最高裁,抵当権に劣後する不動産賃借権者が,賃借権の時効取得が可能な期間にわたり当該不動産を用益しても,競売または公売で当該不動産の所有権を取得した者に賃借権の時効取得を対抗できないと判示


基本的な民法の知識として,賃借権の時効取得は可能です(民法163条)。

また,不動産物権変動に関する判例知識として,第三者が登記を具備してしまい劣後するものでも,時効取得に要する期間の占有をして所有権を時効取得をした場合には,登記を具備しなくてもその所有権を対抗できます(最判昭和36年7月20日・民集15巻7号1903頁)。

これらの理論と,さらに自己のものでも時効取得が可能であるという判例知識をを組み合わせると,対抗力のない賃貸借でも時効取得して対抗できるようになるということも考えられないではありません。

賃借権が抵当権に劣後していた場合について,これが問題となり,公売により所有権を取得した者に賃借権が対抗できるかが争われた事件で最高裁判決が出ました。

最高裁判所第二小法廷平成23年01月21日判決 平成21(受)729 建物収去土地明渡等請求事件

最高裁は,抵当権設定登記後に時効取得できるだけの期間の用益をしても,抵当権を消滅させる競売または公売によって所有権を取得した者に対して賃借権を対抗できないとしました。

その理由として,以下のように述べています。

抵当権の目的不動産につき賃借権を有する者は,当該抵当権の設定登記に先立って対抗要件を具備しなければ,当該抵当権を消滅させる競売や公売により目的不動産を買い受けた者に対し,賃借権を対抗することができないのが原則である。このことは,抵当権の設定登記後にその目的不動産について賃借権を時効により取得した者があったとしても,異なるところはないというべきである。

このいうところは,つきつめると所有権と賃借権は両立する権利であり,上記昭和36年判例は所有権同士の問題であり,相容れないからこそ導かれた特殊な判断であるというところにあります。この点について最高裁は以下のように述べています。

所論引用の上記判例は,不動産の取得の登記をした者と上記登記後に当該不動産を時効取得に要する期間占有を継続した者との間における相容れない権利の得喪にかかわるものであり,そのような関係にない抵当権者と賃借権者との間の関係に係る本件とは事案を異にする。

平成11年の大法廷判決はありましたが,抵当権の原則は使用収益を許すものである点は変わっていません。したがって,劣後する賃貸借でも最判平成17年3月10日・民集59巻2号356頁のような濫用的なものでない限り,実行時までは阻止できるわけではありません。この抵当権の本来のあり方を守っているだけで抵当権で把握している価値を毀損してしまうようなことはおかしいですから,上記のような判断は当然の帰結といえると思います。

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About Arakawa

サラリーマン経験のある弁護士兼社会保険労務士 このサイトでは、ビジネス関連の法律ニュースをもとにして私見をお送りするブログです。 ●筆者紹介 埼玉県立川越高校卒 東京大学法学部卒 東京大学大学院法学政治学研究科修士課程修了(法学修士) 専攻・国際私法、国際取引法、会社法 某企業で法務担当というよりむしろ労務担当 東大ロースクール修了 新司法試験合格 弁護士登録 現在,弁護士兼社会保険労務士です。

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  1. 【★最判平23・1・21:建物収去土地明渡等請求事件/平21(受)729】結果:棄却

    要旨(by裁判所): 不動産の賃借権者が対抗要件を具備しない間に抵当権設定登記がされた場合,同賃借権者は,同登記後に賃借権の時効取得に必要な期間当該不動産を用益したとしても,競売又は公売による買受人に賃借権の時効取得を対抗できない http://www.courts.go.jp/han…

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