最高裁、賃料増減請求によって変更された賃料額の確認を求める訴訟の既判力は、特段の事情のない限り、賃料増減請求の効果が生じた時点の賃料額に係る判断について生じ、口頭弁論終結時までの賃料ではないと判示


ちょっと前の最高裁判決を取り上げます。今になって出たわけではないのでお騒がせし申し訳ございません。

借地借家法上、賃料増減額請求権という権利があり、その権利を行使すると賃料の変更をすることができます。普通は話し合いで合意した賃料になるところですが、合意できないときに一方的に変動の機会を生じさせるところに意味があります。

とはいっても好き勝手な賃料できるものではなく、これによって変動した賃料がいくらが相当なのかは法的な問題になります。そのため、賃料増減額確認請求という類型の訴訟があり、この訴訟手続きによって賃料が確定されるということになります。

この賃料増減額確認請求は、訴訟物については賃料が増減額された日から口頭弁論終結時までの間の賃料額と解されています。

また、請求の趣旨やそれに対応する主文では、以下のように期間を持って記載するものとされています。

原告と被告との間の(略)についての賃貸借契約賃料は、平成〇年〇月〇日以降1か月△万円であることを確認する

こうなると、賃料増減額確認請求の係属中、口頭弁論終結時までに複数回の賃料増減額請求がなされたものの、すべての権利行使に関する確認請求の追加をしなかった場合には、既判力によって後訴で追加しなかった分の賃料増減を問題にすることができなくなりそうです。

この点が正面から問題となった判例が9月に出ていましたので取り上げます。

最高裁判所第一小法廷平成26年9月25日判決 平成25(受)1649  建物賃料増額確認請求事件

本件の時系列を思い切り単純化すると以下のようになります。

承継が何度か生じているのですが、単純化のため賃貸人側をX、賃借人をYとします。

本件事案発生時点での賃料は300万円。

平成16年3月29日 Y→X 本件賃料を同年4月1日から月額240万円に減額する旨の意思表示をした(「基準時1」)

平成17年6月8日 Y→X 「本件賃料が平成16年4月1日から月額240万円であること」の確認等を求める訴訟「前件本訴」

平成17年7月27日 X→Y 同年8月1日から月額320万2200円に増額する旨の意思表示をした(「基準時2」)

平成17年9月6日 X→Y 前件本訴に対し,「本件賃料が平成17年8月1日から月額320万2200円であること」の確認等を求める反訴(「前件反訴」)

平成19年6月30日 X→Y 本件賃料を同年7月1日から月額360万円に増額する旨の意思表示をした(以下,この意思表示を「本件賃料増額請求」,同日の時点を「基準時3」)

承継前被上告人は,本件賃料増額請求により増額された本件賃料の額の確認請求を前件訴訟の審理判断の対象とすることは,その訴訟手続を著しく遅滞させることとなるとして,裁判所の訴訟指揮により,上告人X1が,前件訴訟における反訴の提起ではなく,別訴の提起によって上記確認請求を行うよう促すこと
を求める旨記載した上申書を裁判所に提出した。

平成20年6月11日,前件本訴につき,「本件賃料が平成16年4月1日から月額254万5400円であること」を確認するなどの限度で承継前被上告人の請求を認容 

X控訴

平成20年10月9日 控訴審 口頭弁論を終結(以下,この口頭弁論の終結時点を「前件口頭弁論終結時」),同年11月20日,上告人X1の控訴を棄却し,上記判決は,同年12月10日に確定した(以下,確定した上記判決を「前訴判決」)

以上のような時系列に基づいて、後訴が提起されて上記の本件賃料増額請求についての確認請求がされたのが本件です。

本件賃料増額請求は、口頭弁論終結時の前ですので、上記のような訴訟物の理解をすると既判力によって遮断されるような気がしますので、原判決まではそのように判断して請求を棄却していました。

しかし、これだと、著しく遅延させるからということで追加しなかったことなのであんまりな判断です。

そこで最高裁は原判決を否定して破棄差し戻しを行いました。

賃料増減額請求は形成権であるので、判断資料とするのもその行使時点の事情であることなどを指摘して、再度の講師がない限り、行使後の事情は結論に影響しないことをまず指摘します。

そして、請求の趣旨に注目して、賃料増減額の始期があるのに終期はないことを指摘して、これは継続的な法律関係であることから、一度決定すればそのまま任意の支払いがなされることが期待されるので、それだけで紛争の解決が果たされるので終期の記載がないと解釈しました。

これらから、特定期間の賃料の確認の請求をしているわけではないという理論を導いています。そして法律論として以下のように述べています。

賃料増減額確認請求訴訟の確定判決の既判力は,原告が特定の期間の賃料額について確認を求めていると認められる特段の事情のない限り,前提である賃料増減請求の効果が生じた時点の賃料額に係る判断について生ずると解するのが相当である。

したがって、特段の事情がない限り、訴訟物とまでそうだといっていいのかまではわかりませんが、少なくとも既判力が生じるのは賃料増減額請求をした時点での賃料についてのみとしました。

こうなると、前訴判決が審理の対象としていたのは、基準時1と基準時2にかかる増減額請求だけですので、基準時3にかかる増額請求は既判力で遮断されないことになり、請求棄却をしていた原判決はおかしいことになり、破棄差し戻しがなされたわけです。

訴訟物の捉え方の問題としているのかはあまりはっきりとしないのですが、補足意見は当然に訴訟物の問題ととられているように読めますので、賃料増減額確認請求の訴訟物について最高裁が判断をしたものということができましょう。

実務的にも重要な意義を有するものと思われます。

About Arakawa

サラリーマン経験のある弁護士兼社会保険労務士 このサイトでは、ビジネス関連の法律ニュースをもとにして私見をお送りするブログです。 ●筆者紹介 埼玉県立川越高校卒 東京大学法学部卒 東京大学大学院法学政治学研究科修士課程修了(法学修士) 専攻・国際私法、国際取引法、会社法 某企業で法務担当というよりむしろ労務担当 東大ロースクール修了 新司法試験合格 弁護士登録 現在,弁護士兼社会保険労務士です。