最高裁,JR東日本が動労千葉の組合員を運転士に発令しなかったことは不利益取扱い,および,支配介入の不当労働行為に該当しないと判断


不当労働行為該当性についての新たな判例が出されましたので,取り上げます。

JR東日本には,その前身の国鉄以来の歴史的経緯から,複数の労働組合が存在していますが,そのうちの一つで千葉支社管内にしか存在しない動労千葉という組合があります。

その動労千葉の組合員が,東日本旅客鉄道労働組合など他組合の組合員を比べて,運転士の発令で差別されたとして,不当労働行為だとしていた事件で,最高裁にまで至りました。

最高裁判所第一小法廷平成24年02月23日判決 平成22(行ヒ)52 不当労働行為再審査棄却命令取消請求事件

 

この事件の理解には,少し前提知識が必要です。

現在のJR各社では違うのですが,国鉄時代には,現業職員を職種ごとに採用していました。運転士として採用されたらいきなり運転士であり,駅員や車掌などの別の職種とは厳然と分けられていたのです。

このため職種ごとに組合ができてしまい,特に労働が計画的になる乗務がある職種では,特に戦闘的な組合になってしまうという事態になってしまいました。

そこで,JR化後は,職種ではなく,昇進して順次できるようになる仕事という位置づけに変えました。

そして,運転士を駅社員,車掌とたどって最終的になることができる仕事としたのです。この順位付けはそれはそれで後日問題を引き起こすのですが,それは別論ですので,ここでは触れません。

 

動労千葉は,もともと運転士および国鉄時代に運転士採用の枠で採用された労働者からなる組合でした。しかし,国鉄末期は大混乱に陥っていたことから,労働者が余っている状態であり,運転士の資格を持ちながら運転士の発令を受けていない労働者がたくさんいるという状態でした。

JR誕生後,各社は営業攻勢に打って出ますが,その中で,JR東日本千葉支社でも運転士の増員を図る必要がでました。

そこで,

  1. 運転士の経験者から運転士の発令をすること
  2. 運転士の経験がないが運転士として採用した社員に車掌の教育を施して,昇進ルートに乗せて運転士にまで至らせる
  3. その後は,普通に昇進ルートでしか運転士になれない

という対応がとられました。

 

これらの運転士になる過程において,動労千葉の組合員が組合を理由にした差別を受けたとして労働委員会に救済命令を求めたのが本件の発端です。

運転士への発令については以下のような事実がありました。

  • 上記1については,60名の発令中,動労千葉の組合員は23名であったこと
  • 上記2については,東日本旅客鉄道労働組合からは希望者全員の9名が発令を受けたものの,動労千葉の組合員は11名中3名であったこと
  • 上記3については,動労千葉からは昇進とは別に1名が発令を受けただけであったこと

以上の事実から,千葉県労働委員会は不当労働行為であるとして,救済命令を出しましたが,中央労働委員会がこれを取消しまして,動労千葉が,取消訴訟を提起したのが本件訴訟です。

第一審は請求を棄却しましたが,控訴審の東京高裁は,原判決破棄をして,組合側の請求を認めました。

その理由は,組合ごとの運転士への発令の数的差異について,参加人であるJR東日本が,動労千葉の組合員について適性や成績で劣るなどの主張をしていないことから,組合嫌悪から生じたものと推定されるとし,加えて,経営幹部が行った動労千葉を嫌悪する旨の発言も言及して,この組合嫌悪を推認させるものとしたのでした。

 

しかし,最高裁は,この控訴審判決を破棄,請求を棄却した第一審判決を正当として,動労千葉の逆転敗訴の判決を言い渡しました。

 

最高裁は,組合間の数的差異について,

被上告人所属者の中で対象者に選ばれなかった者の能力や勤務成績等が,対象者に選ばれたA労組所属者と比較して劣るものでなかったということについては,被上告人が一応の立証をすべき

として,本件では特段の主張がないことを指摘して

その上で1においては,23名が発令を受けていること,人事運用そのものについてはすべての組合に等しく適用されていること,上記1から3に至る運用の変更についても労働者の需給のためであることを指摘して,組合を理由に不利益に取り扱ったとまでは言えないと判示し,支配介入にも当たらないとしました。

重要な点であるといえるのは,組合側で能力や適性の点で組合間で違いがないことについて一応の立証をするべきとしていることでしょう。

これは,賃金差別の不当労働行為該当性における大量観察方式において労働組合側に主張立証責任が負わされている賃金に組合間に差があることなどを,昇進差別に類推したものということでしょう。

使用者と組合の主張立証責任の分担についての重要な判示であり,実務に影響を与えるのではないかと思われます。

 

最高裁も,昇進の過程としての運転職であることは,昇進基準がそうなっていることから前提として検討をしてますが,一般的な労働法に立ち返って考えると,職種限定の労働契約でもむすばない限り,労働者に特定の仕事に就く権利があるわけではないはずなので,そもそも論的におかしなところがあるのは確かです。

そして,この事件の最も根底には鉄道業においては一番格の高い仕事が運転士であるという意識があるのです。実際賃金もいいというのは確かにあるのですが,昔からの意識が作用しているのも厳然たる事実です。こういう社会一般からはかけ離れた問題によって,長く騒ぎになっていたということは,昨今の経済情勢から行くと,非常に奇異に映ることでしょう。

にほんブログ村 経営ブログ 法務・知財へ

About Arakawa

サラリーマン経験のある弁護士兼社会保険労務士 このサイトでは、ビジネス関連の法律ニュースをもとにして私見をお送りするブログです。 ●筆者紹介 埼玉県立川越高校卒 東京大学法学部卒 東京大学大学院法学政治学研究科修士課程修了(法学修士) 専攻・国際私法、国際取引法、会社法 某企業で法務担当というよりむしろ労務担当 東大ロースクール修了 新司法試験合格 弁護士登録 現在,弁護士兼社会保険労務士です。