松江地裁,自治労共済で不正な契約があることを厚生労働省に通報した職員が自治労共済から解雇されたため,同職員が解雇の無効確認と未払賃金の支払いを求めた訴訟で,請求を認容


内部通報者はその後,勤務先から報復的に解雇されることがよくあります。

そのような事例で,解雇を無効と判断した判決が出ましたので,取り上げます。

内部通報者の解雇は無効 松江地裁 – MSN産経ニュース2011.2.2 19:04

地方自治体職員らでつくる全日本自治体労働者共済生活協同組合(自治労共済)で、自動車共済をめぐる不正な契約があったと厚生労働省に通報した自治労共済島根県支部職員、田中純一さん(58)が、解雇は不当として地位確認などを求めた訴訟の判決で、松江地裁は2日、解雇を無効と認め、県支部に未払い賃金の支払いを命じた。

判決理由で三島恭子裁判官は、田中さんが職場のパソコンから無断で情報を得たことを「内部通報のために取得する必要があった」と指摘。その上で「違反の是正はむしろ被告の利益」と述べた。

判決によると、田中さんは平成20年10月、自治労共済の全国15支部で本来は認められない生計が異なる別居親族にも共済加入を認めていたことなどを厚労省に通報。翌年8月、情報の不正取得を理由に解雇された。

 

以下の検討は,判決全文や本件の詳細な事実にあたっていませんので,限定的な情報からの検討に過ぎませんので事実と異なるかもしれませんのでご了承ください。

 

内部通報者を保護するために公益通報者保護法があり,解雇が規制されています。

しかし,これは対象と通報対象事実に限定があり,内部告発なら何でも保護の対象となるわけではありません。

公益通報者保護法の仕組みについては,以下の従前のエントリをご覧ください。

JAPAN LAW EXPRESS: 東京地裁、オリンパスが内部通報をした社員を配転したのを適法と判断

 

結論としては,本件は生活協同組合法に関連する問題だと思われますが,公益通報者保護法別表第八号の法律を定める政令には,消費生活協同組合法もあがってますので,公益通報者保護法の対象となる対象事実には該当すると思われます。

すると,解雇されたことは公益通報者保護法3条1項2号に照らして当然に無効に思われます。

公益通報者保護法

第3条(解雇の無効)
公益通報者が次の各号に掲げる場合においてそれぞれ当該各号に定める公益通報をしたことを理由として前条第一項第一号に掲げる事業者が行った解雇は、無効とする。
一 通報対象事実が生じ、又はまさに生じようとしていると思料する場合 当該労務提供先等に対する公益通報
二 通報対象事実が生じ、又はまさに生じようとしていると信ずるに足りる相当の理由がある場合 当該通報対象事実について処分又は勧告等をする権限を有する行政機関に対する公益通報
三 通報対象事実が生じ、又はまさに生じようとしていると信ずるに足りる相当の理由があり、かつ、次のいずれかに該当する場合 その者に対し当該通報対象事実を通報することがその発生又はこれによる被害の拡大を防止するために必要であると認められる者に対する公益通報
イ 前二号に定める公益通報をすれば解雇その他不利益な取扱いを受けると信ずるに足りる相当の理由がある場合
ロ 第一号に定める公益通報をすれば当該通報対象事実に係る証拠が隠滅され、偽造され、又は変造されるおそれがあると信ずるに足りる相当の理由がある場合
ハ 労務提供先から前二号に定める公益通報をしないことを正当な理由がなくて要求された場合
ニ 書面(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られる記録を含む。第九条において同じ。)により第一号に定める公益通報をした日から二十日を経過しても、当該通報対象事実について、当該労務提供先等から調査を行う旨の通知がない場合又は当該労務提供先等が正当な理由がなくて調査を行わない場合
ホ 個人の生命又は身体に危害が発生し、又は発生する急迫した危険があると信ずるに足りる相当の理由がある場合

しかし,本件では解雇の理由は,公益通報そのものではなく,職場のパソコンから無断で情報を得たとして,情報の不正取得を理由としての懲戒という構成をとっています。

したがって,公益通報者保護法に該当することを巧妙に避けているわけですが,それでも解雇は認められないと判断したわけです。

回避を認めず,公益通報者保護法に則って上記のような判断をしたのか,公益通報者保護法に該当しないことは認めたうえで,同法制定前から使われてきた枠組みにのって,懲戒の有効性および解雇権濫用法理の観点から検討したのかは,上記報道では不明です。この点は追って確認させていただきます。

公益通報保護法の適用が限定的であることについての懸念は以前からありましたが,実質的に公益通報を広く保護しようとする判断であるといえるかもと思われます。

裁判例情報

松江地裁平成23年2月2日判決

 

にほんブログ村 経営ブログ 法務・知財へ

About Arakawa

サラリーマン経験のある弁護士兼社会保険労務士 このサイトでは、ビジネス関連の法律ニュースをもとにして私見をお送りするブログです。 ●筆者紹介 埼玉県立川越高校卒 東京大学法学部卒 東京大学大学院法学政治学研究科修士課程修了(法学修士) 専攻・国際私法、国際取引法、会社法 某企業で法務担当というよりむしろ労務担当 東大ロースクール修了 新司法試験合格 弁護士登録 現在,弁護士兼社会保険労務士です。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA


次のHTML タグと属性が使えます: <a href="" title=""> <abbr title=""> <acronym title=""> <b> <blockquote cite=""> <cite> <code> <del datetime=""> <em> <i> <q cite=""> <strike> <strong>

post date*

日本語が含まれない投稿は無視されますのでご注意ください。(スパム対策)