東京高裁,スルガ銀行がシステム開発をめぐり日本IBMに損害賠償を請求した訴訟の控訴審で,認容額を約42億円に縮減


JAPAN LAW EXPRESS: 東京地裁,スルガ銀行のシステム開発をめぐる訴訟で,日本IBMに74億円の支払いを命じるの続報です。

上記判決に対しては,控訴がされまして,東京高裁で判決が出ました。

1審では約74億円の認容だったところ,控訴審では約42億円の認容と大幅に縮減されました。

報道によると,この結論の違いには法的解釈の大きな違いがある模様で,システム開発契約をめぐって実務的に大変大きな意味があると思われます。

事実関係は報道によると以下の通りです。

スルガ銀・IBM裁判控訴審、日本IBMに約42億円の賠償命令 :日本経済新聞

(略)

スルガ銀行は2000年代初頭に勘定系システムの刷新を計画し、海外製の勘定系パッケージソフト「Corebank」をカスタマイズする日本IBMの提案を採用した。ところが、刷新プロジェクトは要件定義から難航。結果的にスルガ銀行は日本IBMに新システムの開発中止を通知し、2008年3月に「日本IBMの債務不履行によりシステムの開発を中止せざるを得なくなった」として、損害賠償を求めて日本IBMを提訴していた。

1審判決は,システムの企画設計の段階以降の生じた費用すべてを損害としていました。これに対して控訴審では,システムの要件定義を経て「約90億円で新システムを開発する」という最終合意書を交わした2005年9月末日以降の費用に限定していると報道されており,損害の対象となる費用の起算時期を遅らせたことが損害額が縮減された理由となっています。

上記リンク先の報道によると,上記のように費用を限定するに当たり控訴審は以下のような判断をしています。

東京高裁は今回、プロジェクトの各段階において、システム開発に際してITベンダーが負うべき「プロジェクトマネジメント義務」の違反に当たる行為が日本IBMにあったかを検討。日本IBMが「Corebank」を提案した企画・提案の段階と、最終合意書を交わす以前の要件定義の段階では、日本IBMに同義務の違反に当たるほどの過失はなく、不法行為は成立しないとした。この点について東京高裁は、システム開発プロジェクトは初期段階では一定の不確実性が避けられず、ユーザー企業も提案を受けたパッケージソフトについて自ら分析を行うなど、応分のリスク負担が求められると判断した。

一方で、当初の要件定義を終了した後、少なくとも最終合意書を交わした2005年9月末日の段階では、日本IBMにプロジェクトマネジメント義務違反があったと認めた。当初の要件定義で、想定する要件とパッケージソフトのギャップが予想外に大きいことが明らかになったにも関わらず、日本IBMがシステムの抜本的な変更、中止を含めた説明や提言、具体的なリスクの告知を行わないまま最終合意書を結んだことが、同義務違反に当たるとした。

上記は報道によってわかりやすくまとめてものでありもう少し詳しく見ますと,判決全文によると,控訴審判決は開発の時期を4つに分けて検討をしています。

Ⅰ 企画準備から本件基本合意①締結前の段階(企画・提案)
Ⅱ 本件基本合意①締結から本件基本合意②締結前の段階(計画・要件定義)
Ⅲ 本件基本合意②締結から本件最終合意締結前の段階(計画・要件定義)
Ⅳ 本件最終合意締結から本件システム開発終了の段階(計画・要件定義,実装)

それぞれの時期を区切る基本合意の内容は以下のように判示されています。

本件基本合意①(甲3)を締結した。本件基本合意書①には,一定の条件付ではあるが,被控訴人の要請を受け,被控訴人側要員費用を含めて95億円内で本件システムの稼働を実現することを確約するとの規定が設けられ,本件システム開発に投じる被控訴人の負担額に一定の想定枠が設定された。また,計画・要件定義の結果次第によっては,開発の遂行が困難となる事態も想定して「本条に定める合意(本件最終合意)までの間に,プロジェクトの大幅な延期や中止せざるを得ない状況が発生した場合,あるいは,本条に定める合意に至らなかった場合には,両者は真摯に協議の上,互いに誠意をもって損害賠償等の措置を含む適切な対応をするものとする。」との定め(3条)が設けられた。

(略)

平成16年12月29日,本件基本合意①を修正した本件基本合意②を締結した(甲4)。
同日,控訴人と被控訴人は,個別契約であるIBMシステム・インテグレーション契約(甲4・添付-3,甲5の3の1)を締結し,本件システム開発の次の局面である計画・要件定義#2(計画・要件定義#1で作成されたPMPを踏まえた要件定義等の作業)を始めた。

(略)

個別契約の責任制限条項では「請求の原因を問わず,現実に発生した通常かつ直接の損害に対する,損害発生の直接原因となった当該サービスの料金相当額を限度」とし,「控訴人の責めに帰すことのできない事由から生じた損害,控訴人の予見の有無を問わず特別の事情から生じた損害,逸失利益,データ・プログラムなど無体物の損害及び第三者からの損害賠償請求に基づく損害」について責任を負わない旨の定めがあった。

これに対し,本件最終合意においては,損害賠償責任の規定の在り方について,弁護士も関与して協議がされ(甲48の2及び3,乙274),4条(損害賠償責任)及び8条(本合意書の性質)が定められるとともに,同合意の損害賠償責任の約定に沿って,個別契約の損害賠償条項が改訂された。具体的には,本件最終合意書4条1項において,1条記載の各個別将来契約を締結した場合で,各個別将来契約において,被控訴人が控訴人の責に帰すべき事由に基づいて救済を求める全ての場合において,控訴人の損害賠償責任は「契約違反,不法行為等の請求原因を問わず,(a)現実に発生した通常かつ直接の損害に対してのみ,損害発生の直接原因となった各関連する個別将来契約の代金相当額を限度とし,(b)いかなる場合にも,控訴人の責めに帰すことができない事由から生じた損害,控訴人の予見の有無を問わず特別の事情から生じた損害,逸失利益,データ・プログラムなど無体物の損害及び第三者からの損害賠償請求に基づく被控訴人の損害については,責任を負わない。」こととされた。同条2項において,「本条1項(a)記載の金銭賠償の限度額にかかわらず,各個別将来契約の下で控訴人

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サラリーマン経験のある弁護士兼社会保険労務士 このサイトでは、ビジネス関連の法律ニュースをもとにして私見をお送りするブログです。 ●筆者紹介 埼玉県立川越高校卒 東京大学法学部卒 東京大学大学院法学政治学研究科修士課程修了(法学修士) 専攻・国際私法、国際取引法、会社法 某企業で法務担当というよりむしろ労務担当 東大ロースクール修了 新司法試験合格 弁護士登録 現在,弁護士兼社会保険労務士です。