いじめについて裁判で争われる事態が増えてきていますが,その中で特徴的な裁判例がまた一つ出ましたので取り上げます。
中学時代にいじめをうけて精神的苦痛を被ったとして,いじめの被害者が学校を設置した一宮市を相手取って損害賠償請求訴訟を提起したところ,名古屋地裁一宮支部は,担任教師の安全配慮義務違反を認めた一方で,損害賠償請求そのものは棄却するという判決をしました。
時事ドットコム:「中学担任、いじめ防止怠る」=一宮市に安全配慮義務違反-名古屋地裁支部
市立中学校で同級生からいじめを受けたのに、学校が適切に対応せずに精神的苦痛を受けたなどとして、愛知県一宮市に住んでいた女性(23)が同市に約610万円の損害賠償を求めた訴訟の判決が25日、名古屋地裁一宮支部であった。倉田慎也裁判長は「担任教諭に再発防止を図る義務があったのに、必要な指導をしなかった」として、市側の安全配慮義務違反を認めた。請求自体は棄却した。
判決で倉田裁判長は、1年時の担任について「同級生による問題発言などを把握していた上、女性の母からも申告があり、いじめの標的になっていたと知り得た」と指摘。「加害生徒らの弁解を安易に受け入れ、いじめが存在しないことを前提にした指導に終始した」と批判した。
女性の損害額としては慰謝料など約140万円を認定したが、女性は別の訴訟で同級生側から和解金を得ており、既に相当額が補填(ほてん)されたと判断した。(略)
理由と結論が整合しないように思えてしまいますが,実際のところは,すでに損害が填補されているために損害がなしということになったためです。
ですので,結論よりもどのような場合に,担任教師に安全配慮義務違反があると判断されるのかという点についての結論が実務的な影響があると思われます。
上記報道からうかがわれるところでは,いじめがあると合理的に疑われるだけの情報を把握しているのに,加害者の弁解を安易に受け入れていじめに対する対策をとらないと安全配慮義務違反ということになる模様です。
法的な要請とは別に,教育現場での対応としては,いじめが疑われた場合,徹底した事実調査が必要であることが多くの研究等で指摘されているところだと思いますが,そのような行動規範を前提としての法的判断ということだろうと思われます。
裁判例情報
名古屋地裁一宮支部平成25年9月25日判決