社労士試験の知識のような話ですが、実は労働基準法で男女差別について言及しているのは、賃金についてのみであり、それ以外の労働条件については均等法に任されています。
そして均等法では、実は女性を有利にすることも原則として禁止しており、ポジティブアクションといわれる差別を解消するための措置としてのみ可能となっています。
労働基準法
第四条 使用者は、労働者が女性であることを理由として、賃金について、男性と差別的取扱いをしてはならない。
雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律
第五条 事業主は、労働者の募集及び採用について、その性別にかかわりなく均等な機会を与えなければならない。
(略)
第八条 前三条の規定は、事業主が、雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保の支障となつている事情を改善することを目的として女性労働者に関して行う措置を講ずることを妨げるものではない。
さて、このポジティブアクションは、指針と通達によって、どのような場合に行ってよいかが具体化されています。
そのうち募集については、雇用管理区分ごとに女性が4割を下回る場合には、女性に限定した募集を行ってよいとされています。
労働者に対する性別を理由とする差別の禁止等に関する規定に定める事項に関し、事業主が適切に対処するための指針(平成18年厚生労働省告示第614号)
(略)
14 法違反とならない場合
(1) 2から4まで、6、8及び9に関し、次に掲げる措置を講ずることは、法第8条に定める雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保の支障となっている事情を改善することを目的とする措置(ポジティブ・アクション)として、法第5条及び第6条の規定に違反することとはならない。
イ 女性労働者が男性労働者と比較して相当程度少ない雇用管理区分における募集又は採用に当たって、当該募集又は採用に係る情報の提供について女性に有利な取扱いをすること、採用の基準を満たす者の中から男性より女性を優先して採用することその他男性と比較して女性に有利な取扱いをすること。
(略)
(略)
3 女性労働者に係る措置に関する特例(法第8条)
(略)イからヘまでにおいて「相当程度少ない」とは、我が国における全労働者に占める女性労働者の割合を考慮して、4割を下回っていることをいうものであること。
(略)
以上から、総合職と一般職という区分を持っており、総合職で女性が4割を切っているときには、総合職で女性のみに限定した募集を行うことができます。
このポジティブアクションを利用して女性だけに絞った募集をすることはそれほどよく見るわけではないのですが、女性の活躍推進が言われるようになった昨今の女性を反映してか、女性に絞って幹部候補の募集を行う例が出てきていることが明らかになりました。
女性に絞り幹部候補急募 トヨタ、デンソーが中途採用 :日本経済新聞 2016/1/18 12:00 日本経済新聞 電子版
「女性のみ募集します」。トヨタ自動車やデンソーなど最大手メーカーや地方の著名企業が、女性総合職や専門職に焦点を絞った中途採用を始めた。これは職場の女性の割合の低さを改善するのに、例外的に許されるポジティブアクションという手法だ。重要なポストに就く女性を増やし、多様な視点を取り込んで商品開発に生かす目的がある。転職を希望する女性が注目し、応募者は膨らんでいる。
(略)
トヨタは女性のみとしているわけではないようですが、デンソーは女性のみと明示しているとのことです。
日本を代表する企業でこのような動きが出てきていることで今後も追随する動きが出てくるのか注目されるところだと思われます。