するに本件は、抵当権の設定後に設定された賃貸借によって使用収益が開始され、その後、担保権実行がされたという事案なのですが、本来なら引渡し猶予となりそうなのですが、この賃貸借が滞納処分による差し押さえの後に設定された点をとらえて、395条の競売の開始前から使用収益をする者に当たらないと主張して、直ちに引き渡しを求めたというものです。

これに対して最高裁は、引渡し猶予の制度には特別な効果があることから、要件の明確性が必要であることを指摘して、抗告を棄却しました。

要件の明確性の点から、滞納処分に劣後することは、競売開始前から使用収益していないことにはならないと判断したわけです。

滞納処分と競売の手続自体はさすがに異なるため、これはその通りでしょう。

実質的に考えてみても、差押えの段階ではまだ使用収益する権利は失われない一方、民法395条によって一つのターニングポイントにされている競売手続開始は、ここからある意味、使用収益に制限がかかる時点ということですので、別物と考えるほかないでしょう。

差押えが租税滞納処分によるものであったとしても、国税徴収法69条から使用収益は原則可能になっていることから、性質がそれほど変わるわけではないわけです。

民法395条についての初めての判例だと思われまして、その意味では興味深いですが、ある意味、条文通りの帰結であったといえるように思われます。

大阪高裁、別居中の妻が凍結保存された受精卵を用いて夫の同意なく出産した場合でも、嫡出は推定されるとして、父が親子関係不存在確認訴訟で争うのは不適法と判示

何を言っているのかわからないタイトルになって申し訳ないですが、家族法分野において興味深い判決がありましたので取り上げます。

父子関係再び認定 凍結卵無断出産、大阪高裁  :日本経済新聞 2018/4/26 18:20

別居中だった元妻が凍結保存していた受精卵を無断で使って女児を出産したとして、奈良県在住の外国籍の40代男性が女児との間に父子関係がないことの確認を求めた訴訟の控訴審判決で、大阪高裁(江口とし子裁判長)は26日、訴えを却下した一審・奈良家裁判決を支持し、男性側の控訴を棄却した。男性側の代理人弁護士は上告する方針を示した。

 江口裁判長は判決理由で、元妻が女児を妊娠した2014年7月ごろ、男性は別居中だったが、長男を含めた3人で外出するなどしており「夫婦の実態が失われていたとはいえない」と指摘。男性が受精卵の母体移植に同意していないことは、妻が婚姻中に妊娠した子を夫の子とする民法の「嫡出推定」を否定する理由にはならないと判断した。

 一審判決は生殖補助医療で生まれた子と夫の間に法的な父子関係を認めるためには、夫が受精卵の移植に同意していることが必要との判断を示した。控訴審判決はこの点に言及しなかった。

 判決などによると、男性は04年に元妻と結婚。10年、奈良市のクリニックで体外受精を行い、複数の受精卵を凍結保存した。一部の受精卵を使い、11年に長男が生まれたが、13年に別居。元妻は14年、男性に無断で残りの受精卵を移植し、15年に女児を出産。16年に離婚が成立した。

 

実のところ、法的には争い方の選択について判示しているだけで親子関係を認定したのとは異なるため、上記報道のタイトルは若干ミスリードなのではないかと思われます。

本件は要するに、父親の側から親子関係を争う場合の事件なのですが、そもそもの出生が体外受精によって凍結保存された受精卵を使用した出産であったという事情がある場合というものです。

婚姻中に懐胎して出生した子について、父親の方から親子関係を争う場合には、嫡出推定がされている場合には、嫡出否認の訴えであり提訴期間の制限がありますが、嫡出推定が働かない場合には、親子関係不存在確認の訴えで争うことになり提訴期間の制限がないことになります。

本件では、提訴期間の問題があることから親子関係不存在確認訴訟で争える場合であるという主張がなされた事件と考えられます。

すると形式的には婚姻中の懐胎であるものの嫡出推定が及ばないことを主張しないといけないわけですが、嫡出推定が及ばないことは、伝統的には、その間はすでに婚姻関係が破たんしていたとか、長期にわたる出張などで接触がなかったなどという場合が例として挙げられているわけです。

