千葉労働局、違法な時間外労働をさせていたとして是正指導を行った企業名を公表


厚生労働省は過重労働対策をさまざま強化していますが、対策の一つとして挙げていた手法の一つで初めての発動事例が出ましたので取り上げます。

労働基準監督監督官が労働基準法違反を認めて、いきなり送検とはいかずまず行政指導を行って違反状態を解消することを促すことがよくありますが、この行政指導である是正指導を労働時間についての問題で行った企業名を公表するという方針が平成27年5月から行うとされていたのですが、それが初めて発動されました。

ジャスダック上場の棚卸代行のエイジスが、違法な長時間労働で是正指導を受け、企業名が公表されました。

厚労省、長時間労働の社名公表 行政指導段階で初  :日本経済新聞 2016/5/19 23:05

 厚生労働省千葉労働局は19日、最長で月約197時間の違法な時間外労働をさせていたとして、千葉市の棚卸し業務代行会社「エイジス」(ジャスダック上場)を是正指導したと発表した。同省は昨年5月、複数の事業所で違法な長時間労働をさせる企業について、是正指導をした上で社名を公表する方針を決定。今回が初のケースとなる。

 同社はスーパーなどから棚卸し業務を受託する営業拠点を全国に50カ所持つ。昨年5月以降、営業拠点4カ所で働く従業員63人に、労使協定で定めた上限時間を上回る月100時間を超える時間外労働や休日労働をさせていた。残業代は支払っていたとしている。

(略)

 

千葉労働局のリリース

上記報道及び千葉労働局のリリースによると、100時間超の法定時間外労働を行っていた労働者の人数が記載されていますが、100時間超の時間外労働をさせることがただちに労基法違反なのではなく、36協定に違反する時間外労働をさせると労基法違反となります。

36協定は、特別条項をつけなければ月45時間、特別条項をつけるとその上限に規制はないため、本件は、特別条項を付けていないか、特別条項があってもそれを上回っていたものと思われます。リリースで取り上げているのが100時間で切っているため、特別条項を100時間としていたのかもしれませんが定かではありません。

この企業名の公表の取り扱いは、実は昨年に行うことを表明されており、実際に発動はされてこなかったのですが今回が初の事例となりました。

この公表は、いわゆる一般への情報提供という扱いになっており、法的な根拠を有するものではないのですが、実際には罰としての意味合いが極めて強いことからその構成の当否は問題があるといえましょう。

さて、なぜ今なのかというのは若干気になるところですが、慎重だったというよりは、実際のところ、下記リンクの通り、公表の基準をきわめて厳格にしており、大規模なケースではないと公表しないことにしているため適合するものがなかなか出てこなかったものとも考えられます。

厚生労働省ウェブサイトの情報

過重労働対策の一層の強化

長時間労働に係る労働基準法違反の防止を徹底し、企業における自主的な改善を促すため、社会的に影響力の大きい企業が違法な長時間労働を複数の事業場で繰り返している場合、都道府県労働局長が経営トップに対して、全社的な早期是正について指導するとともに、その事実を公表する。

都道府県労働局長による指導・公表の対象とする基準

指導・公表の対象は、次のⅠ及びⅡのいずれにも当てはまる事案。

Ⅰ 「社会的に影響力の大きい企業」であること。 ⇒ 具体的には、「複数の都道府県に事業場を有している企業」であって「中小企業に該当しないもの(※)」であること。 ※ 中小企業基本法に規定する「中小企業者」に該当しない企業。

Ⅱ 「違法な長時間労働」が「相当数の労働者」に認められ、このような実態が「一定期間内に複数の事業場で繰り返されている」こと。

1 「違法な長時間労働」について ⇒ 具体的には、①労働時間、休日、割増賃金に係る労働基準法違反が認められ、かつ、➁1か月当たりの時間外・休日労働時間が100時間を超えていること。

2 「相当数の労働者」について ⇒ 具体的には、1箇所の事業場において、10人以上の労働者又は当該事業場の4分の1以上の労働者において、「違法な長時間労働」が認められること。

3 「一定期間内に複数の事業場で繰り返されている」 について ⇒ 具体的には、概ね1年程度の期間に3箇所以上の事業場で「違法な長時間労働」が認められること。

 

上記の基準で一番重大なのは、中小企業は除外されることとと複数の事業場で是正指導を受けることであり、これに該当するのは極めて珍しいことから、今回の公表に至ったものと思われます。

この公表のあと、同社の株価は急落しており、大変な影響があることがうかがわれます。

さて、同社は指導に基づき改善をしていることとなりますが、報道によると本件は期末の棚卸の業務によって長時間労働を強いられた面があった模様です。

同社の実情をまったく知らないため机上の空論の恐れはありますが、季節による繁閑がある業種の場合には、変形労働時間制を使うことによって労働時間を寄せることができるため、そういった面からの工夫もありえるところです。もっとも、日本企業では年単位の変形労働時間制を導入しているケースは統計上多いとされているため、そのような対処では生ぬるいほど、同社の業務は繁忙を極めているのかもしれません。

About Arakawa

サラリーマン経験のある弁護士兼社会保険労務士 このサイトでは、ビジネス関連の法律ニュースをもとにして私見をお送りするブログです。 ●筆者紹介 埼玉県立川越高校卒 東京大学法学部卒 東京大学大学院法学政治学研究科修士課程修了(法学修士) 専攻・国際私法、国際取引法、会社法 某企業で法務担当というよりむしろ労務担当 東大ロースクール修了 新司法試験合格 弁護士登録 現在,弁護士兼社会保険労務士です。