最高裁,村上ファンドインサイダー事件で「公開買い付けを行うことの決定」の意義について,実現可能性が具体的に認められることは要しないと判示


いわゆる村上ファンドインサイダー事件で最高裁判決が出ました。

結論としては,懲役2年執行猶予3年、罰金300万円、追徴金約11億4900万円とした二審判決が確定することになりました。

最高裁判所第一小法廷平成23年06月06日決定 平成21(あ)375 証券取引法違反被告事件

 

金融商品取引法(証券取引法)の法的論点としては,

  • 業務執行を決定する機関の意義
  • 「公開買付け等を行うことについての決定」には実現可能性を要するか

という点が問題となった事件です。

 

最高裁判決も機関については簡単に求めておりまして,肝は実現可能性の点にあります。この記事でも,特に実現可能性についての点について取り上げます。

 

いきなり本題に入っていますが,この事件の構造やインサイダー取引規制と本件の論点について基本的な説明は,以下の記事をご覧ください。以下の記事で書いた点はこの記事では省略していますので,併せてご覧いただけると幸いです。

JAPAN LAW EXPRESS: 村上ファンドインサイダー取引事件と日本織物加工株インサイダー取引事件

 

本件は,上記記事でも取り上げました日本織物加工事件と類似しており,実現可能性を問わないとした第一審判決はこれに依拠して判決したのに過ぎないのですが,市場関係者からは,大変な批判が寄せられていました。

これに対して,控訴審は,決定の意義について,主観的にも客観的にもそれ相応の根拠を持って実現可能性があることを「決定」該当性の要件としていました。

しかし,最高裁は,日本織物加工事件の判決を「参照」して,以下のように判示しました。

公開買付け等の実現可能性が全くあるいはほとんど存在せず,一般の投資者の投資判断に影響を及ぼすことが想定されないために,同条2項の「公開買付け等を行うことについての決定」というべき実質を有しない場合があり得るのは別として,上記「決定」をしたというためには,上記のような機関において,公開買付け等の実現を意図して,公開買付け等又はそれに向けた作業等を会社の業務として行う旨の決定がされれば足り,公開買付け等の実現可能性があることが具体的に認められることは要しないと解するのが相当である

このように実現可能性の多寡を問わないという点は従来通りの立場を維持していますが,実現可能性が全くなく,一般投資家の投資判断に影響を及ぼさない場合には例外であることも付け加えています。

日本織物可能事件でも,「機関において株式の発行の実現を意図して行ったことを要する」と留保はつけていましたので,本件の例外部分の判示が,新しい判示であるとまでは言えないのではないかと思います。

このような実現可能性の多寡を問題としないという態度の理由は,重要なのは投資判断に影響を及ぼす情報を市場に出させることであり,その内容通りのことが実現されるかではないという点にあります。

金融商品取引法(証券取引法)のインサイダー取引規制の部分は,情報をいかに出させるかという点に主眼があるので,立法趣旨にまでたちかえると,この考え方になるのはある意味必然といえましょう。

このように,本件は日本織物加工事件の延長の色彩が強いと思われますが,実現可能性の点について最高裁の立場が改めて明確に判示されたという点では重要な意義があると思われます。

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About Arakawa

サラリーマン経験のある弁護士兼社会保険労務士 このサイトでは、ビジネス関連の法律ニュースをもとにして私見をお送りするブログです。 ●筆者紹介 埼玉県立川越高校卒 東京大学法学部卒 東京大学大学院法学政治学研究科修士課程修了(法学修士) 専攻・国際私法、国際取引法、会社法 某企業で法務担当というよりむしろ労務担当 東大ロースクール修了 新司法試験合格 弁護士登録 現在,弁護士兼社会保険労務士です。