しかし本件は以前の体外受精による凍結保存した受精卵ということであり、その時には婚姻関係が破たんしていたとかそのようなことはおよそないと考えられるわけで、伝統的な議論が全く妥当しないわけです。

そこで、原判決は体外受精の場合については夫の同意などの要件を考案することを試みていたようなのですが、本件では生物学的には父親である点も踏まえてだと思うのですが、原則論を採用したということと見受けられました。

この分野は生殖医療の進歩などにまったく追いついてないとよく指摘されているところですが、本件はひとまず生物学的な意味を重視しつつ、親子関係を固定化して安定を図るという点も併せ持っている民法の考え方に依拠すると導かれる結論になったといえそうです。

裁判例情報

大阪高裁平成30年4月26日判決

松山地裁、井関農機のグループ会社の契約社員が手当や賞与の不支給を違法と主張して提訴した損害賠償請求訴訟で、手当について不合理な待遇格差であるとして約232万円の支払を命じる

いわゆる労働契約法20条訴訟で新たな裁判例が出ました。

違法格差認め手当支払い命令 井関農機グループ2社に  :日本経済新聞 2018/4/25 7:39

正社員と同じ業務なのに、手当が支払われず賞与に格差があるのは違法だとして、井関農機(松山市)のグループ会社2社の契約社員5人が2社に計約773万円の支払いなどを求めた訴訟の判決で、松山地裁(久保井恵子裁判長)は24日、手当の不支給を違法と認め、計約232万円の支払いを命じた。賞与については認めなかった。

 訴えていたのは「井関松山ファクトリー」の2人と「井関松山製造所」の3人で、訴訟としては2件。

 久保井裁判長はそれぞれの判決で、契約社員と正社員の間で「業務の内容に大きな相違があるとはいえない」と認定。住宅手当や家族手当の他、年齢に応じて生活費を補助する物価手当、欠勤がない場合に支払われる精勤手当の不支給は、労働契約法20条で禁じる「不合理な待遇格差」に当たるとした。

 一方、賞与の格差については契約社員も10万円程度が「寸志」として年2回支払われており、「有為な人材の獲得と定着のために一定の合理性が認められる」などとし、違法性を否定した。

(略)

判決全文については確認できていないのですが、業務の内容に大きな相違があるとは言えないとしたとされていますが、結論は一部認容なので、違いについても認定しているところがあるものと思われます。

また、手当は違法としつつ、賞与については寸志としての支給があることから違法としなかった点は注目に値すると思われます。

もっとも、住宅手当、家族手当、生活費の補助の物価手当、精勤手当などはどれもかなり伝統的な手当であり、業務や職務と直結しない手当の項目が多数並んでいるという点からして労務管理としてどうなのだろうかという感じがしないでもありません。

 

 

最高裁、ハマキョウレックス事件で弁論を開く 判決は長澤運輸事件と同じく6月1日

正規従業員と非正規従業員の基本給や手当の違いが労働契約法20条の問題となっている事件の先行事例にあたるハマキョウレックス事件の最高裁での弁論が開かれました。判決は6月1日に指定され、長澤運輸事件と同日になることが決まりました。

正社員と契約社員の待遇差 最高裁で弁論  :日本経済新聞 2018/4/23 17:45

業務内容が同じなのに、正社員と契約社員で賃金や手当に差をつけることの是非が争われた訴訟の上告審で、最高裁第2小法廷(山本庸幸裁判長)は23日、当事者の主張を聞く弁論を開いた。判決は6月1日。正社員と非正社員の待遇に不合理な差をつけることを禁じた労働契約法20条の解釈を巡り、最高裁は初の判断を示すとみられる。

 原告は、物流大手「ハマキョウレックス」(浜松市)の契約社員の男性運転手。2016年7月の二審・大阪高裁判決は、「通勤手当」や「無事故手当」など4種類の手当について、正社員との格差を不合理と指摘。同社に差額分計77万円の支払いを命じた。

 原告側はこの日の弁論で、同法20条の適用について「職務内容という客観的な要素を最も重視すべきで、合理的に説明できない格差は原則無効と解釈すべきだ」と主張。「正規労働者と非正規労働者の不合理な格差は、放置できない状況になっている」と訴えた。

