大分地裁,正社員と業務が同じであるとして,会社にパート社員に正社員の賞与との差額等を支払うよう命じる 正社員と同等の待遇の請求に対しては退ける


非正規雇用と正規雇用の待遇の格差について裁判例で争われることは継続的に生じていますが,一見するとかなり意欲的な判断を示した裁判例が出ましたので取り上げます。

「正社員と同額の賞与」一部認定 パート訴訟で大分地裁 同等待遇の法的根拠は認めず – SankeiBiz(サンケイビズ) 2013.12.10 19:05

正社員と同じ業務内容にもかかわらず、パート労働者であるためにボーナスや休日の割り増し賃金が低いのは違法として、大分市の男性(50)が勤務先の運送会社(東京)に、差額分の支払いや慰謝料などを求めた訴訟の判決で、大分地裁は10日、請求の一部を認め会社に約325万円の支払いを命じた。

判決で中平健裁判官は「業務内容は正社員と同じであり、賞与や休日の割り増し分の差別に合理的な理由はない」と判断した。原告側は差別的扱いを禁じたパート労働法を根拠に、正社員と同等の待遇も求めたが、判決は「同じ待遇にするべきだとする法規定はない」として退けた。

判決によると、男性は2006年からパート労働法の対象となる「準社員」として、大分事業所で貨物自動車の運転手として勤務した。1日あたりの労働時間は正社員より1時間短い7時間だったが、業務内容は正社員と同じだった。

非正規雇用であり,パートタイム労働法の対象となる準社員が,正社員と同じ業務をしているとして,正社員と同じ賞与などの支払いを命じたところ,正社員の賞与との差額分の約160万円を含んだ請求の一部認容したという事件です。

業務の内容が正社員と同じであるとして非正規雇用の社員にその差額を認めたということで非常に衝撃的な判断として報道されています。

この社員が本当に人事面の可能性等まで含めて正社員と同じなのかという事実認定の問題はありそうですが判決全文に当たっていないのでどの点はさておくとします。

法解釈論の問題に特化して検討しますが,パートタイム労働法では正社員と同じパートタイム労働者との間で差別禁止が定められています。

第8条(通常の労働者と同視すべき短時間労働者に対する差別的取扱いの禁止)
事業主は、業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度(以下「職務の内容」という。)が当該事業所に雇用される通常の労働者と同一の短時間労働者(以下「職務内容同一短時間労働者」という。)であって、当該事業主と期間の定めのない労働契約を締結しているもののうち、当該事業所における慣行その他の事情からみて、当該事業主との雇用関係が終了するまでの全期間において、その職務の内容及び配置が当該通常の労働者の職務の内容及び配置の変更の範囲と同一の範囲で変更されると見込まれるもの(以下「通常の労働者と同視すべき短時間労働者」という。)については、短時間労働者であることを理由として、賃金の決定、教育訓練の実施、福利厚生施設の利用その他の待遇について、差別的取扱いをしてはならない。
2 前項の期間の定めのない労働契約には、反復して更新されることによって期間の定めのない労働契約と同視することが社会通念上相当と認められる期間の定めのある労働契約を含むものとする。

この差別禁止という立法方法は,労働法の世界ではよくあるのですが,私法上の強行規定です。

したがって反すると,当該違反している法律行為は無効となるわけですが,その代わりのどのような労働条件になるのかは微妙な問題です。

実際のところ,正社員の労働条件で代替されると解するためには,労基法13条のような規定がある必要がありますので,そのような規定をパートタイム労働法では欠いている以上,労働条件が代替されると解することはでいないと考えられます。

第13条(この法律違反の契約)
この法律で定める基準に達しない労働条件を定める労働契約は、その部分については無効とする。この場合において、無効となつた部分は、この法律で定める基準による。

すると,正社員との差額を請求する根拠もないことになりそうですが,私法上の強行規定違反は不法行為を構成することは見解が一致していますので,その損害賠償の金額の根拠として正社員との差額で計算しているなら,妥当な判断だと思われます。

本件判決の判決全文はまだ公開されていないので詳細が不明なのですが,不法行為の損害賠償として請求が認容されているなら通説的な立場からは妥当な位置づけができると思いますが,賃金請求権として認めているのだとすると,乗り越えないといけない論点があるように思われます。

正社員との同等の待遇を請求している点について根拠がないとして否定していることは報道で言及されており,これは上記の正社員の労働条件では代替されないという立場と一致するものがあります。したがって,請求を認容した部分についても上記のような法的構成なのではないかと思われます。

結論の内容だけ見ると衝撃的な判決のように思えますが,通説的な立場からの妥当な位置づけのできる判決といえるのではないかと思われます。

裁判例情報

大分地裁平成25年12月10日判決

About Arakawa

サラリーマン経験のある弁護士兼社会保険労務士 このサイトでは、ビジネス関連の法律ニュースをもとにして私見をお送りするブログです。 ●筆者紹介 埼玉県立川越高校卒 東京大学法学部卒 東京大学大学院法学政治学研究科修士課程修了(法学修士) 専攻・国際私法、国際取引法、会社法 某企業で法務担当というよりむしろ労務担当 東大ロースクール修了 新司法試験合格 弁護士登録 現在,弁護士兼社会保険労務士です。