東京地裁,アートネイチャーが不当に安値で新株を発行するなどして会社に損害を与えたとして同社の株主が,引き受けた同社の元社長らに会社に対して損害を賠償するよう求めた株主代表訴訟で,請求の一部を認容して約2億2000万円の支払いを命じる


かつら大手のアートネイチャーが,安値で新株発行などをして,会社に損害を与えたとして,それらを引き受けた当時の社長を含む当時の役員に対して,株主が会社に損害賠償をするように求めていた株主代表訴訟で,東京地裁が請求の一部認容の判決を出していたことが明らかになりました。

報道によると,同社は,2003年11月に自己株式を当時の社長に,株価の4分の1以下の1500円で発行,2004年3月には,同じ価格で4万株を当時の社長に発行したとのことです。

これに対して,東京地裁は,自己株式の方は,もともと社長の株式だったものを同額で戻したものとして適正としましたが,新株発行は不公正として,こちらについて差額の賠償を認めました。

 

この件で気になるのは法的構成です。

新株発行については,株式引受人の差額支払義務が会社法の条文上存在しており,これは株主代表訴訟の対象でもあります。

第212条(不公正な払込金額で株式を引き受けた者等の責任) 
募集株式の引受人は、次の各号に掲げる場合には、株式会社に対し、当該各号に定める額を支払う義務を負う。
一 取締役(委員会設置会社にあっては、取締役又は執行役)と通じて著しく不公正な払込金額で募集株式を引き受けた場合 当該払込金額と当該募集株式の公正な価額との差額に相当する金額
二 第二百九条の規定により募集株式の株主となった時におけるその給付した現物出資財産の価額がこれについて定められた第百九十九条第一項第三号の価額に著しく不足する場合 当該不足額
2 前項第二号に掲げる場合において、現物出資財産を給付した募集株式の引受人が当該現物出資財産の価額がこれについて定められた第百九十九条第一項第三号の価額に著しく不足することにつき善意でかつ重大な過失がないときは、募集株式の引受けの申込み又は第二百五条の契約に係る意思表示を取り消すことができる。

この規定は,あまり議論されてませんが,通謀がいること,著しく不公正な価格という要件になっていることから非常にハードルが高いものとなっています。

本件がこの構成なのか,任務懈怠による損害賠償責任になっているのかわかりませんので,はっきりとは言えませんが,212条の方だとしたら,適用を肯定されたのは珍しいことだといえると思われます。

また,法的構成に関係なく,役員が株価の4分の1以下の価格で募集株式を引き受けると,会社に対して損害賠償責任が生じることを肯定した事例として意味があるといえるでしょう。

 

裁判例情報

東京地裁平成24年3月15日判決

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About Arakawa

サラリーマン経験のある弁護士兼社会保険労務士 このサイトでは、ビジネス関連の法律ニュースをもとにして私見をお送りするブログです。 ●筆者紹介 埼玉県立川越高校卒 東京大学法学部卒 東京大学大学院法学政治学研究科修士課程修了(法学修士) 専攻・国際私法、国際取引法、会社法 某企業で法務担当というよりむしろ労務担当 東大ロースクール修了 新司法試験合格 弁護士登録 現在,弁護士兼社会保険労務士です。