 一方、会社側は「人手不足が深刻ないま、人材獲得のため正社員に手当を支給したり福利厚生を充実させたりすることは、会社の合理的な裁量の範囲内にある」と主張。各種手当の差は不合理ではないと述べた。

(略)

 

労働契約法20条をめぐる訴訟は、実際のところ、職務内容や人事の範囲を検討した結果、完全に同じということはそうはないことと、その違いを基本給の金額に換算していくらということを説得的に言いにくいということもあり、結果、たどり着いたのが手当であり、手当の趣旨が妥当するかが主戦場になってしまうという状況を生んでいます。現在用意されている立法でも、この判断枠組みを一般化する方向であるので、最高裁の判断もこの中において、統一的な判断基準を示すのではないかと私見では予想しています。

ちなみに手当が主戦場になってしまうというのは、比較法的には結構、珍しい事態であるほか、そもそも近時、成果主義的な賃金制度が徐々に浸透してきており、手当を整理する方向が出てきているため、そもそも論的に限界のある話なのではないかという印象があります。

東京地裁、多摩テックの跡地開発をめぐって三菱商事が明治大学を提訴した損害賠償請求訴訟で、明治大学に約8億3900万円の支払を命じる一部認容の判決

三菱商事、多摩テックの跡地開発をめぐって明治大学を提訴 | Japan Law Expressの続報です。

東京地裁で判決が出まして、明治大学に約9億3900万円の支払を命じる一部認容となりました。

明大に8億円支払い命令…多摩テック跡地訴訟 : 社会 : 読売新聞(YOMIURI ONLINE) 2018年04月21日 16時53分

自動車遊園地「多摩テック」(東京都日野市)の跡地にスポーツ施設を建てる明治大の計画が頓挫して損害を被ったとして、三菱商事が明大に約62億5000万円の支払いを求めた訴訟の判決が20日、東京地裁であった。

 田中秀幸裁判長は請求の一部を認め、約8億3900万円を支払うよう明大に命じた。

 判決によると、同社は明大に売却する前提で2013年4月までに跡地を購入したが、同年10月に計画は頓挫。同社側は訴訟で、跡地の購入価格の1・4倍で明大が買い取る契約だったと主張した。判決は契約の成立を認めなかったが、「明大は事後処理として跡地を買い取る可能性を誠実に協議する義務を怠った」などとして同社の損害を認定した。

 

判決全文は確認できていないのですが上記報道から行きますと、三菱商事が開発後に明治大学が買い取るとされたスキームについて、契約として成立していないと判断した模様です。

請求額に対して認容額が非常に低いことから行っても、履行利益賠償ではないを考えられ、実質的には明治大学の主張が認められた判決と言えると思われます。

 

裁判例情報

東京地裁平成30年4月20日判決

被保佐人となったことで警備員の失職を余儀なくされたとして、元警備員の男性が警備業法所定の警備員の制限を違憲として国家賠償請求訴訟と会社に対して地位確認の訴えを提起

憲法訴訟と労働訴訟を共同訴訟にした訴訟が提起された模様でして、特徴的なので取り上げます。

成年後見利用で失職は違憲、岐阜の警備員男性が提訴  :日本経済新聞 2018/1/10 11:39 (2018/1/10 13:43更新)

成年後見制度利用者の就業を認めない警備業法の規定は、職業選択の自由を保障した憲法に違反するなどとして、勤務先の警備会社を退職せざるを得なくなった岐阜県の30代男性が10日、国に100万円の損害賠償と、会社に社員としての地位確認を求める訴訟を岐阜地裁に起こした。

 男性の代理人弁護士によると、男性は軽度の知的障害がある。2014年4月から県内の警備会社で警備員として勤務していたが、家族間のトラブルに悩んでいたことから、17年2月に成年後見制度を利用し、障害者支援団体を「保佐人」として自身の財産管理を任せるようになった。

 その後、会社から、警備業法の規定で制度の利用者は勤務を続けられないとの指摘を受け、同3月に退職を余儀なくされたという。

(略)

