電通の一件を契機として、長時間労働の問題がさらに大きくクローズアップされていますが、政府がこれをうけての緊急対策を、昨年12月26日に取りまとめて公表しました。
内容は多岐にわたりますが、報道では、現在も存在している長時間労働の是正指導段階における企業名公表制度について、対象を拡大することが盛り込まれており注目されています。
この企業名公表ですが、現行の下では、1回しか公表された実績がありません。
下記エントリーをご覧ください。
千葉労働局、違法な時間外労働をさせていたとして是正指導を行った企業名を公表 | Japan Law Express
1回しかない理由は、要件が下記の通りとなっており、極めて限定的であるためです。
都道府県労働局長による指導・公表の対象とする基準
指導・公表の対象は、次のⅠ及びⅡのいずれにも当てはまる事案。
Ⅰ 「社会的に影響力の大きい企業」であること。 ⇒ 具体的には、「複数の都道府県に事業場を有している企業」であって「中小企業に該当しないもの(※)」であること。 ※ 中小企業基本法に規定する「中小企業者」に該当しない企業。
Ⅱ 「違法な長時間労働」が「相当数の労働者」に認められ、このような実態が「一定期間内に複数の事業場で繰り返されている」こと。
1 「違法な長時間労働」について ⇒ 具体的には、①労働時間、休日、割増賃金に係る労働基準法違反が認められ、かつ、➁1か月当たりの時間外・休日労働時間が100時間を超えていること。
2 「相当数の労働者」について ⇒ 具体的には、1箇所の事業場において、10人以上の労働者又は当該事業場の4分の1以上の労働者において、「違法な長時間労働」が認められること。
3 「一定期間内に複数の事業場で繰り返されている」 について ⇒ 具体的には、概ね1年程度の期間に3箇所以上の事業場で「違法な長時間労働」が認められること。
これを拡大する方向になり、平成29年から実施とされていますが、その改正点は以下の通りとされています。
是正指導段階での企業名公表制度の強化
○ 現行の要件を以下のとおり拡大。
① 月100時間超を月80時間超に拡大
② 過労死等・過労自殺等で労災支給決定した場合も対象 → これらが2事業場に認められた場合に、前ページの企業本社の指導を実施し、是正されない場合に公表
○ 月100時間超と過労死・過労自殺が2事業場に認められた場合などにも企業名を公表
上記は要するに、
- 現行のⅡ2の100時間を80時間に引き下げ
- 労災支給決定の実績が出た場合という新たな観点を入れ、このカテゴリの場合には、2事業所で発生+本社の指導に至った場合に公表の対象とすること
- 労災支給決定で100時間超の場合には、2事業所で公表の対象とすること
ということになります。
時間のハードルの引き下げと、3事業所から労災発生の場合2事業所で公表になる可能性があるという点で拡大となるわけです。
しかし、これでどれほど拡大するかはよくわかりませんし、そもそもこの公表の実例があまり出ないのは、おそらくⅠの要件で、中小企業を除いている点にもあると思われますので、この公表拡大をどれほど重大にとらえるかについては異論もありそうに思われます。
それよりも、実務的に重大なのは、
- 労働時間の適正把握のガイドラインが策定されること
- 事業場単位の指導にとどまらず、本社の指導にも踏み込むこと
だと思われます。
特に労働時間の適正把握は、現在でも通達がありこれに基づいて指導が行われていますが、上記取りまとめの内容から行くとこの通達から内容はさらに発展する模様で、大変な影響が想定されます。
労働時間に関する監督権行使は、さらに強化の方向性が明らかになったわけですが、実務対応も厳しいものになると予想されるところです。