非常に長くてわかりにくいタイトルですみません。
端的にいうと,労働委員会によって出された救済命令を行政訴訟で争っている際に,そもそも組合員がいなくなってしまった場合,その訴訟の訴えの利益について,救済命令の内容によってはなくならない場合があるという判例が出ました。
最高裁判所第二小法廷平成24年4月27日判決 平成22年(行ヒ)第46号 不当労働行為救済命令取消請求事件
労働委員会によって出された救済命令について,訴訟で争っているうちに,組合がなくなってしまった場合については,すでに判例があり,労働組合への給付を命じていた救済命令だったことから,売ったの利益がないとしています(最判平成7年2月23日民集49巻2号393頁【ネスレ日本事件】)。
本件は,組合がなくなってしまったわけではなく,組合そのものは産別なので存続しているのですが,当該使用者が雇用しているその産別所属の組合員は係争しているうちにいなくなってしまったという事例です。
事案もなかなかい興味深く,組合員を排除するためにどのような行動のバリエーションがあるのかを考える上で,いい事例なのですが,時間の都合で割愛いたします。
要するに,組合員の仕事がなくなるように,事業に必要な機材(本件では船舶)と人員を完全に他社から賃貸借する形(船舶なので傭船契約ということになります)にしてしまったという行動を使用者が取ったところ,組合が不当労働行為だとして救済命令を申し立てたという事件です。
本件では,組合の申立てによって,労働委員会が出した命令は,多岐にわたっており,以下のような内容でした。
- 使用者の業務に,組合員の乗り込んでいる船舶を使用すること
- 傭船契約について団交に応じること
- 上記二点についてのポストノーティス
- 労働協約の更新が行われなかったことが紛争になっていたので,具体的な結論がでるまで従前の労働協約にしたがって労使関係を営むこと
- 組合員の特別手当を廃止していたので,その支払
- 組合員の就労に関する団交を行うこと
- 上記三点についてのポストノーティス
上記の救済命令が出た後に,当該使用者の雇用している組合員はすべて退職してしまいました。
そこで,救済命令の取消訴訟において,原審はこのような事情の変更にかんがみて,すべての訴えの利益は失われたとして本件訴訟を却下しました。
その理由として,すでに退職してしまったので,団交をする意味がないとして団交に係る部分を却下したほか,それ以外の部分についても事情変更にかんがみて,不可能と述べて,要するに実質判断をしています。
しかし,最高裁は,団交以外の救済命令については,義務の履行が客観的に不可能ということまでは言えず,その履行が救済の手段方法として意味を失ったとまでは言えないとして,この部分の判断は違法であり,却下は許されないとして差戻しをしました。
確かに,原審のはあくまで実質論であり,組合員はいないものの労働協約が従前のまま存続しているなどの在り様は,理論上は観念できますので,最高裁の言うことは理屈としてはその通りということになります。
この法理論の部分については,千葉判事が補足意見で,上記ネスレ日本事件とも整合するとしています。
したはって,救済命令の履行が客観的に不可能であるとはいえず,その履行が救済の手段方法として意味を失ったとまでは言えない場合には,訴えの利益は失われないという判断が確立されたものということができるでしょう。
こうみると,最高裁は,救済命令を維持する方向,労働者よりの判断をしているように受け取れますが,実はそういうことではないことが補足意見に書かれています。
本件は,あくまで却下してしまっていいかという問題であり,訴訟要件の問題に過ぎません。その段階をクリアするか否かは,ある意味形式的に判断しないといけないということが改めて述べられているにすぎません。補足意見では,この救済命令は,現実的に意味がないものであり,拘束力が認めなれないのではないかということが示唆されており,実体判断をすることを促しています。
したがって,労働事件の側面における新たな規範というよりは,民事訴訟法の原則にのっとった判断がされたというだけなのではないかと考えられます。