最高裁,賃料債権の差押えの後に,当該賃貸借契約が終了した場合,その後に支払期が到来する賃料債権は,信義則上賃料の不発生を主張することが許されない特段の事情がない限り,取り立てることができないと判示


債権を差し押さえた場合,原則的には差押えの対象はその差押えの時点の債権の内容に限られます。当たり前のことですが,債権の内容が変動しうるもののうち継続的給付については,差押え後に入ってくるものについても差押えの効力が及びます。

具体的には債務名義に表示された金額と費用を上限として,「~に満つるまで」として差押えがされることになります。

民事執行法

第151条(継続的給付の差押え) 
給料その他継続的給付に係る債権に対する差押えの効力は、差押債権者の債権及び執行費用の額を限度として、差押えの後に受けるべき給付に及ぶ。

しかし,この規定は,債権を発生させる基本的法律関係まで差し押さえるわけではないとされています。そのため債務者は,継続的給付を発生させる法律関係を解除することは妨げられないとされています。

一方で,債務者は,当然のことながら,差押えを受けた債権を処分してはいけません。

しかし,継続的給付の場合,債権の処分と基本的法律関係の変動を生じさせることは,法的には違っても,事実としては結構似てくることがあります。そのような場合の継続的給付の取り立ての可否が問題となった判例が出ました。

最高裁判所第三小法廷 平成24年09月04日判決 平成22(受)1280 所有権移転登記抹消登記手続等,賃料債権取立請求事件

本件は被上告人Yが訴外Aの債権者であり,上告人XはAとの間で建物賃貸借契約を締結しておりその賃借人でした。

Yは債務名義に基づいて,Aの賃料債権を差し押さえ,Xに対して取り立て訴訟を提起したのが本件です。

賃料は継続的給付の代表例ですので差押は,上記の法律のとおり,債務名義の金額にみつるまでということになったのですが,本件ではこともあろうに,AがXに目的物である建物を売却してしまい,賃貸借契約が混同で消滅してしまうのではないかという事態になってしまいました。

原審は,民法の混同の規定を指摘して,第三者の目的になっているので混同の例外にあたり消滅しないとして,請求を認容しました。

民法

第520条
債権及び債務が同一人に帰属したときは、その債権は、消滅する。ただし、その債権が第三者の権利の目的であるときは、この限りでない。

これは,条文としてはなかなか巧妙ですが,よく考えると債権的にはともかく,自分で自分に賃料を払うというのはいったいどういうことだと実体法的に疑問がないでもない結論でした。

最高裁は,これを否定して,上記に書いた通りの原則から,原因関係を変動させることは自由ということを踏まえて,下記の通り判示しました。

賃料債権の差押えを受けた債務者は,当該賃料債権の処分を禁止されるが,その発生の基礎となる賃貸借契約が終了したときは,差押えの対象となる賃料債権は以後発生しないこととなる。

したがって原則は取立不可ということを述べたのですが,例外を認めています。

賃貸人と賃借人との人的関係,当該建物を譲渡する
に至った経緯及び態様その他の諸般の事情に照らして,賃借人において賃料債権が発生しないことを主張することが信義則上許されないなどの特段の事情がない限り,差押債権者は,第三債務者である賃借人から,当該譲渡後に支払期の到来する賃料債権を取り立てることができないというべきである。

要するに,信義則に反する場合は別であり,賃料が発生しないことを対抗できないが,そうではない場合には原則的に取立不可ということを述べたわけです。

本件は取立不可という原則論よりも,この特段の事情についての法理が重要だと思われます。

なぜなら本件のAとXはきわめて密接な関係にあり,Xの株主はA及びAの代表者であり,Xの代表者とAの代表者は同一人物であり,そのような外観だけ見ると,濫用の可能性が疑われるような密接な関係であるためです。

このため,個の特段の事情についての審理のために差し戻されています。

上記に記載した原則論は踏まえつつも,特段の事情を定立した本件判示の法理は重要であるといえ,実務的にも注目するべきものといえると思います。

About Arakawa

サラリーマン経験のある弁護士兼社会保険労務士 このサイトでは、ビジネス関連の法律ニュースをもとにして私見をお送りするブログです。 ●筆者紹介 埼玉県立川越高校卒 東京大学法学部卒 東京大学大学院法学政治学研究科修士課程修了(法学修士) 専攻・国際私法、国際取引法、会社法 某企業で法務担当というよりむしろ労務担当 東大ロースクール修了 新司法試験合格 弁護士登録 現在,弁護士兼社会保険労務士です。