最高裁,千葉裁判官の補足意見で将来給付の訴えの利益を否定した昭和63年3月31日判決の射程を限定する言及を行う


半年前の判決であり,今更という感じなのですが,取り上げます。

民事訴訟法135条に定められている,将来給付の訴えの利益については,大阪空港事件の最高裁判決が先例となっていることは有名な知識です。

第135条(将来の給付の訴え) 
将来の給付を求める訴えは、あらかじめその請求をする必要がある場合に限り、提起することができる。

最大判昭和56年12月16日民集第35巻10号1369頁

およそ将来に生ずる可能性のある給付請求権のすべてについて前記の要件のもとに将来の給付の訴えを認めたものではなく、主として、いわゆる期限付請求権や条件付請求権のように、既に権利発生の基礎をなす事実上及び法律上の関係が存在し、ただ、これに基づく具体的な給付義務の成立が将来における一定の時期の到来や債権者において立証を必要としないか又は容易に立証しうる別の一定の事実の発生にかかつているにすぎず、将来具体的な給付義務が成立したときに改めて訴訟により右請求権成立のすべての要件の存在を立証することを必要としないと考えられるようなものについて、例外として将来の給付の訴えによる請求を可能ならしめたにすぎないものと解される。

端的にまとめますと,発生が確実で,将来において債務内容の変更がある場合に債務者が請求異議で立証することになっても不当ではないようなものに限られるということになります。

ここからいくと,賃料,利息,扶養料などなら該当しそうということになります。

しかし,賃料が問題となった件で最高裁は将来給付の訴えの利益を否定したことがあります。それが最判昭和63年3月31日です。

この事件は,賃料が問題になっているのですが普通に賃借人に請求しているわけではなく,土地の共有者が単独名義の登記名義を有している他の共有者に対して,共有持ち分を超える分の賃料相当額を不当利得として請求したというかなり複雑なものであり,上記大阪空港事件の規範に照らして,将来給付の訴えの利益を否定したのです。

これは賃料に関係しているのに将来給付が認められなかったという点だけ捉えると教科書的知識とやや異なる点で意外な判示であり,司法試験の短答で出題されてもおかしくない知識ということになります。

さて,去年の暮れですが,同じような持分割合を超える賃料相当額の不当利得返還を将来の分まで請求した事件で最高裁判決が出たのですが,その中で昭和63年判決の射程について詳細に言及するという一風変わった判示がなされました。

最高裁判所第二小法廷平成24年12月21日判決 平成23(受)1626 所有権移転登記手続,持分移転登記抹消登記手続等,持分権確認等請求事件

この事件の法廷意見自体は,昭和63年判決があるので将来給付の訴えの利益なしといっただけで終わっているのですが,千葉裁判官が詳細な補足意見を述べており,昭和63年判決の射程について,狭く解するべきとしています。

千葉裁判官は,持分割合を超える賃料部分の不当利得返還請求の場合に一般的に将来給付の利益を欠くと解することは広すぎるとして,昭和63年判決の事例が賃貸借とはいっても駐車場であったということを重視するべきとしています。

駐車場であるとすると,将来にわたって継続する蓋然性は低いので,大阪空港事件に照らしても訴えの利益を認めるべきではないことになるのであり,これが借家の賃料や建物所有目的の借地の場合には,将来の給付請求を認めるべきであるとしています。

こうなると,昭和63年判例から一律に遮断されると考えがちであったものについても,元となっている賃料が何についてのものかによっては結論が変わってくることになります。

このような細分化して整理することにどのような意義があるのかという点ですが,相続によって賃貸借の目的物が共有になってしまっている物件などで案外該当する事態があるかもしれません。

 

About Arakawa

サラリーマン経験のある弁護士兼社会保険労務士 このサイトでは、ビジネス関連の法律ニュースをもとにして私見をお送りするブログです。 ●筆者紹介 埼玉県立川越高校卒 東京大学法学部卒 東京大学大学院法学政治学研究科修士課程修了(法学修士) 専攻・国際私法、国際取引法、会社法 某企業で法務担当というよりむしろ労務担当 東大ロースクール修了 新司法試験合格 弁護士登録 現在,弁護士兼社会保険労務士です。