西武鉄道事件最高裁判決の検討


昨年の9月に出た判決でありながら,取り上げていなかった西武鉄道事件の最高裁判決をいまさらですが,取り上げます。

最高裁判所第三小法廷平成23年09月13日判決 平成21(受)1177 損害賠償請求事件

最高裁判所第三小法廷平成23年09月13日判決 平成22(受)1485 損害賠償請求事件

最高裁に係属したのは,個人投資家ルートの1177号事件と,機関投資家ルートの1485号事件の二件ですが,判示はほとんど同じですので,まとめて取り上げます。

 

西武鉄道事件はこのブログでも,完全ではありませんが,これまで何回か取り上げてきました。

簡単にまとめると以下のような事件です。

西武鉄道事件というのは,当時東証一部に上場されていた西武鉄道が,有価証券報告書に虚偽記載をしており上場廃止になってしまったことから,株主が株価の下落等の損害を被ったとして民法709条に基づく損害賠償請求をしたというものです。

この有価証券報告書の虚偽記載というのは,大株主の保有株式数についての虚偽記載であり,具体的にはコクドなどの上位株主が保有していた分を過少に記載していたというものです。

正確には,上位株主10名で,90%近い株式を保有しており,これは東証の少数特定者持株数基準に抵触しており,解消されないと上場廃止事由に該当するという状況でした。

この虚偽記載が平成16年10月13日に明るみに出て,11月16日に東証は西武鉄道株の上場廃止を決定,12月17日に上場廃止となりました。

 

この後,上記のような法律構成で損害賠償請求訴訟が,西武鉄道,虚偽記載に係る西武鉄道株を保有していた会社を承継した会社,それらの会社の役員等を相手取って起こされたのです。

 

原告の主張は三本立てになっており,

  1. 取得自体が損害で,取得価格全額が損害額
  2. 上場できるはずがないのに上場されており,その分のプレミアムを含んだ価格で取得したので,その分が損害
  3. 公表の日の終値と処分時,取得し続けている者は事実審口頭弁論終結時との差額が損害

というものでした。

原審東京高裁は,上場されていた西武鉄道株が無価値であったということはできないとして1を否定し,2も上場プレミアムなるものは,原告が株式を取得した時点では未発生といえなくもないという言い方で否定してしました。

そして,3については,株価の急落は虚偽記載によって減価が現実化したとして損害と認定しました。

ただし,ろうばい売りは虚偽記載から通常生じる結果ではないとしてこれを除いて,損害額の認定をしました。

 

これに対して,最高裁は,原審の法的構成を否定,破棄差し戻しの判決をしました。

まず,最高裁は,損害について1の立場を採用しました。

これはいわば損害事実説的な立場といえ,最高裁の不法行為に基づく損害賠償に関する立場に整合的です。

ただし,有価証券報告書の虚偽記載のあらゆる場合について,取得自体が損害であるといっているわけではありません。

本件の事実関係に照らして,コクドなどの持株数が多すぎて,解消の措置を取っても,1か月程度で上場廃止の結論が出たということに照らして上場廃止の回避は無理であったことを指摘して,虚偽記載がなければ取得できなかった,あるいは取得を避けたことは確実としています。

したがって,取得自体が損害ということが,すべからく同種事案に適用されるとはいえないということになりましょう。

 

続いて損害額の算定ですが,これについては3の立場を基準としつつ,ろうばい売りを控除することは許されないとしました。

当該虚偽記載と相当因果関係のある損害の額は,上記投資者が,当該虚偽記載の公表後,上記株式を取引所市場において処分したときはその取得価額と処分価額との差額を,また,上記株式を保有し続けているときはその取得価額と事実審の口頭弁論終結時の上記株式の市場価額(上場が廃止された場合にはその非上場株式としての評価額。以下同じ。)との差額をそれぞれ基礎とし,経済情勢,市場動向,当該会社の業績等当該虚偽記載に起因しない市場価額の下落分を上記差額から控除して,これを算定すべきものと解される。

(略)

虚偽記載が公表された後の市場価額の変動のうち,いわゆるろうばい売りが集中することによる過剰な下落は,有価証券報告書等に虚偽の記載がされ,それが判明することによって通常生ずることが予想される事態であって,これを当該虚偽記載とは無関係な要因に基づく市場価額の変動であるということはできず,当該虚偽記載と相当因果関係のない損害として上記差額から控除することはできない

有価証券報告書の虚偽記載が起きたらろうばい売りがあるということは当然の反応であるので,虚偽記載と因果関係があるということをいっているものです。

この判示は,あらゆる虚偽記載に通用するものなのかが問題となりそうですが,一般論としての言い方をしている以上,虚偽記載の内容を問わず有価証券報告書の虚偽記載は市場を動揺させてろうばい売りを呼ぶでしょうから,すべからく適用されるのではないかと考えられます。

以上のような法律論の結果としては東京高裁の結論よりも,ろうばい売りを引いた分だけ損害額が増えることになりますので,差し戻してその点についての審理をつくすことになったものです。

 

したがって,会社の不祥事によって株価の下落があった場合のうち,特定の場合について,民法709条ルートで損害賠償をした場合の損害額の算定の見通しができたことになります。

本件は純粋に民法の事件であり,有価証券報告書の虚偽記載で提出者(当の会社のことです)に対して損害額の推定を定めている金融商品取引法21条の2の適用はありません。

21条の2では,公表前1ヶ月と公表後1ヶ月の株価の平均の差を損害として推定しています。

本件によると,原告によって異なりますが,考慮に入れる株価の期間は,公表前後の1ヶ月よりは広がる可能性があります。

同種事案における損害賠償請求の法的構成を考える際の有用な考慮点をしめした判決といえましょう。

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About Arakawa

サラリーマン経験のある弁護士兼社会保険労務士 このサイトでは、ビジネス関連の法律ニュースをもとにして私見をお送りするブログです。 ●筆者紹介 埼玉県立川越高校卒 東京大学法学部卒 東京大学大学院法学政治学研究科修士課程修了(法学修士) 専攻・国際私法、国際取引法、会社法 某企業で法務担当というよりむしろ労務担当 東大ロースクール修了 新司法試験合格 弁護士登録 現在,弁護士兼社会保険労務士です。