民法395条に抵当権に対抗できない抵当建物使用者の引渡しの猶予についての条文がありますが、この条文に該当する例について判示した最高裁判決が出ましたので取り上げます。
最高裁判所第三小法廷平成30年4月17日決定 平成30(許)3 不動産引渡命令に対する執行抗告審の取消決定に対する許可抗告事件
民法395条には、昔悪名高かった短期賃貸借に代わって、抵当権に対抗力がない建物を使用収益する者は、引渡しの猶予だけが認められているとする規定があります。
(抵当建物使用者の引渡しの猶予)
第三百九十五条 抵当権者に対抗することができない賃貸借により抵当権の目的である建物の使用又は収益をする者であって次に掲げるもの(次項において「抵当建物使用者」という。)は、その建物の競売における買受人の買受けの時から六箇月を経過するまでは、その建物を買受人に引き渡すことを要しない。
一 競売手続の開始前から使用又は収益をする者
二 強制管理又は担保不動産収益執行の管理人が競売手続の開始後にした賃貸借により使用又は収益をする者
2 前項の規定は、買受人の買受けの時より後に同項の建物の使用をしたことの対価について、買受人が抵当建物使用者に対し相当の期間を定めてその一箇月分以上の支払の催告をし、その相当の期間内に履行がない場合には、適用しない。
それほど大きな効力はなさそうなのですが、この条文が問題となる事件が起きました。
要するに本件は、抵当権の設定後に設定された賃貸借によって使用収益が開始され、その後、担保権実行がされたという事案なのですが、本来なら引渡し猶予となりそうなのですが、この賃貸借が滞納処分による差し押さえの後に設定された点をとらえて、395条の競売の開始前から使用収益をする者に当たらないと主張して、直ちに引き渡しを求めたというものです。
これに対して最高裁は、引渡し猶予の制度には特別な効果があることから、要件の明確性が必要であることを指摘して、抗告を棄却しました。
要件の明確性の点から、滞納処分に劣後することは、競売開始前から使用収益していないことにはならないと判断したわけです。
滞納処分と競売の手続自体はさすがに異なるため、これはその通りでしょう。
実質的に考えてみても、差押えの段階ではまだ使用収益する権利は失われない一方、民法395条によって一つのターニングポイントにされている競売手続開始は、ここからある意味、使用収益に制限がかかる時点ということですので、別物と考えるほかないでしょう。
差押えが租税滞納処分によるものであったとしても、国税徴収法69条から使用収益は原則可能になっていることから、性質がそれほど変わるわけではないわけです。
民法395条についての初めての判例だと思われまして、その意味では興味深いですが、ある意味、条文通りの帰結であったといえるように思われます。