さる4月1日から,改正労働契約法の完全施行及び高齢者雇用安定法の施行がなされ,非正規雇用のうち,有期雇用について新たな法規制が加わる一方,高齢者雇用制度について希望者全員を何らかの形で雇用しないといけない義務が加わり,企業にとって人件費の負担増につながる大きな変化が生じました。
セミナーや多くの書籍ですでに取り上げられているところですし,私もセミナーの講師として何度も取り扱ったテーマですが,今一度簡単に概観してみたいと思います。
4月1日から施行された労働契約法の内容
- 有期雇用労働者について無期転換制度の創設
- 有期雇用を理由としての不合理な労働条件の禁止
高年齢者雇用安定法の内容
- 希望する高齢者を何らかの形で65歳まで雇用しないといけない
有期雇用の無期転換制度
通算5年を超える契約をした時点で,労働者に無期転換制度が付与されるという仕組みになっています。
通算5年の起算はこの4月1日以降の契約開始時または更新時ですので,これまでの更新分がカウントされません。
すると5年後のことではないかと思われるかもしれませんが,通算5年を超える契約をした時点ですので,契約満了で5年の実績とは異なります。1年ではなく2年や3年の有期の場合,もっと早く通算5年の契約締結にはなるところに注意が必要です。
通算期間に応じて決まりますが,最大で6か月のクーリング期間をはさむと,通算期間をゼロに戻すことも可能です。
また,無期に転換されるといっても正社員になれるわけではありません。雇用期間の定め以外は,元の労働条件のままというのが原則になります。
しかし,制度の細部についての解釈が不明である点が多く,紛争を生じる可能性がかなり懸念されます。
新しい高齢者雇用制度
定年が65歳未満の場合,定年で退職した労働者のうち希望する者については,65歳まで何らかの形で雇用をしないといけません。
しかし,労使協定を3月31日時点で有していた会社は,特別支給の老齢厚生年金の支給開始年齢に到達して以降の継続雇用については,従来の基準を適用して選別をすることが可能です。
また継続雇用制度と呼称されますが,正社員のまま定年延長をしないといけないものではなく,制度の選択肢としては,嘱託などの非正規雇用も可能ですし,元の会社で継続雇用しないといけないわけではなく,グループ会社で引き受けることでも可能です。
しかし,グループ会社間での引き受けの場合,経過措置の活用との関係ではどのような制度設計にしておけばいいのかについては不明な点が多いです。
さらに,有期雇用の形態を採用した場合,上記の無期転換制度も適用されてしまうため,慎重な運用をしないと超高齢無期社員が誕生しかねないというずさんな仕組みになっています。
上記改正法の内容二点からは不明な点が多すぎ余計な紛争を生じる可能性がかなりあります。
各社において制度設計や運用の万全を期することでリスクを避ける必要があり,人事労務の役割の増大は避けられないでしょう。