問題とされているのは、以下の規定です。

警備業法

(警備業の要件)

第三条 次の各号のいずれかに該当する者は、警備業を営んではならない。

一 成年被後見人若しくは被保佐人又は破産者で復権を得ないもの

二 禁錮以上の刑に処せられ、又はこの法律の規定に違反して罰金の刑に処せられ、その執行を終わり、又は執行を受けることがなくなつた日から起算して五年を経過しない者

三 最近五年間に、この法律の規定、この法律に基づく命令の規定若しくは処分に違反し、又は警備業務に関し他の法令の規定に違反する重大な不正行為で国家公安委員会規則で定めるものをした者

四 集団的に、又は常習的に暴力的不法行為その他の罪に当たる違法な行為で国家公安委員会規則で定めるものを行うおそれがあると認めるに足りる相当な理由がある者

五 暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律(平成三年法律第七十七号)第十二条若しくは第十二条の六の規定による命令又は同法第十二条の四第二項の規定による指示を受けた者であつて、当該命令又は指示を受けた日から起算して三年を経過しないもの

六 アルコール、麻薬、大麻、あへん又は覚醒剤の中毒者

七 心身の障害により警備業務を適正に行うことができない者として国家公安委員会規則で定めるもの

八 営業に関し成年者と同一の行為能力を有しない未成年者。ただし、その者が警備業者の相続人であつて、その法定代理人が前各号及び第十号のいずれにも該当しない場合を除くものとする。

九 営業所ごと及び当該営業所において取り扱う警備業務の区分(前条第一項各号の警備業務の区分をいう。以下同じ。)ごとに第二十二条第一項の警備員指導教育責任者を選任すると認められないことについて相当な理由がある者

十 法人でその役員(業務を執行する社員、取締役、執行役又はこれらに準ずる者をいい、相談役、顧問その他いかなる名称を有する者であるかを問わず、法人に対し業務を執行する社員、取締役、執行役又はこれらに準ずる者と同等以上の支配力を有するものと認められる者を含む。)のうちに第一号から第七号までのいずれかに該当する者があるもの

十一 第四号に該当する者が出資、融資、取引その他の関係を通じてその事業活動に支配的な影響力を有する者

 

(警備員の制限)

第十四条 十八歳未満の者又は第三条第一号から第七号までのいずれかに該当する者は、警備員となつてはならない。

2 警備業者は、前項に規定する者を警備業務に従事させてはならない。

 

警備業法14条1項で端的に成年被後見人、被保佐人は、警備業を営めない欠格事由の一部を準用するかたちで警備員になれないとされており、これを職業選択の自由に反して憲法違反としているものです。

憲法訴訟としての争い方なども興味深いところですが、仮に違憲だったとしても、この方は解雇されたのか、やむを得ず自主的に退職したのかによっても、結論に影響が出てきそうに感じられます。

いずれにせよ非常に珍しい種類の問題であるといえましょう。

京都地裁、後見開始の審判をした家庭裁判所が成年後見人の事務の遂行状況を確認しなかったため、成年後見人が被後見人の預金払戻しを繰り返し多額の使途不明金を発生させたとして提起した国家賠償請求訴訟で、一部認容をして1300万円の支払を命じる

成年後見人による被後見人の財産の使い込みが問題視されるようになって久しいですが、使い込みについて、国の責任を肯定した裁判例が出ましたので取り上げます。

成年後見人の財産管理で使途不明金「家事審判官の監督責任」認定…国に1300万円賠償命令 京都地裁 – 産経WEST 2018.1.10 19:10

 成年後見人の財産管理で多額の使途不明金が生じたのは、京都家裁の家事審判官(裁判官)や調査官が監督を怠ったからだとして、京都府に住む被後見人の女性の兄が国に4400万円の損害賠償を求めた訴訟の判決で、京都地裁(久保田浩史裁判長)は10日、家事審判官の責任を認め、国に約1300万円の支払いを命じた。

