看護士が勤務先以外の病院の検査で判明したHIV感染を,勤務先に通知されたことで休職を強要されたとして,勤務先と検査機関を提訴


労働者の健康診断の結果というプライバシーを使用者が知って不利益的取り扱いをするというのは昔からある労働法の問題です。

位置づけとしては,人格権侵害に該当するかという問題になります。

基本的には,労働契約が成立している労働者の健康状態について使用者が知りえた場合,それだけを理由に不利益取り扱いをすることはできないとされています。

やはり,あくまで契約であるということの本旨に立ち返り,労務の履行ができるかという点,従来通りの労務の提供に支障があったとしても配転の可能性などを検討しないといけないということになるからです。

 

さて,どのような病気に対しても,このように考えていけばいいのですが,いわゆるエイズと呼ばれるHIV感染については,事態の重大性にかんがみて,通達が出ています。

厚生労働省のウェブサイトからは見ることができないのですが,他のサイトに掲載されています。

職場におけるエイズ問題に関するガイドラインについて

 

これによると,エイズに感染していることを理由としての解雇などはできないということが明示されています。

あくまで通達にすぎないのですが,通達が大きな意味を持つのが労働法の分野の特徴です。

エイズに関して不利益取り扱いをして違法とした裁判例もいくつか出ているのですが,このたび,同じような事態が発生したことが明らかになりました。

「HIV感染で退職を強要」看護師が2病院提訴 : 最新ニュース特集 : 九州発 : YOMIURI ONLINE(読売新聞)(2012年1月13日  読売新聞)

エイズウイルス(HIV)の検査を行った大学病院が、本人に無断で感染していることを勤務先の総合病院に伝えたため退職に追い込まれたなどとして、20歳代の看護師が両病院側に計約1100万円の損害賠償を求める訴訟を福岡地裁久留米支部に起こした。

(略)

訴状によると、看護師は昨年6月、目に異常を感じ、勤務先の総合病院を受診。昨年8月には総合病院から紹介された大学病院で簡易検査を受け、陽性反応が出た。看護師はその際、大学病院の医師から「仕事を続けることは可能。患者に感染させるリスクは小さいので、上司に報告する必要もない」と説明を受けたと主張。勤務先の総合病院には感染を報告せず、職場復帰した。

その後、総合病院の幹部らから「HIVが陽性という報告を受けた。患者への感染リスクがあるので仕事を休んで下さい」と言われ、大学病院から感染の事実が伝わっていることが判明したという。さらに「業務規定では90日以上休むと退職扱いになる」などと迫られ、結局、同11月末に退職したとしている。

 

原告の主張は,かなり明確に通達ではできないとされていることが行われたと述べています。この事件は事実関係が問題となりそうなので,即断することはできません。事件の推移を見守りたいと思います。

HIVと解雇等に関する関連裁判例

東京地判平成7年3月30日労判667号14頁

千葉地判平成12年6月12日労判785号10頁

東京地判平15年5月28日労判852号11頁

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About Arakawa

サラリーマン経験のある弁護士兼社会保険労務士 このサイトでは、ビジネス関連の法律ニュースをもとにして私見をお送りするブログです。 ●筆者紹介 埼玉県立川越高校卒 東京大学法学部卒 東京大学大学院法学政治学研究科修士課程修了(法学修士) 専攻・国際私法、国際取引法、会社法 某企業で法務担当というよりむしろ労務担当 東大ロースクール修了 新司法試験合格 弁護士登録 現在,弁護士兼社会保険労務士です。