刑事法事情

東京労働局、ABCマートで36協定で定めた上限時間を超える時間外労働があったとして、同社、人事担当役員及び従業員を東京地検に送検

靴販売の大手であるABCマートが、労働基準法違反で送検されたことが明らかになりました。

同社のプレスリリース

ABCマートで違法残業、運営会社など書類送検 : 社会 : 読売新聞(YOMIURI ONLINE) 2015年07月02日 22時34分

靴販売チェーン「ABCマート」の2店舗で社員4人に違法な残業をさせたとして、東京労働局過重労働撲滅特別対策班は2日、運営会社「エービーシー・マート」(東京都渋谷区)と労務担当役員(51)ら3人を労働基準法違反容疑で東京地検に書類送検した。

 東京労働局によると、同社は昨年4~5月、「Grand Stage池袋店」(東京都豊島区)で男性社員2人を、同法が定める労働時間の上限(週40時間)を超えて働かせ、「ABC―MART原宿店」(渋谷区)でも男女社員2人を、労使協定で定めた残業時間(月79時間)を超えて残業させた疑い。

 

上記報道では触れられていませんが、日経の報道によると割増賃金の支払い自体は適切に行われていたということが明らかになっています。したがって、本件はよくある割増賃金の未払いという労基法違反ではなく、法定労働時間に違反したことという労基法違反になります。

36協定の上限を超えて労働をさせた場合の刑事法上の問題については最高裁判決がありまして、下記の従前の記事をご覧ください。

最高裁、36協定を超えて時間外労働をさせた場合の労基法32条違反の罪について判示 | Japan Law Express

単純に言いますと、36協定の上限を超えて労働させた場合、労働基準法36条違反になりますが、36協定班になった場合には罰則がついていません。しかし、この場合は法定労働時間を定めた労働基準法32条違反になるということです。これは非常に重要な知識であると思われます。

 

本件ではいくつか注目したいポイントがあります。

1 送検の主体

まず、送検の主体として、東京労働局となっていることです。

労働基準法違反での送検の場合、報道される際には担当の労働基準監督署の名前が出るのですが、上位組織である東京労働局の名前が出ているのは、本件を扱ったのが、東京労働局過重労働撲滅特別対策班という特別組織であるためと思われます。

逆に言いますと、このような組織があり、重点的に取り締まりをしている以上、割増賃金の未払いや過重労働による労災の発生がなくても送検となったということも言えるかと思われます。

上記プレスリリースによると、同社ではすでに労働時間管理を改善したとされており、現在は問題ないとしています。それでも送検となったのは、認識の相違があったのか、特に送検したい事情があったのか気になるところです。

また、この延長上の問題として、不起訴処分になるのかが気になるところです。

割増賃金の未払いというようなもんでいあると、支払えば不起訴処分ということは往々にしてありますが、本件の場合、被害回復のしようがないため、これ以上、情状を積み重ねることが難しいように思われます。

すると宥恕しかないのかもしれませんが、難しいものがあるといえそうです。

2 送検対象者

また、両罰規定があるため人も送検の対象となりますが、送検の対象者として、人事担当役員と従業員2名となっており、会社の代表者が含まれていないことです。

これは割増賃金の支払い自体は適切に行われていたということで労働時間管理の問題だけであったことに起因していると思われます。

 

有名企業の送検事例としてセンセーショナルに取り上げられて非常に衝撃的でしたが、その内容も詳しく見ると大変、重大なものを含んでおり、労働時間管理、労働基準法違反についての再認識が必要といえそうです。

経済産業省、「産業構造審議会 知的財産分科会営業秘密の保護・活用に関する小委員会」、中間とりまとめを公表 不正競争防止法の改正の方向性を打ち出す

不正競争防止法の改正の方向性については、すでにお伝えしていますが、中間とりまとめの形で内容がまとめられましたので取り上げます。

産業構造審議会 知的財産分科会 営業秘密の保護・活用に関する小委員会-「中間とりまとめ」について(METI/経済産業省)

簡単にまとめると以下の通りです。

  1. 営業秘密の不正取得・領得の国外犯処罰規定の新設
  2. 営業秘密の取得及び使用・開示行為について、未遂処罰化
  3. 営業秘密の転得者の処罰規定の新設
  4. 営業秘密侵害品(営業秘密を不正に使用して生産された物品)であることを知って、故意でそれを譲渡・輸出入等する行為を処罰対象化
  5. 罰金刑の引き上げ
  6. 営業秘密侵害罪の非親告罪化
  7. 民事訴訟における被害企業の立証負担の軽減
  8. 営業秘密侵害行為の差止請求権について除斥期間を20年に延長
  9. 営業秘密侵害品について譲渡・輸出入等する行為を差止・損害賠償の対象化

中間とりまとめでは上記の5の罰金刑については、金額までは明記されていませんが、報道では10億円とする方向と報道がされています。また、5の関連で「海外重課」と言及されていますが、海外の企業が行った場合には重く取り扱うことも中間とりまとめで言及されています。利益没収についても規定を置くことが明記されています。

営業秘密というと技術的なものがまず想起され、実際に大きな問題となって金額も巨額の損害賠償となって顕在化しているのは技術情報なのですが、顧客情報等も入ることから、人事労務管理の問題にもなるところです。