 判決によると、女性の後見人は継母で、平成元年から女性が亡くなるまで約20年間、財産を管理。兄は女性の遺産相続人だった。継母は女性の預金口座から払い戻しを繰り返し、19年(2007年)3月以降で1900万円余りの使途不明金があったが、家事審判官は「後見事務の遂行状況は良好」などとして事態を把握せず、確認をしなかった。継母は2012年に死亡した。

 久保田裁判長は、家事審判官が19年(2007年)以降、継母の事務が適切に行われているか確認しなかったことを「成年後見人の監督の目的、範囲を著しく逸脱した」と指摘。継母はそれ以前にも使途不明金や不適切な支出が指摘されていたことを踏まえ、「確認の手続きを取っていれば、不適切な支出を防止できた」とした。

(略)

成年後見人の監督義務怠る 国に賠償命令 | NHKニュース 1月11日 0時53分

8年前に亡くなった女性の遺族が生前、成年後見人だった義理の母親に預金を繰り返し引き出されて使途不明となったのは、家庭裁判所の家事審判官などが後見人の監督義務を怠ったからだと訴えていた裁判で、京都地方裁判所は家事審判官の責任を認めて国におよそ1300万円の賠償を命じました。

8年前の平成22年(2010年)に70代で亡くなった女性は生前、成年後見人だった義理の母親に預金を繰り返し引き出されて使途不明となりました。
これについて、相続人である京都府に住む女性の兄が、家庭裁判所の家事審判官だった裁判官などが後見人を監督する義務を怠ったからだとして、国に対し4400万円の賠償を求める裁判を起こしていました。

 

成年被後見人がなくなり、その後、後見人もなくなったのですが、被後見人の相続人が後見人による使い込みと思われる事態を受けて、すでに後見人がなくなっていることから、国を監督義務違反を主張して訴えたという事案のようです。

現時点で判決全文が公開されていませんので詳細が不明なのですが、後見監督人の選任されていない事例である模様です。

後見人による使い込みについて国の監督責任を認めるということになりますと、大変大きな意味がありそうな事案ですが、本件では、かねてより使途不明金や不適正な支出や指摘されていた模様で、その情報に接しながら何もしなかったのは、不作為の違法があるという判断だと思われます。

従いまして、失われた被後見人の財産の回復に国の責任追及をすればよいという簡単な話にはならないと思われます。

裁判例情報

京都地裁平成30年1月10日判決

最高裁、親権者である父が、監護権を有しない母のもとで養育されている子について、親権に基づく妨害排除請求権を被保全権利として仮処分申立てした事案で、母による監護が相当ではないことの疎明がない場合においては、当該申立ては権利濫用と判示

いわゆる子の引渡しの紛争類型には、大別して二種類の裁判手続きが可能とされています。

一つ目は家事事件手続法所定の子の監護に関する処分に関する審判手続きですが、この他にも、法律上明文の規定はないのですが、親権に基づく妨害排除としての子の引渡し請求ができるとされており、判例にもできることを前提として判示をしたものがあります。

このたび、家事事件手続法の手続きをとらずに、親権に基づく妨害排除請求権を被保全権利として仮処分命令の申立てをして、子の引渡しを求めた事案で判例が出ましたので取り上げます。

最高裁判所第三小法廷平成29年12月5日決定 平成29(許)17  子の引渡し仮処分命令申立て却下決定に対する抗告棄却決定に対する許可抗告事件

原決定は、このような争い方について、家事事件手続法の手続保障の趣旨を没却するという点を考慮して、不適法として却下したのですが、最高裁は、手続自体は可能としつつも、権利濫用として、原決定を結論において是認しました。

離婚した父母のうち子の親権者と定められた一方は,民事訴訟の手続により,法律上監護権を有しない他方に対して親権に基づく妨害排除請求として子の引渡しを求めることができると解される(最高裁昭和32年(オ)第1166号同35年3月15日第三小法廷判決・民集14巻3号430頁,最高裁昭和45年(オ)第134号同年5月22日第二小法廷判決・判例時報599号29頁)。

