最低賃金は賃金内容に関する公法的な規制ですが,労働契約の内容を変更する効力を有することが法律上定められています。
最低賃金法
第4条(最低賃金の効力)
使用者は、最低賃金の適用を受ける労働者に対し、その最低賃金額以上の賃金を支払わなければならない。
2 最低賃金の適用を受ける労働者と使用者との間の労働契約で最低賃金額に達しない賃金を定めるものは、その部分については無効とする。この場合において、無効となつた部分は、最低賃金と同様の定をしたものとみなす。
3 次に掲げる賃金は、前二項に規定する賃金に算入しない。
一 一月をこえない期間ごとに支払われる賃金以外の賃金で厚生労働省令で定めるもの
二 通常の労働時間又は労働日の賃金以外の賃金で厚生労働省令で定めるもの
三 当該最低賃金において算入しないことを定める賃金
4 第一項及び第二項の規定は、労働者がその都合により所定労働時間若しくは所定労働日の労働をしなかつた場合又は使用者が正当な理由により労働者に所定労働時間若しくは所定労働日の労働をさせなかつた場合において、労働しなかつた時間又は日に対応する限度で賃金を支払わないことを妨げるものではない。
このような最低賃金の規制が,完全歩合制の賃金体系を採用した結果,時給換算すると最低賃金を下回ってしまった場合についても適用があり,最低賃金との間の差額を請求することができるかが問題となった訴訟で判決があり,請求がほぼ認容されたほか付加金の支払いも認められるという結論になりました。
朝日新聞デジタル:タクシー最低賃金差額訴訟 札幌地裁判決-マイタウン北海道2012年09月29日
札幌市のタクシー会社「朝日交通」の労組員の運転手6人が、完全歩合制による給料が時給換算すると最低賃金にも満たないとして最低賃金との差額などを会社に求めていた訴訟の判決が28日、札幌地裁であった。長谷川恭弘裁判官は、請求額のほぼ全額と、労働基準法違反の使用者を制裁する「付加金」についても未払い賃金と同額を払うよう命じた。
判決は、最低賃金との差額などの未払い分が、2008年からの2年間で1人当たり約22~185万円あるとし、原告側の請求額のほぼ全額を認めた。
会社側は、全国の大部分のタクシー会社が同様の完全歩合制の賃金体系を採用しており、差額や付加金の支払いは相当ではないと主張した。
(略)
この論点についての議論は寡聞にしてみたことがないのですが,基本から考えると,最低賃金制度の趣旨から考えると完全歩合とはいっても下限は最低賃金になると解することは可能であるように思われます。詳しく調べたわけではないので,もう少し考えてみたいと思います。
完全歩合制と最低賃金というこれまでにあまり議論のない分野について判断が示されたもので,実体法上の権利があるなら当たり前なのですが,訴訟上請求できるとしたところも,大きな意義があると思われます。
裁判例情報
札幌地裁平成24年9月28日判決