シルバー人材センターから紹介を受けた仕事の作業中の負傷したところ保険が不適用であったとして,負傷男性の長女が国に慰謝料と協会けんぽに保険適用を求める訴訟を提起


テレビでもやっていたらしいのですが,シルバー人材センターで紹介された仕事の作業中に高齢者の男性が負傷をしたところ,保険の適用がなされず治療費が全額自己負担になったということで,協会けんぽと国を相手取って訴訟を提起する事態になったことが明らかになりました。

それだけ聞くと「なぬ」と思ってしまいますが,この男性は長女の被扶養者になっており,長女の会社の健康保険である協会けんぽに入っているようなのです。

すると健康保険法の適用があるということになります(国保ではなく社保という意味)が,健康保険法は業務上災害による傷病を適用除外にしているので,このけがについて保険給付が受けられなかったわけです。

健康保険法

(目的)

第一条 この法律は、労働者の業務外の事由による疾病、負傷若しくは死亡又は出産及びその被扶養者の疾病、負傷、死亡又は出産に関して保険給付を行い、もって国民の生活の安定と福祉の向上に寄与することを目的とする。

なぜこうなっているかというと,業務上の事由に起因する傷病については,労働者の場合,労災保険法の適用があり,すみわけをしているからです。

しかし,シルバー人材センターの仕事の場合,雇用ではなく請負であり,労働者ではないということ否定しがたいものがあります。そのため,労災保険の適用にならないのです。

すると,大変なことになりそうですが,労働者ではない場合には国民健康保険に入っているはずであり,そちらでカバーされることになるという建前があるのです。

国民健康保険は業務上災害に起因する傷病への適用を排除しておらず,ほかで給付を受けた場合にはそちらが優先するが補充的に適用があることは定めがあります。

国民健康保険法

(他の法令による医療に関する給付との調整)
第五十六条 療養の給付又は入院時食事療養費、入院時生活療養費、保険外併用療養費、訪問看護療養費、特別療養費若しくは移送費の支給は、被保険者の当該疾病又は負傷につき、健康保険法 、船員保険法 、国家公務員共済組合法 (他の法律において準用し、又は例による場合を含む。)、地方公務員等共済組合法 若しくは高齢者の医療の確保に関する法律 の規定によつて、医療に関する給付を受けることができる場合又は介護保険法 の規定によつて、それぞれの給付に相当する給付を受けることができる場合には、行わない。労働基準法 (昭和二十二年法律第四十九号)の規定による療養補償、労働者災害補償保険法 (昭和二十二年法律第五十号)の規定による療養補償給付若しくは療養給付、国家公務員災害補償法 (昭和二十六年法律第百九十一号。他の法律において準用する場合を含む。)の規定による療養補償、地方公務員災害補償法 (昭和四十二年法律第百二十一号)若しくは同法 に基づく条例の規定による療養補償その他政令で定める法令による医療に関する給付を受けることができるとき、又はこれらの法令以外の法令により国若しくは地方公共団体の負担において医療に関する給付が行われたときも、同様とする。
2 保険者は、前項に規定する法令による給付が医療に関する現物給付である場合において、その給付に関し一部負担金の支払若しくは実費徴収が行われ、かつ、その一部負担金若しくは実費徴収の額が、その給付がこの法律による療養の給付として行われたものとした場合におけるこの法律による一部負担金の額(第四十三条第一項の規定により第四十二条第一項の一部負担金の割合が減ぜられているときは、その減ぜられた割合による一部負担金の額)を超えるとき、又は前項に規定する法令(介護保険法 を除く。)による給付が医療費の支給である場合において、その支給額が、当該療養につきこの法律による入院時食事療養費、入院時生活療養費、保険外併用療養費、療養費、訪問看護療養費、特別療養費又は移送費の支給をすべきものとした場合における入院時食事療養費、入院時生活療養費、保険外併用療養費、療養費、訪問看護療養費、特別療養費又は移送費の額に満たないときは、それぞれその差額を当該被保険者に支給しなければならない。
3 前項の場合において、被保険者が保険医療機関等について当該療養を受けたときは、保険者は、同項の規定により被保険者に支給すべき額の限度において、当該被保険者が保険医療機関等に支払うべき当該療養に要した費用を、当該被保険者に代わつて保険医療機関等に支払うことができる。ただし、当該保険者が第四十三条第一項の規定により一部負担金の割合を減じているときは、被保険者が同条第二項に規定する保険医療機関等について当該療養を受けた場合に限る。
4 前項の規定により保険医療機関等に対して費用が支払われたときは、その限度において、被保険者に対し第二項の規定による支給が行われたものとみなす。

この件の男性の場合,雇用契約にないのに社保に入っていたために,隙間に該当してしまったというわけなのです。

そこで,全額負担となってしまったということのようなのですが,訴訟を提起して,国には慰謝料,協会けんぽには保険適用を求める請求をしている模様で,根拠として憲法に言及しており,「高齢者の就労環境が変化しているのに国会が立法を怠った。社会保障をうたった憲法に違反する」としている模様です。

15万人ほど高齢者がこのような形で働いているとのことで,立法事実としてどうなのかが問題となりそうな形成となっています。

しかし,社会保障は立法裁量の色彩が強いこと,立法不作為が違法と評価されるのは選挙権ですらかなりハードルが高いことからいくと,このような構成で行くとなかなか厳しいものが予想されます。

国民健康保険法との比較という観点から主張をすることはありかもしれませんが,高齢者ともなると,後期高齢者になるまでの間ならある意味,健康保険をどうするかは選択できる問題ですので平等の形で話をすることは難しいような気がします。

政策形成訴訟の意義はあるのかもしれませんが,実のところ,構成には考えようがあるような気がします。

余談ですが,報道によると原告はけがをした高齢者の男性ではなくその長女のようなのです。どういう法的根拠でこうなっているのでしょうか。成年後見等になっているのでしょうか。この点については情報不足でよく
わからないところがあります。

About Arakawa

サラリーマン経験のある弁護士兼社会保険労務士 このサイトでは、ビジネス関連の法律ニュースをもとにして私見をお送りするブログです。 ●筆者紹介 埼玉県立川越高校卒 東京大学法学部卒 東京大学大学院法学政治学研究科修士課程修了(法学修士) 専攻・国際私法、国際取引法、会社法 某企業で法務担当というよりむしろ労務担当 東大ロースクール修了 新司法試験合格 弁護士登録 現在,弁護士兼社会保険労務士です。