最高裁,公共工事の請負で順次発注が行われ数社が介在した場合に受注者に対する請負代金の支払いについて,発注者が元請からの支払いを受けてから支払う旨を合意したとしても,停止条件を定めたものとはいえず発注者が請負代金の支払いを受けられないことが確定した時点で期限が到来すると判示


取り上げようと思っているうちに,忘れてしまい1ヶ月以上たっていますが,請負について興味深い判示を行った最高裁判決を取り上げます。

この事件は,小法廷は異なりますが,先日取り上げた以下の判例とよく似ている点があります。

最高裁、請負契約で目的物がリース会社に転売されることが予定されており、リース契約が締結された後に請負代金の支払いがされる約定があっても、リース契約の締結は請負契約の停止条件ではなく、リース契約が締結されないことになった時点で支払期限が到来すると判示

 

最高裁判所第一小法廷平成22年10月14日判決 平成21(受)976 請負代金請求事件

この事件も請負ですが,上記従前の事件と異なるのは,公共工事であり,色々な会社が恩恵にあずかろうとして何社も介在して最終的に上告人Xが被上告人Yから受注したところ,途中に介在した会社が倒産してしまいYが請負の報酬を受け取ることができず,Xへも支払えなくなったということで事件になったものです。

下請けは親亀小亀とか言われますがこれは所有権の帰属に関する議論であり,報酬に関しては関係なく,親亀で報酬が支払われなくても小亀の間では報酬が支払われるべきなのは当然のことです。

しかし,本件では,各請負契約には発注者が報酬の支払いを受けたら,受注者に報酬を支払うという入金リンク条項という名前の規定が盛り込まれており,川上から金が入ってこない限り,川下へは報酬が行かないことをすべての請負契約で定めていました。

これは途中に介在した会社がリスクを負わないようにするための工夫ということなので,実際に機械を製造して納入した実質的な請負人が一切支払いを受けられないという事態になってしまいました。

このような規定を,川上から支払いを受けたことを停止条件とするものだと解したのが原審で,上記従前の判決では,リース契約が締結されることを停止条件とすることを原審は同じように停止条件と解していました。

しかし,それを合理的意思ではないとして,締結されないことが確定したら,期限が直ちに到来すると意思解釈を行って,下請けを救済したのが上記従前の判例でした。

しかし,本件では,それだけではすみそうもない事情がありました。それは,Yは自分から見て川上に介在していた会社から,入金リンク条項について,以下のような説明を受けていました。

Cは,平成16年9月以降,被上告人に対し,受注先からの入金がなければ発注先に請負代金の支払はしない旨の入金リンクという特約を付するから被上告人にリスクはないとの説明をして,本件機器の製造等を受注して他社に発注することを打診した。被上告人は,帳簿上の売上高を伸ばし,山梨県の行う経営事項審査の点数を増加させて,公共団体等から大規模な工事を受注する可能性を増大させることなどを目的として,本件機器の製造等を受注することにした。

そこで原審はYは以下のように認識していたと認定しました。

被上告人は,Cからの説明により,本件入金リンク条項につき,本件機器の製造等に係る請負代金の支払を受けなければ,上告人に対して本件代金の支払をしなくてもよいという趣旨のものととらえていた。

 

契約の一方当事者がこのような認識であったとすると,経済合理的に,自分が報酬をもらえなくなりかねない合意をすることはおかしいということで意思解釈に介入する上記従前の判例の手法には無理がありそうに思えます。Xの側では期限に過ぎないと思っていても,Yの側では上記のように認識しているわけですから,意思表示の合致がないことになりかねないからです。

しかし,最高裁は,上記判例と同じ結論を導きました。

上告人と被上告人とが,本件請負契約の締結に際して,本件入金リンク条項のある注文書と請書とを取り交わし,被上告人が本件機器の製造等に係る請負代金の支払を受けた後に上告人に対して本件代金を支払う旨を合意したとしても,有償双務契約である本件請負契約の性質に即して,当事者の意思を合理的に解釈すれば,本件代金の支払につき,被上告人が上記支払を受けることを停止条件とする旨を定めたものとはいえず,本件請負契約においては,被上告人が上記請負代金の支払を受けたときは,その時点で本件代金の支払期限が到来すること,また,被上告人が上記支払を受ける見込みがなくなったときは,その時点で本件代金の支払期限が到来することが合意されたものと解するのが相当である。

上記のYの認識については以下のように付言しています。

被上告人が,本件入金リンク条項につき,本件機器の製造等に係る請負代金の支払を受けなければ,上告人に対して本件代金の支払をしなくてもよいという趣旨のものととらえていたことは,上記判断を左右するものではない。

こう断言されるだけと理由がよくわからないところですが,上記判示の前の部分で最高裁は,本件契約の特長について長く判示をしており,その点にこの結論を正当化する根拠がありそうです。

最高裁は,本件契約が要するに公共工事であることを重視しています。

特に,本件請負契約は,代金額が3億1500万円と高額であるところ,一部事務組合である東部地域広域水道企業団を発注者とする公共事業に係るものであって,浄水場内の監視設備工事の発注者である同企業団からの請負代金の支払は確実であったことからすれば,上告人と被上告人との間においては,同工事の請負人であるAから同工事の一部をなす本件機器の製造等を順次請け負った各下請負人に対する請負代金の支払も順次確実に行われることを予定して,本件請負契約が締結されたものとみるのが相当

(略)

よって,Yは抽象的には入金リンク条項の性質について認識があったかもしれないが,本件が公共工事であるために請負代金がまわってこないことは想定していなかったので,意思表示の合致はあるということでしょう。

この考えはかなり苦しい感じがしないでもないですが,もっとも大きな視点から考えると,中間に入った会社は何のリスクもなく介在することができて,うまくいった場合にだけ恩恵に預かれることになってしまい,妥当ではないということは伺われます。その点まで含めると妥当性のある判断ということができるかもしれませ

About Arakawa

サラリーマン経験のある弁護士兼社会保険労務士 このサイトでは、ビジネス関連の法律ニュースをもとにして私見をお送りするブログです。 ●筆者紹介 埼玉県立川越高校卒 東京大学法学部卒 東京大学大学院法学政治学研究科修士課程修了(法学修士) 専攻・国際私法、国際取引法、会社法 某企業で法務担当というよりむしろ労務担当 東大ロースクール修了 新司法試験合格 弁護士登録 現在,弁護士兼社会保険労務士です。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA


次のHTML タグと属性が使えます: <a href="" title=""> <abbr title=""> <acronym title=""> <b> <blockquote cite=""> <cite> <code> <del datetime=""> <em> <i> <q cite=""> <strike> <strong>

post date*

日本語が含まれない投稿は無視されますのでご注意ください。(スパム対策)