幻冬舎事件で顕在化した信用取引株式の議決権行使問題について


JAPAN LAW EXPRESS: 幻冬舎株式を大量取得したファンドが制度信用取引による取得であったため,同社株主総会での議決権行使の可否について問題が浮上およびJAPAN LAW EXPRESS: 幻冬舎臨時株主総会,立花証券は欠席して,定款変更決議は可決されるの関連情報です。

商事法務1926号66頁のスクランブル(商事法務の最後のページに毎号載るコーナー)で,幻冬舎事件で問題となった信用取引で取得されており現引前の株式の議決権の帰趨という問題について一つの立場からの見解が示されましたので取り上げます。

 

実際の結末としては,株主は信用取引で利用した証券会社とされ,当該証券会社は議決権行使を棄権しました。

 

この点について,日経の法務面では,信用取引をしたファンドでも議決権行使ができるのではないか(正しくは,証券会社に指図をするという形)という見解と否定的な見解のどちらも示されていたと思うのですが,この商事法務の記事での見解は,否定というところで一貫しています。

 

根拠は,現引前は,①信用取引をした者は証券会社に対する債権的な請求権しかないという点と,②新株予約権など会社に対する権利者であっても株主となるまでは議決権行使を認められない点,③取引所のルールで明確に議決権行使できないことを規定している点などが指摘されています。

記事では,議決権行使はできないというところと,証券会社に対する指図もできないという二点に分けて整理されており,上記①が議決権行使がそもそもできないという点の根拠であり,②③が指図できないということの根拠として言及されています。

現引前は議決権行使はできないというところはその通りだと思いますが,証券会社に対する指図については,取引所のルールというのは根拠とはなりますが,そのために証券会社と顧客との間での債権的な関係に過ぎない指図についてすべからくできないとすることができるかはやや微妙に思います。

また,新株予約権でさえ株式となるまでは行使できないという点は,新株予約権と株式では権利そのものに違いがあり,当該払込みにかかる株主権がまだ生じていないので行使できないのが当然であるのに対して,信用取引にかかる株式の場合,すでに株式となっている以上,誰かしら議決権の行使ができないとおかしいのではないかという疑問があり,同列に論じることはできないのではないかと思われます。

証券会社も説明責任が生じるので自由に行使できるわけではないということもこの記事は言及しており,誰も行使できない議決権が生じてしまう解釈になっています。

取引所のルールの安定性のために,信用取引をした者の指図に任意に証券会社が応じることも許されないということは,いえるように思えますし,取引所のルールが会社法上の問題を規律することができるのかという問題にもなるので,その点からは疑問があるとも考えられます。

本件は,争われることなく終わってしまったので,議論はあまり深まりませんでしたが,ここで取り上げた記事のような論考がでてきて,議論が今後深まっていきそうです。

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About Arakawa

サラリーマン経験のある弁護士兼社会保険労務士 このサイトでは、ビジネス関連の法律ニュースをもとにして私見をお送りするブログです。 ●筆者紹介 埼玉県立川越高校卒 東京大学法学部卒 東京大学大学院法学政治学研究科修士課程修了(法学修士) 専攻・国際私法、国際取引法、会社法 某企業で法務担当というよりむしろ労務担当 東大ロースクール修了 新司法試験合格 弁護士登録 現在,弁護士兼社会保険労務士です。