大阪高裁、別居中の妻が凍結保存された受精卵を用いて夫の同意なく出産した場合でも、嫡出は推定されるとして、父が親子関係不存在確認訴訟で争うのは不適法と判示


何を言っているのかわからないタイトルになって申し訳ないですが、家族法分野において興味深い判決がありましたので取り上げます。

父子関係再び認定 凍結卵無断出産、大阪高裁  :日本経済新聞 2018/4/26 18:20

別居中だった元妻が凍結保存していた受精卵を無断で使って女児を出産したとして、奈良県在住の外国籍の40代男性が女児との間に父子関係がないことの確認を求めた訴訟の控訴審判決で、大阪高裁(江口とし子裁判長)は26日、訴えを却下した一審・奈良家裁判決を支持し、男性側の控訴を棄却した。男性側の代理人弁護士は上告する方針を示した。

 江口裁判長は判決理由で、元妻が女児を妊娠した2014年7月ごろ、男性は別居中だったが、長男を含めた3人で外出するなどしており「夫婦の実態が失われていたとはいえない」と指摘。男性が受精卵の母体移植に同意していないことは、妻が婚姻中に妊娠した子を夫の子とする民法の「嫡出推定」を否定する理由にはならないと判断した。

 一審判決は生殖補助医療で生まれた子と夫の間に法的な父子関係を認めるためには、夫が受精卵の移植に同意していることが必要との判断を示した。控訴審判決はこの点に言及しなかった。

 判決などによると、男性は04年に元妻と結婚。10年、奈良市のクリニックで体外受精を行い、複数の受精卵を凍結保存した。一部の受精卵を使い、11年に長男が生まれたが、13年に別居。元妻は14年、男性に無断で残りの受精卵を移植し、15年に女児を出産。16年に離婚が成立した。

 

実のところ、法的には争い方の選択について判示しているだけで親子関係を認定したのとは異なるため、上記報道のタイトルは若干ミスリードなのではないかと思われます。

本件は要するに、父親の側から親子関係を争う場合の事件なのですが、そもそもの出生が体外受精によって凍結保存された受精卵を使用した出産であったという事情がある場合というものです。

婚姻中に懐胎して出生した子について、父親の方から親子関係を争う場合には、嫡出推定がされている場合には、嫡出否認の訴えであり提訴期間の制限がありますが、嫡出推定が働かない場合には、親子関係不存在確認の訴えで争うことになり提訴期間の制限がないことになります。

本件では、提訴期間の問題があることから親子関係不存在確認訴訟で争える場合であるという主張がなされた事件と考えられます。

すると形式的には婚姻中の懐胎であるものの嫡出推定が及ばないことを主張しないといけないわけですが、嫡出推定が及ばないことは、伝統的には、その間はすでに婚姻関係が破たんしていたとか、長期にわたる出張などで接触がなかったなどという場合が例として挙げられているわけです。

しかし本件は以前の体外受精による凍結保存した受精卵ということであり、その時には婚姻関係が破たんしていたとかそのようなことはおよそないと考えられるわけで、伝統的な議論が全く妥当しないわけです。

そこで、原判決は体外受精の場合については夫の同意などの要件を考案することを試みていたようなのですが、本件では生物学的には父親である点も踏まえてだと思うのですが、原則論を採用したということと見受けられました。

この分野は生殖医療の進歩などにまったく追いついてないとよく指摘されているところですが、本件はひとまず生物学的な意味を重視しつつ、親子関係を固定化して安定を図るという点も併せ持っている民法の考え方に依拠すると導かれる結論になったといえそうです。

裁判例情報

大阪高裁平成30年4月26日判決

About Arakawa

サラリーマン経験のある弁護士兼社会保険労務士 このサイトでは、ビジネス関連の法律ニュースをもとにして私見をお送りするブログです。 ●筆者紹介 埼玉県立川越高校卒 東京大学法学部卒 東京大学大学院法学政治学研究科修士課程修了(法学修士) 専攻・国際私法、国際取引法、会社法 某企業で法務担当というよりむしろ労務担当 東大ロースクール修了 新司法試験合格 弁護士登録 現在,弁護士兼社会保険労務士です。