最高裁,弁済期の定めのある受働債権が相殺適状にあるというためには,期限の利益の放棄又は喪失等により,その弁済期が現実に到来していることを要し,時効によって消滅した自働債権と相殺するには,消滅以前に受働債権と相殺適状にあったことが必要と判示


何を言っているのかわからないタイトルで非常に申し訳ありません。

民法の基本的な内容である相殺について,最高裁が判示をした判例が2月末に出ましたので取り上げます。

最高裁判所第一小法廷平成25年02月28日判決 平成23(受)2094 根抵当権設定登記抹消登記手続請求本訴,貸金請求反訴事件

過払いと関係する事件なのですが,被上告人Yは,貸金業者Aと金銭消費貸借契約を締結し,平成14年1月31日に貸付けを受け,その担保として自らが所有する不動産に根抵当権を設定しました。

これとは別に,YはXとも継続的金銭消費貸借契約を締結し,平成8年10月29日に取引が終了しましたが,その結果,実は過払い金が発生していました。

その後,XはAを吸収合併したため,過払い金と根抵当権の被担保債権は,XとYとの間にあることになったのです。

Yは,根抵当権の被担保債権である貸付けについて,順次返済をしていったのですが,平成22年7月1日の返済を遅滞したために,よくある特約で期限の利益を喪失したのでした。

その後,同年8月17日に,Yは上記の過払金返還請求権で相殺を行い,それでも足りない残額については同年11月15日までに支払いを行いました。

そこで,Yが,被担保債権は完成によって消滅しているとして,根抵当権設定登記の抹消登記手続きを請求したのが本件です。

Xは過払金返還請求権は時効消滅しているとしたのですが,時効消滅しても債権は時効消滅前に相殺適状になっていれば相殺できます。この点から相殺が有効であるかが問題となりました。

第508条(時効により消滅した債権を自働債権とする相殺) 
時効によって消滅した債権がその消滅以前に相殺に適するようになっていた場合には、その債権者は、相殺をすることができる。

相殺の要件は相殺適状ですが,そのうちの互いの債権が弁済期にあることという要件は,受働債権は自分で期限の利益を放棄すればいいので,実質的には自働債権が弁済期にあることということになるとされています。

第505条(相殺の要件等)
二人が互いに同種の目的を有する債務を負担する場合において、双方の債務が弁済期にあるときは、各債務者は、その対当額について相殺によってその債務を免れることができる。ただし、債務の性質がこれを許さないときは、この限りでない。
2 前項の規定は、当事者が反対の意思を表示した場合には、適用しない。ただし、その意思表示は、善意の第三者に対抗することができない。

すると,過払金返還請求権は発生後すぐに弁済期にあることになりますから,当たり前ですが時効消滅時点で弁済期にあったことになります。すると,この相殺は有効であるように思えないでもありません。

しかし,最高裁は,次のように述べて,そうではないということを示しました。

民法505条1項は,相殺適状につき,「双方の債務が弁済期にあるとき」と規定しているのであるから,その文理に照らせば,自働債権のみならず受働債権についても,弁済期が現実に到来していることが相殺の要件とされていると解される。また,受働債権の債務者がいつでも期限の利益を放棄することができることを理由に両債権が相殺適状にあると解することは,上記債務者が既に享受した期限の利益を自ら遡及的に消滅させることとなって,相当でない。

受働債権の期限の利益をずっと享受しておきながら,相殺する段になってからそれを放棄するのはおかしいではないかということです。

ここから結論として以下のような法理を示しています。

既に弁済期にある自働債権と弁済期の定めのある受働債権とが相殺適状にあるというためには,受働債権につき,期限の利益を放棄することができるというだけではなく,期限の利益の放棄又は喪失等により,その弁済期が現実に到来していることを要する

そして,時効消滅した債権での相殺の点に即して以下のように述べており,これが判示事項の二点目になっています。

民法508条の趣旨に照らせば,同条が適用されるためには,消滅時効が援用された自働債権はその消滅時効期間が経過する以前に受働債権と相殺適状にあったことを要する

すなわち,時効消滅前に実際に弁済期が到来した状態にしておかないといけなかったということです。

これはよくよく考えるとその通りなのですが,考えたことのなかった点でした。

一括弁済のような教科書的な事例で考えるなら,消滅した債権での相殺は,すべからく消滅前にさかのぼって相殺できるでしょうが,実際には分割弁済が多いわけですから,このような考慮をするのは当然ということになりましょう。

About Arakawa

サラリーマン経験のある弁護士兼社会保険労務士 このサイトでは、ビジネス関連の法律ニュースをもとにして私見をお送りするブログです。 ●筆者紹介 埼玉県立川越高校卒 東京大学法学部卒 東京大学大学院法学政治学研究科修士課程修了(法学修士) 専攻・国際私法、国際取引法、会社法 某企業で法務担当というよりむしろ労務担当 東大ロースクール修了 新司法試験合格 弁護士登録 現在,弁護士兼社会保険労務士です。