塩見ホールディングスの第三者割当増資の件を以前取り上げましたが,取り上げた第三者割当増資より前に行った第三者割当増資の際に引受先がインサイダー取引をして利益を得ていたことがありました。
金融庁は,この件について証券取引等監視委員会から課徴金納付命令の勧告を受けていましたが,当該引受人から認めるとの答弁があったので,勧告の通りの決定が行われました。
株式会社塩見ホールディングスが実施した第三者割当増資の引受人による内部者取引に対する課徴金納付命令の決定について:金融庁
金融商品取引法の点の確認ですが,本件では被審人である引受人がインサイダー取引を認めていることから審判期日を開かないで決定がされています(183条2項)。
独禁法の同意審決のような手続にあたるものです。
会社法の点ですが,この第三者割当増資は,希釈化率がかなり高いものでした。以前の記事で取り上げた第三者割当増資も希釈化率がかなり高く,こちらでは証券取引所が希釈化率の高い第三者割当増資に株主総会の同意をとるようにとのルールを設けて以降のことでしたので,株主総会が開かれていたのですが,それ以前のことである本件では特段,株主への手続きがなかった模様です。有利発行とくらべると既存株主の利益を犠牲にしている程度は低いですが,犠牲はあるわけで,この機会を利用して利益を得ていたということは,既存株主との間では直接は法的問題にはならないのかもしれませんが,割り切れないものがあるように思えます。
金商法のエンフォースメントは,あくまで公法的なもので,その課徴金の額も算定式に依拠して機械的に出てきますので,事案によっては割り切れない結末になることもあるかもしれません。