もっとも,親権を行う者は子の利益のために子の監護を行う権利を有する(民法820条)から,子の利益を害する親権の行使は,権利の濫用として許されない。本件においては,長男が7歳であり,母は,抗告人と別居してから4年以上,単独で長男の監護に当たってきたものであって,母による上記監護が長男の利益の観点から相当なものではないことの疎明はない。そして,母は,抗告人を相手方として長男の親権者の変更を求める調停を申し立てているのであって,長男において,仮に抗告人に対し引き渡された後,その親権者を母に変更されて,母に対し引き渡されることになれば,短期間で養育環境を変えられ,その利益を著しく害されることになりかねない。他方,抗告人は,母を相手方とし,子の監護に関する処分として長男の引渡しを求める申立てをすることができるものと解され,上記申立てに係る手続においては,子の福祉に対する配慮が図られているところ(家事事件手続法65条等),抗告人が,子の監護に関する処分としてではなく,親権に基づく妨害排除請求として長男の引渡しを求める合理的な理由を有することはうかがわれない。

 

権利濫用という一般条項になるのはかなり刺激的ではありますが、家事事件手続法の制定によって法理上できなくなったと解することまでは難しいと思われますので、条文に書いていないとしても、親権に基づく妨害排除請求のルートも認めざるを得ないと思われます。そこで、極めて補充的にしか認められない趣旨を述べて、家事事件手続法の手続がある以上、監護が相当でないなどあえてそちらをとらないといけない理由がない限りは、手段の選択を許すわけではないという結論になったものと言えましょう。

最高裁、強制わいせつ罪の「わいせつな行為」の意義について、性的意図を不要とする旨の判例変更へ

最高裁が強制わいせつ罪の被告事件で大法廷を開き、判例変更を行う方向になっています。

強制わいせつ罪の判例変更へ 「性的意図」なく成立  :日本経済新聞 2017/10/18 11:57

金を得る目的で児童ポルノを撮影し女児にわいせつな行為をしたとして、強制わいせつ罪などに問われた男(40)の上告審弁論が18日、最高裁大法廷(裁判長・寺田逸郎長官)で開かれ、結審した。年内にも言い渡される判決では、同罪の成立には「性的な意図」が必要とした過去の判例が変更される見通し。

 最高裁は1970年の判例で、強制わいせつ罪成立の要件として「性欲を満足させる性的な意図が必要」と判断したが、今回の事件の一、二審判決は判例に反して成立を認め、弁護側が判例違反を理由に上告した。

18日の弁論で、検察側は「性犯罪に厳正に対処するためには70年の判例が妥当性を欠くものとなっている」と主張。仮に被告に性的な意図がなくても強制わいせつ罪が成立するとして、上告棄却を求めた。

 弁護側は「性的な意図がなくても成立するなら、児童に対する医療行為や育児行為が処罰対象になるような不都合が生じる」と述べ、二審判決の破棄を求めた。

 一、二審判決によると、被告は別の男から金を借りる条件として児童ポルノの送信を要求され2015年、女児の下半身を触るなどした。被告自身の性的な意図は認められなかった。児童ポルノ禁止法違反罪にも問われ、有罪となっている。

(略)

 

刑法

(強制わいせつ)

第百七十六条 十三歳以上の男女に対し、暴行又は脅迫を用いてわいせつな行為をした者は、六月以上十年以下の懲役に処する。十三歳未満の男女に対し、わいせつな行為をした者も、同様とする。

 

強制わいせつの条文は上記のとおりなのですが、「わいせつな行為」の要件について、判例は性的な意図といういわば主観的要件を必要としています。

もっとも、本当の意味で主観的要件がいるというわけではなく、強制わいせつの保護法益である性的自由は、本人の性的自由であって、他人の性的自由ではないため、相手のいる類の性的行為になるはずだからということから、解釈として導かれていたものです。

このため、性的な目的ではなく単なる虐待、侮辱の類は入らないという結論になるわけです。

ここから考えますと、本件でも、従来の解釈のままでも、被告に性的な意図はなくても、その後には、性的な意図があるように感じられるので、それを受けて被告が行為している以上、入りそうに考えられないでもないです。

しかし、これはとりもなおさず、客観的に本人の性的自由を侵害する行為には、行為者たる被告に性的意図がない場合もあることが明らかになったということなのでしょう。