濫用的会社分割と詐害行為に関する裁判例の追加的検討(1)


JAPAN LAW EXPRESS: 東京高裁、新設分割会社の債権者が詐害行為取消権に基づいて会社分割の取消等を求めていた裁判で、会社分割の取消を認めて現物返還の代わりの価格賠償を認めた原判決を支持して控訴を棄却およびJAPAN LAW EXPRESS: 会社分割を詐害行為取消権に基づいて取り消した東京高裁判決の検討の関連情報です。

いわゆる濫用的会社分割が行われた場合に,債権者に財産損害の回復を認めるのに当たり,会社分割そのものを詐害行為として取り消してしまうという裁判例がいくつか出てきており,理論的検討が行われてきています。

上記記事では,神作先生の論文について言及しましたが,近時の暑いテーマといえるでしょう。

この記事では議論の基本の確認として,この論点にかかわる裁判例をいくつか取り上げてみたいと思います。

 

上記記事で取り上げた東京地裁平成22年5月27日判例時報2083号148頁,控訴されて東京高裁平成22年10月27日金融法務事情1910号77頁となったクレープハウス・ユニ事件は突然出されたわけではなく,先行した関連事例がありました。

福岡地裁平成21年11月27日判決金融法務事情1911号84頁

この事件では,分割会社の破産管財人が詐害行為であるとして,濫用的会社分割を否認したというもので,新設会社が否認決定に対して異議を申し立てたという事件です。

福岡地裁は,会社分割を否認権行使の対象と判断して,請求を棄却しました。

会社分割を無効にするには会社分割無効の訴えによらなくてはいけないという原告の主張については,以下のように述べています。

原告は、会社法は、会社分割の効力を争うには、会社分割無効の訴えによらなければならないと定めており(会社法828条1項10号)、会社分割の無効について、期間制限等厳格な要件の下に,組織法的、画一的処理を予定しているのであって、破産法の否認の規定は適用されない等と主張する。
しかしながら、破産法に定められている否認権行使の要件は、会社分割の無効原因とは必ずしも一致するものではなく、また、その効果は、対象となっている行為による財産権の移転を当事者間において相対的に否定するにとどまり、会社の組織法的側面に影響するものではないのであって、上記会社法の規定の存在をもって、直ちに、新設分割について否認権行使が許されないと解することはできない。

効果が相対的なものにすぎないという点と,否認の要件は無効原因とは別であるという点から結論を導いてます。

ここからいくと,破産法上の制度である点も根拠に模していることから,当然には詐害行為取消権の行使ができるというところまでは導けないことになります。しかし,相対効のところを強めて読むと,詐害行為取消権の行使も許されることになる余地があるわけです。影響を与えた判断であるといえましょう。

また,原告は,会社分割ができる会社については制限がなく債務超過会社でもできると解されていることと債務者に変更がない債権者には会社分割の訴えの原告適格がないことから,債権者異議さえやっていれば,それらの債権者との関係ではすべからく会社分割できてしまうということを立方的に決断したのだという主張もしています。

これに対しては,以下のように述べています。

しかしながら、会社の不採算部門対策目的の会社分割や債務超過会社の会社分割が許容されるとしても、これらの場合に、当然に否認の要件を満たすといえるものではなく、新設分割の計画内容によって、否認の要件を充足する場合とそうでない場合があり得るものであるから、これらのことをもって、会社分割が直ちに破産法上の否認の対象とならないとはいえない。

(中略)

さらに、会社法が上記のような場合に債権者保護が不十分であることを許容した上、会社分割について、否認権等の行使を排斥する趣旨で立法されたと解する根拠は文理上何ら見当たらず、他に立法過程等において、そのような趣旨をうかがわせる資料もない(かえって、吸収分割について詐害行為取消しが許容されると考えられていたことがうかがわれる。証拠《略》)のであって、会社分割における債権者保護手続の存在をもって、会社分割について否認等の規定の適用を排斥する根拠とすることはできない。

ここもやはり問題となっているのは破産法上の否認であり,その要件を充足する場合はあるという点を指摘していますが,それだけではなく,会社分割について詐害行為取消しを認められるという見解が立方段階からあったことも言及して,手堅く根拠づけています。

しかし,ここで言及している,認められると考えられていた会社分割の詐害行為取消しは,個々の財産についての取り消しは許容されるという見解でしょう。包括的に会社分割を取り消してしまうことまで導けるかは微妙です。

この破産事件では個々の財産を戻せといったのではなく,財産相当額の償還でした。

したがって,根拠としては完璧というほどではなく,いかようにも展開する余地があるものと言わざるを得ない判決でした。しかし,その後は否認権行使の対象とすることを認めるだけではなく,詐害行為取消しの対象として会社分割そのものを取り消すことについても認めて,その判断には神作教授をはじめとして支持がかなりあるようです。

確かに債権者保護がとてつもなく薄い点が会社法では顕著ですので,この結論が妥当であることは明らかですが,詐害行為取消しをしてしまうのは理論的にはハレーションが大きいのではないかと思う点もあります。

相対効なので結論的には特段問題にならないでしょうが,詐害行為取消権がやや異質な存在であるために理論上はやりすぎ感がある様に思えます。

その点からの考慮なのかは定かではありませんが,裁判例によっては別の構成をしているものもあります。

この記事の続きとして,その別の構成について見てみようと思います。

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About Arakawa

サラリーマン経験のある弁護士兼社会保険労務士 このサイトでは、ビジネス関連の法律ニュースをもとにして私見をお送りするブログです。 ●筆者紹介 埼玉県立川越高校卒 東京大学法学部卒 東京大学大学院法学政治学研究科修士課程修了(法学修士) 専攻・国際私法、国際取引法、会社法 某企業で法務担当というよりむしろ労務担当 東大ロースクール修了 新司法試験合格 弁護士登録 現在,弁護士兼社会保険労務士です。