元役員に対して、在任中に任務懈怠があり会社が損害を被ったとして損害賠償請求訴訟を提起する例がありますが、和解で終結した事例がありましたので取り上げます。
JASDAQ上場のストライダーズが、元代表取締役が行った貸付で回収不能になったのですが、代表取締役が貸付の際、危険性について検討をしていなかったとして、その行為が善管注意義務、忠実義務に違反するとして、被った損失額である2億7700万円を損害賠償請求した訴訟で、訴訟上の和解が成立したことが明らかになりました。
ところが和解の内容にはやや気になる点があります。
和解の内容は、被告は、2億7700万円の損害賠償責任を認めるものの、1000万円を和解金と支払うことで同社は損害賠償債務を免除するというものです。
これだと会社法423条1項の責任について2億7700万円が存在することになりそうです。すると会社が取締役の任務懈怠による損害賠償責任があることになりそうで、本件和解は、会社が責任の一部免除をすることになりそうです。
よって取締役会決議による一部免除ということになりそうですが、本件では軽過失に過ぎないのか、定款に免除してよい規定があるのか、あるとしてもその旨の取締役会決議をしているのか不明ですし、責任限度額を計算した結果、1000万円まで免除していいのかが不明ということになりそうです。
第426条(取締役等による免除に関する定款の定め)
第四百二十四条の規定にかかわらず、監査役設置会社(取締役が二人以上ある場合に限る。)又は委員会設置会社は、第四百二十三条第一項の責任について、当該役員等が職務を行うにつき善意でかつ重大な過失がない場合において、責任の原因となった事実の内容、当該役員等の職務の執行の状況その他の事情を勘案して特に必要と認めるときは、前条第一項の規定により免除することができる額を限度として取締役(当該責任を負う取締役を除く。)の過半数の同意(取締役会設置会社にあっては、取締役会の決議)によって免除することができる旨を定款で定めることができる。
2 前条第三項の規定は、定款を変更して前項の規定による定款の定め(取締役(監査委員であるものを除く。)及び執行役の責任を免除することができる旨の定めに限る。)を設ける議案を株主総会に提出する場合、同項の規定による定款の定めに基づく責任の免除(取締役(監査委員であるものを除く。)及び執行役の責任の免除に限る。)についての取締役の同意を得る場合及び当該責任の免除に関する議案を取締役会に提出する場合について準用する。
3 第一項の規定による定款の定めに基づいて役員等の責任を免除する旨の同意(取締役会設置会社にあっては、取締役会の決議)を行ったときは、取締役は、遅滞なく、前条第二項各号に掲げる事項及び責任を免除することに異議がある場合には一定の期間内に当該異議を述べるべき旨を公告し、又は株主に通知しなければならない。ただし、当該期間は、一箇月を下ることができない。
4 公開会社でない株式会社における前項の規定の適用については、同項中「公告し、又は株主に通知し」とあるのは、「株主に通知し」とする。
5 総株主(第三項の責任を負う役員等であるものを除く。)の議決権の百分の三(これを下回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合)以上の議決権を有する株主が同項の期間内に同項の異議を述べたときは、株式会社は、第一項の規定による定款の定めに基づく免除をしてはならない。
6 前条第四項及び第五項の規定は、第一項の規定による定款の定めに基づき責任を免除した場合について準用する。
和解の条項をすべて合算して、1000万円の賠償責任が実体的に存在するのだと考えることもできないわけではないのかもしれませんが、まるで免除しているかのような和解条項であり、何だか不可解な感じを受けます。
仮に、免除に関する問題は生じないにしても、和解でひとまず合意した2億7700万円あるはずの債権を1000万円にまで免除してしまう判断が、現経営陣の判断として妥当なのかについての事実はあまり開示されているとは言えず、現経営陣の任務懈怠という点でも不透明な印象を与えかねません。
全体的に、どういう理由でこういう構成にしたのかいささかなぞなのですが、いささか疑義を生みかねない和解の内容であるように思われます。