最高裁,不動産を時効取得後も所有権移転登記をしていない間に,原所有者が当該不動産に抵当権を設定した場合,抵当権設定登記から起算して再度取得時効期間が経過したならば抵当権は消滅すると判示


長くて,しかも意味が分かりにくいタイトルで申し訳ありません。

民法に取得時効が成立すると,抵当権は消滅するとした条文があります。

第397条(抵当不動産の時効取得による抵当権の消滅)
債務者又は抵当権設定者でない者が抵当不動産について取得時効に必要な要件を具備する占有をしたときは、抵当権は、これによって消滅する。

一方で,時効と登記という論点がありまして,判例によると,時効完成前に第三取得者が現れた場合には登記なくして時効取得が優先しますが,時効取得後に第三取得者が出た場合,対抗問題になります。

そして,時効完成後の第三者の場合には,第三者の登場後に時効完成になるように時効の起算点をずらすことは認められていません。

これは所有権の問題についての判例理論なのですが,抵当権も物権であるためか判例はこの考え方を上記のような抵当権と時効取得が交錯する場合にも適用しています。

最判平成15年10月31日判タ 1141号139頁

被上告人は,前記1(5)の時効の援用により,占有開始時の昭和37年2月17日にさかのぼって本件土地を原始取得し,その旨の登記を有している。被上告人は,上記時効の援用により確定的に本件土地の所有権を取得したのであるから,このような場合に,起算点を後の時点にずらせて,再度,取得時効の完成を主張し,これを援用することはできないものというべきである。そうすると,被上告人は,上記時効の完成後に設定された本件抵当権を譲り受けた上告人に対し,本件抵当権の設定登記の抹消登記手続を請求することはできない。

しかし,このたび,取得時効成立後に抵当権が設定され,その後,再び取得時効の時効期間が経過したという事案で,最高裁が時効取得によって抵当権が消滅するという判断を示したという一見すると上記の平成15年判例と異なる判例が出てしまいました。

最高裁判所第二小法廷 平成24年03月16日判決 平成22(受)336 第三者異議事件

最高裁は以下のように述べています。

不動産の取得時効の完成後,所有権移転登記がされることのないまま,第三者が原所有者から抵当権の設定を受けて抵当権設定登記を了した場合において,上記不動産の時効取得者である占有者が,その後引き続き時効取得に必要な期間占有を継続したときは,上記占有者が上記抵当権の存在を容認していたなど抵当権の消滅を妨げる特段の事情がない限り,上記占有者は,上記不動産を時効取得し,その結果,上記抵当権は消滅すると解するのが相当である。

まったくもって矛盾しているとしか読めませんが,実は細かい事実の違いが平成15年判例と本件との間にはあります。

上記の引用部分ですでに明らかになっているのですが,平成15年判例では,時効取得に基づく登記を有しているのですが,本件では登記は得ていないという違いがあるのです。

このため判例の立場としてはブランクであった部分についての新たな判示ということで矛盾はしてないということなのでしょう。

しかし,理論的に考えると,登記には公信力はなく実体法上の権利とは別であるので,登記の有無で判断を分けることに合理性があるのかよくわかりません。

したがって,この判例はいったいどういう位置づけなのか,把握は容易ではないのですが,さしあたり覚えておく内容としては,取得時効によって所有権を取得したことを登記したか否かで判断が分かれていると整理しておくことになるのではないでしょうか。

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About Arakawa

サラリーマン経験のある弁護士兼社会保険労務士 このサイトでは、ビジネス関連の法律ニュースをもとにして私見をお送りするブログです。 ●筆者紹介 埼玉県立川越高校卒 東京大学法学部卒 東京大学大学院法学政治学研究科修士課程修了(法学修士) 専攻・国際私法、国際取引法、会社法 某企業で法務担当というよりむしろ労務担当 東大ロースクール修了 新司法試験合格 弁護士登録 現在,弁護士兼社会保険労務士です。