最高裁,無権利者が他者に販売委託をした場合,目的物の真の権利者がこれを追認しても販売代金の引渡請求権を取得しないと判示


またもや,10月にでていた判例を遅ればせながら取り上げます。

無権代理の追認についての民法116条は,無権代理以外についても「法意に照らして」ということで類推適用されることがあります。

第116条(無権代理行為の追認) 
追認は、別段の意思表示がないときは、契約の時にさかのぼってその効力を生ずる。ただし、第三者の権利を害することはできない。

今回,同じく民法116条の類推適用について最高裁判決が出ました。

 

最高裁判所第三小法廷平成23年10月18日判決 平成22(受)722 売買代金請求事件

本件の事実はなかなかものすごいものです。

工場を賃借してブナシメジを栽培していた被上告人と訴外賃貸人との間に賃貸借をめぐって紛争が生じたために,なんと賃貸人が工場を占拠する事態となり,その占拠している間に賃貸人がブナシメジを勝手に上告人に対して販売委託に出してしまいました。

その後,被上告人はこの販売委託契約を追認して,上告人に対して,販売代金の引き渡しを要求したという事件です。

 

他にもさまざまな構成があったのですが,最高裁まで残ったのは,販売委託を追認したので,有効になるということで,販売代金の引き渡しを請求するという構成でした。

原判決は,民法116条を類推適用して,遡及的に有効になったとして,請求を認めました。

民法116条には,有名な判例があり,無権利者が他人の権利を処分しても,これを追認したら遡及的に有効になると判示した事件があります。

最判昭和37年8月10日民集第16巻8号1700頁

或る物件につき、なんら権利を有しない者が、これを自己の権利に属するものとして処分した場合において真実の権利者が後日これを追認したときは、無権代理行為の追認に関する民法一一六条の類推適用により、処分の時に遡つて効力を生ずるものと解するのを相当とする

この昭和37年判例を見ると,本件の原判決の判断は当然であるように思われます。

しかし,最高裁は,これを否定,原判決を破棄したのです。

無権利者を委託者とする物の販売委託契約が締結された場合に,当該物の所有者が,自己と同契約の受託者との間に同契約に基づく債権債務を発生させる趣旨でこれを追認したとしても,その所有者が同契約に基づく販売代金の引渡請求権を取得すると解することはできない。

その理由は,つきつめると販売委託は債権であり,目的物について無権利者が委託者であっても当事者間では有効であるという点にあります。そして,追認があったからといって,債権債務の帰属を変更することになる法理はどこにもないということを指摘しています。

販売委託契約は,無権利者と受託者との間に有効に成立しているのであり,当該物の所有者が同契約を事後的に追認したとしても,同契約に基づく契約当事者の地位が所有者に移転し,同契約に基づく債権債務が所有者に帰属するに至ると解する理由はないからである。

代理は特に定められているものであることからすると,代理ではない法律行為についても,債権債務の帰属の変更の効果を生じる根拠はどこにもないというのはその通りでしょう。

 

しかし,上記,昭和37年判決との関係はどうなるのでしょうか。

実は,上記昭和37年判決は,抵当権の抹消登記請求事件なのです。

抵当権設定は,物権行為であるために,所有権者ではないと有効になしえませんが,それを事後的に所有権者が追認したという事例であり,債権債務の帰属の変更が問題となる事件ではない一方,事後的に有効性が左右されることがある性質の事件であったのです。

ですので,上記に引用した一般論を述べて,有効になるということを判示したのですが,その一般論ばかりが有名になってしまったきらいがありました。

しかし,本件を見ればわかるとおり,権利者の事後的な追認が,有効性を左右するというのは限定的な場合にしかありえないわけです。

なかなか意義深い判示をしている判例なのではないかと思います。

 

にほんブログ村 経営ブログ 法務・知財へ

About Arakawa

サラリーマン経験のある弁護士兼社会保険労務士 このサイトでは、ビジネス関連の法律ニュースをもとにして私見をお送りするブログです。 ●筆者紹介 埼玉県立川越高校卒 東京大学法学部卒 東京大学大学院法学政治学研究科修士課程修了(法学修士) 専攻・国際私法、国際取引法、会社法 某企業で法務担当というよりむしろ労務担当 東大ロースクール修了 新司法試験合格 弁護士登録 現在,弁護士兼社会保険労務士です。