震災復興の財源としてNTT株の売却と,経営への政府関与を残すため黄金株を発行させることを検討との報道がされる


すでに情報としては古くなってしまいましたが,震災復興の財源としてNTT株の放出が検討されているとの報道がありました。検討しているのは政府なのか民主党内なのかがいささかはっきりしないのですが,日経の報道では民主党内ではNTTに黄金株を発行させて政府で引き受けて,経営への関与を残すことが検討されているとのことでした。

しかし,その後,この黄金株の件はあまり俎上に上らなくなってしまい,例によって騒ぎになっただけで沙汰やみになりそうです。

また,東証は,事前に打診を受けた模様で,認めがたいとの意向を民主党に伝えている模様とも報道されています。

したがって,実現することを前提として検討するほどの問題ではないようですが,黄金株について東証にルールができてからの整理はしていませんでしたので,これを機会に確認してみたいと思います。

 

黄金株は,会社法で言うなら種類株の一種で拒否権付種類株式のうち,経営に関する内容についての拒否権を付したものということになります。

第108条(異なる種類の株式) 
株式会社は、次に掲げる事項について異なる定めをした内容の異なる二以上の種類の株式を発行することができる。ただし、委員会設置会社及び公開会社は、第九号に掲げる事項についての定めがある種類の株式を発行することができない。

(略)

八 株主総会(取締役会設置会社にあっては株主総会又は取締役会、清算人会設置会社(第四百七十八条第六項に規定する清算人会設置会社をいう。以下この条において同じ。)にあっては株主総会又は清算人会)において決議すべき事項のうち、当該決議のほか、当該種類の株式の種類株主を構成員とする種類株主総会の決議があることを必要とするもの

(略)

この拒否権種類株式について,東証は上場企業には原則禁止としています。その規定の仕組みは以下のようになっています。

有価証券上場規程[東京証券取引所]

第6章 上場廃止

第1節 本則市場の上場廃止基準

(上場内国会社の上場廃止基準)

第601条

本則市場の上場内国株券等が次の各号のいずれかに該当する場合には、その上場を廃止するものとする。この場合における当該各号の取扱いは施行規則で定める。

(略)

(17)株主の権利の不当な制限

(略)

 

有価証券上場規程施行規則[東京証券取引所]

第6章 上場廃止

第1節 上場廃止基準

(上場内国会社の上場廃止基準の取扱い)

第601条

規程第601条第1項第1号に規定する株主数並びに同項第2号に規定する流通株式の数、流通株式の時価総額及び上場株券等の数の取扱いは次の各号に定めるところによる。

(略)

13 規程第601条第1項第17号に規定する施行規則で定める場合とは、上場会社が次の各号のいずれかに掲げる行為を行っていると当取引所が認めた場合その他株主の権利内容及びその行使が不当に制限されていると当取引所が認めた場合をいう。

(略)

(3)拒否権付種類株式のうち、取締役の過半数の選解任その他の重要な事項について種類株主総会の決議を要する旨の定めがなされたものの発行に係る決議又は決定(持株会社である上場会社の主要な事業を行っている子会社が拒否権付種類株式又は取締役選任権付種類株式を当該上場会社以外の者を割当先として発行する場合において、当該種類株式の発行が当該上場会社に対する買収の実現を困難にする方策であると当取引所が認めるときは、当該上場会社が重要な事項について種類株主総会の決議を要する旨の定めがなされた拒否権付種類株式を発行するものとして取り扱う。)。ただし、株主及び投資者の利益を侵害するおそれが少ないと当取引所が認める場合は、この限りでない。

上場管理等に関するガイドライン[東京証券取引所]

(株主の権利の不当な制限)

6.

施行規則第601条第13項第3号に規定する株主及び投資者の利益を侵害するおそれが少ないと当取引所が認める場合に該当するかどうかの審査は、次の(1)から(4)までに掲げる事項その他の条件を総合的に勘案して行う。

(1) 会社の事業目的

(2) 拒否権付種類株式の発行目的

(3) 権利内容

(4) 割当対象者の属性

以上のように,上場規程で株主の権利の制限がされている場合には上場廃止と抽象的に定めがあり,施行規則で,拒否権付種類株式がその株主の権利を制限している場合が具体的にあげられています。

ただし,株主および投資家の利益を侵害するおそれが少ないと東証が認めた場合には,例外とされており,その判断に当たっては,ガイドラインで,要するに総合考慮するという定め方になっているわけです。

報道では,株主総会や取締役会で拒否権付種類株式を消却できる内容になっているなら認めるということが黄金株を東証が認めるかをめぐって問題となった時には言われていましたが,ルール化されてみるとその内容については明示されてはいないということになりましょう。しかし,実際の運用としては,株主総会や取締役会で消却できるということを譲ったわけではないでしょう。もっとも,会社の特殊性から認められる場合があることも事実でしょう。

たとえば,拒否権付種類株式を発行しながら東証に上場している唯一の例は国際石油開発帝石ですが,この会社の黄金株の内容は,消却に関しては,当該黄金株が国または国が出資する独立行政法人以外に譲渡された場合に取締役会決議で強制取得できるとなっています。

これは,いつでも消却できるという内容とは異なりますが,エネルギー開発という事業の特殊性ゆえに認められたものということで説明できるのでしょう。

これをNTTに転じて考えると,通信という事業の公益性はあるもののやはり市場性があることや規模が巨大であること,またNTTはすでに上場されており多くの株主がいる中で黄金株を発行しようというものであるのに対して,国際石油開発帝石は最初から黄金株が発行されていたことなどの違いがあります。

すると,やはり,既存の株主の権利を侵害することは否定できないという東証の見解が妥当なところだと思わ
れます。

結局のところ,そもそも実現の可能性は薄く,検討課題がやたらと取りざたされてしまう現政権になってからの傾向が現れた一件にすぎないと思われますが,震災対応を理由に極端な政策がとられるようだと日本経済の基礎を掘り崩してしまい,逆効果になりうることは認識しておきたいところです。

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About Arakawa

サラリーマン経験のある弁護士兼社会保険労務士 このサイトでは、ビジネス関連の法律ニュースをもとにして私見をお送りするブログです。 ●筆者紹介 埼玉県立川越高校卒 東京大学法学部卒 東京大学大学院法学政治学研究科修士課程修了(法学修士) 専攻・国際私法、国際取引法、会社法 某企業で法務担当というよりむしろ労務担当 東大ロースクール修了 新司法試験合格 弁護士登録 現在,弁護士兼社会保険労務士です。