勤務先にHIV陽性であることが伝わってしまったために退職を余儀なくされたとして,元看護師が提起した損害賠償請求訴訟で,検査をした病院との間で和解金の支払いと再発防止策を内容とする和解が成立


長いタイトルで申し訳ありませんが,看護師が勤務先とは異なる病院でHIVの検査を受け,陽性と判明したところ,勤務先にそれが知れてしまい,退職を余儀なくされたということで損害賠償請求訴訟が提起され,検査をした病院との間では和解が成立したことが明らかになりました。

無断通知の病院が和解金 HIV感染情報巡る訴訟

エイズウイルス(HIV)陽性の検査結果を、検査した大学病院が勤務先の病院に無断で伝え、退職を余儀なくされたとして、福岡県の看護師が損害賠償を求めた訴訟は20日までに、福岡地裁の支部で大学病院側が看護師に100万円を支払うことなどで和解が成立した。

和解成立は19日付。勤務先の病院側との訴訟は継続中。看護師は両病院を経営する2法人に計約1100万円の損害賠償を求めていた。

看護師側代理人によると、和解金支払いのほか、大学病院が謝罪し、診療情報を提供する際は患者本人の意思確認を徹底するとの再発防止策が盛り込まれた。

(略)

看護師は2011年8月、勤務先の病院に紹介された大学病院でHIV陽性と診断された。医師から「患者への感染リスクは小さく、上司に報告する必要もない」と言われた。

だが、大学病院から勤務先の病院に検査結果が伝わり、上司から「患者に感染させるリスクがあるので休んでほしい。90日以上休職すると退職扱いになるがやむを得ない」と告げられ、休職後、同年11月に退職した。〔共同〕

本件でのHIVの検査は,労働安全衛生法に基づく健康診断ではないと思われますので,勤務先がその結果を取得できるのか自体がそもそも問題となりうると思われます。

そのため,原則としては同意がない限り,個人情報として提供できないということになりますので,検査をした病院との間ではこの点で問題となったわけです。

一方で,元の勤務先の病院との間では,まだ訴訟が継続するわけですが,争点がいくつか考えられるところです。

  1. HIV感染の情報を取得したこと
  2. HIV感染を理由に休職を命じたこと
  3. 休職後に退職となったこと

1の情報の取得ですが,これはあくまで労働者から取得することの当否の問題であるのですが,それでも,使用者は,労働者の健康上の情報の取得ができるのか労務提供にかかわるものに限られるとされているため,B型肝炎,HIVなどは特に例示されて,聞いてはいけないこととされています。

雇用管理に関する個人情報のうち健康情報を取り扱うに当たっての留意事項

しかし,一方で本件の勤務先は病院であるため,労務提供に関係するということも言えそうであり,例外の方に当たる場合とも考えられそうです。

すると,その先の人事上の取り扱いに関する論点がどう左右されるかということになりますが,労務提供に関係ない部署への配転ということがあろうという考慮になりそうですが,一方で看護師という資格を持っているからこそ採用しているわけであり,ある種の職種限定的なものがありそうです。すると,また当否が微妙になるということになりそうです。

労働者の健康管理という問題は,最近は非常に微妙で複雑な問題を内包させているのですが,それが如実に表れているような事件であると感じる次第です。

About Arakawa

サラリーマン経験のある弁護士兼社会保険労務士 このサイトでは、ビジネス関連の法律ニュースをもとにして私見をお送りするブログです。 ●筆者紹介 埼玉県立川越高校卒 東京大学法学部卒 東京大学大学院法学政治学研究科修士課程修了(法学修士) 専攻・国際私法、国際取引法、会社法 某企業で法務担当というよりむしろ労務担当 東大ロースクール修了 新司法試験合格 弁護士登録 現在,弁護士兼社会保険労務士です。