何を言っているのかが分からないようなタイトルになっていますが,制度の複雑さゆえに正確な表現をしようとすると文言上意味不明になりそうになってしまいます。ご了承ください。
労災保険は,労働者が業務上災害にあった場合に,給付があるという労働者保護の制度です。
しかし,事業主も入ることができまして,これを特別加入といいます。
この制度の趣旨について,厚生労働省のパンフレットでは以下の用に言及しています。
労働者以外の方のうち、その業務の実情、災害の発生状況などからみて、特に労働者に準じて保護することが適当であると認められる一定の方について特別に任意加入を認めているのが、特別加入制度です。
これだと抽象的でよくわかりませんが,要するに事業主といえども,中小規模であり,労働者とともに現場で労働するような働き方をしている場合には,労働者と同じく労災保険の保護を及ぼすべきであるということで,それを具現化したものです。
特別加入制度は,雇用する労働者について労災保険関係が成立していることと,労働保険の事務処理を労働保険事務組合に委託していることという要件が必要です(労災保険法33条1号,ただし本件は改正前の旧法なので条文の位置がずれています)。
この際,事業ごとに加入する必要があるとされています(これは33条1号の文言等から明らかです)。
これは複数の事業を展開している事業主の場合,労働者について労災保険関係が成立するのは,特定の事業についてのみになることがあるために,その部分でだけ,事業主も労災保険に加入していることになるというわけです。
しかし,この事業の範囲が問題となる事件が発生したのが本件です。
最高裁判所第二小法廷 平成24年02月24日判決 平成22(行ヒ)273 労働災害補償金不支給決定処分取消請求事件
本件の事実を端的にまとめてしまうと,建設業を営んでいた事業主が,営業をしていた際に,車ごと池に転落して死亡したという事件です。
建設業は家内工業といった規模でしたが,家族のほかにとび職も使っており,事業主も業務内容を「建設工事施工 8:00~17:00」として特別加入の申請をして,承認されていました。
こう考えると,労災が認められてよさそうですが,不支給の処分がされました。
その理由は,この建設業で雇われていた労働者は,施工をするだけであり,営業は事業主が単独で行っていただけであり,業務の内容とは認められないとされたのです。
この処分に対して遺族が,取り消し訴訟を提起したのが本件です。
建設業の営業の最中での事故なら,含まれてもよさそうですが,原審である広島高裁は,この会社の労働者の業務には,営業活動は含まれていなかったことから,労働者の加入の範囲を超えられないという制度趣旨から,業務起因性を否定して,請求を棄却したのです。
これに対して最高裁は,結論は請求棄却で是認したのですが,理由付けを変えました。
一番最初に制度について述べたとおり,労災の特別加入は,事業ごとの加入になるという点を重視して,本件においては,保険関係が成立しているのは現場で行う建設業だけなので,建設業の営業活動について特別加入できるはずがないとしたのです。
建設業を,営業と現場作業で分けるというのは,一連の事業なのだから変ではないかと思えないのでもないのですが,実は労災保険法の方でも建設業について現場作業とそれ以外を分けている節があるということからこのような判断となったものです。
最高裁は,多くの根拠を上げて,固く論証してます。
- 労災保険関係が成立したら,事業主が届け出ないといけない事項に,事業の行われる場所が含まれていること
- 建設業に関して,労災保険率が,現場作業とそれ以外で分けられていること
- (小さく言及しているだけですが)労災保険法施行規則で,「土木、建築その他の工作物の建設、改造、保存、原状回復、修理、変更、破壊若しくは解体又はその準備の事業」のみを取り出して規定している箇所が存在すること
以上から,建設事業では,現場における活動と,それ以外の活動は別の事業であり,保険関係も別に成立するとしました。
そして,本件では,労働者は現場作業のみに従事しているので,事業主について営業活動の事業について特別加入が成立する余地はないとしたのです。
何だか,素朴な感情では,不可解に思えないでもないですが,保険というものがそもそもリスクに応じて保険料を納めるものであることから,同じ建設業でもリスクが違う分野がある以上,労災保険法上分けて考えることには合理性があります。
射程はやや限定的で,特殊な事例についての判断ですが,根底に労災保険制度の趣旨に立ち返っての考察が含まれており,意義深い判決だと思われます。