問題状況は広いということも再確認したいところです。

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ヤマザキマザックの機密情報不正取得事件で中国籍の元社員に有罪判決

すでにこのブログでも取り上げたことのあるヤマザキマザックの機密情報不正取得事件ですが、改正不正競争防止法の初適用で注目されたところ、有罪判決が出たことが明らかになりました。

ヤマザキマザック 中国人元社員有罪 情報不正取得 – SankeiBiz(サンケイビズ) 2014.8.21 04:30

工作機械大手ヤマザキマザック(愛知県大口町)から部品の設計図などの機密情報を不正に取得したとして、不正競争防止法違反罪に問われた中国籍の元社員、唐博被告(34)に名古屋地裁(景山太郎裁判長)は20日、懲役2年、執行猶予4年、罰金50万円(求刑懲役2年、罰金100万円)の判決を言い渡した。被告側は控訴する方針。事件は利益のために企業秘密を持ち出すことを処罰対象とした改正不正競争防止法を適用した初のケース。企業秘密保護のため被告人質問を初めて非公開で行った。

この件では、平成21年の改正法によって導入された不正の利益目的での情報の取得罪が初めて適用されたという点と、平成23年改正で導入された刑事手続きの特例が初めて行われたという点において先駆的意義がある事案となっています。

不正競争防止法

第五章 罰則

(罰則)

第二十一条  次の各号のいずれかに該当する者は、十年以下の懲役若しくは千万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。

 不正の利益を得る目的で、又はその保有者に損害を加える目的で、詐欺等行為(人を欺き、人に暴行を加え、又は人を脅迫する行為をいう。以下この条において同じ。)又は管理侵害行為(財物の窃取、施設への侵入、不正アクセス行為(不正アクセス行為の禁止等に関する法律 (平成十一年法律第百二十八号)第二条第四項 に規定する不正アクセス行為をいう。)その他の保有者の管理を害する行為をいう。以下この条において同じ。)により、営業秘密を取得した者

 詐欺等行為又は管理侵害行為により取得した営業秘密を、不正の利益を得る目的で、又はその保有者に損害を加える目的で、使用し、又は開示した者

(略)

第六章 刑事訴訟手続の特例

(営業秘密の秘匿決定等)

第二十三条  裁判所は、第二十一条第一項の罪又は前条第一項(第二十一条第一項第一号、第二号及び第七号に係る部分に限る。)の罪に係る事件を取り扱う場合において、当該事件の被害者若しくは当該被害者の法定代理人又はこれらの者から委託を受けた弁護士から、当該事件に係る営業秘密を構成する情報の全部又は一部を特定させることとなる事項を公開の法廷で明らかにされたくない旨の申出があるときは、被告人又は弁護人の意見を聴き、相当と認めるときは、その範囲を定めて、当該事項を公開の法廷で明らかにしない旨の決定をすることができる。

 前項の申出は、あらかじめ、検察官にしなければならない。この場合において、検察官は、意見を付して、これを裁判所に通知するものとする。

 裁判所は、第一項に規定する事件を取り扱う場合において、検察官又は被告人若しくは弁護人から、被告人その他の者の保有する営業秘密を構成する情報の全部又は一部を特定させることとなる事項を公開の法廷で明らかにされたくない旨の申出があるときは、相手方の意見を聴き、当該事項が犯罪の証明又は被告人の防御のために不可欠であり、かつ、当該事項が公開の法廷で明らかにされることにより当該営業秘密に基づく被告人その他の者の事業活動に著しい支障を生ずるおそれがあると認める場合であって、相当と認めるときは、その範囲を定めて、当該事項を公開の法廷で明らかにしない旨の決定をすることができる。

 裁判所は、第一項又は前項の決定(以下「秘匿決定」という。)をした場合において、必要があると認めるときは、検察官及び被告人又は弁護人の意見を聴き、決定で、営業秘密構成情報特定事項(秘匿決定により公開の法廷で明らかにしないこととされた営業秘密を構成する情報の全部又は一部を特定させることとなる事項をいう。以下同じ。)に係る名称その他の表現に代わる呼称その他の表現を定めることができる。

 裁判所は、秘匿決定をした事件について、営業秘密構成情報特定事項を公開の法廷で明らかにしないことが相当でないと認めるに至ったとき、又は刑事訴訟法 (昭和二十三年法律第百三十一号)第三百十二条 の規定により罰条が撤回若しくは変更されたため第一項 に規定する事件に該当しなくなったときは、決定で、秘匿決定の全部又は一部及び当該秘匿決定に係る前項の決定(以下「呼称等の決定」という。)の全部又は一部を取り消さなければならない。

上記の他、日経の報道によると、営業秘密に当たるかという点において情報の内容や管理体制について検討をしており、不正の利益目的の認定において、中国の知人とのチャットの内容が証拠として検討されている模様です。

改正法で新設されたのでも当然のこと目的犯であることは変わっていないため、証拠の収集においてもう一段必要性があるということなのだと思われます。

被告人はただちに控訴していますが、仮にその先までいって最高裁まで争った場合にはこの改正法が憲法違反だとする主張をすることになるのでしょう。