JASDAQ上場のジャルコの元代表取締役が同社に対して退職慰労金を請求する訴訟を提起したことが同社から公表されました。
原告である元代表取締役の退職慰労金について、同社は、平成18年の定時株主総会決議で取締役会に一任を取り付けており、同社は業績を理由として、現在まで支給出来ていない模様です。
同社取締役会と退職した取締役との間では退職慰労金の額をめぐり話し合いをしてきたとされており、多分内規があるでしょうからそれを下回る額の支給で合意できないかを交渉してきたものの全額の支給を求める元代表取締役が、平成22年になった現在になっても支給がされないことからついに訴訟提起に踏み切ったという事情のようです。
内規についての事実は特に開示されていないのですが、普通ありますし、元代表取締役が「全額」の請求を求めているとされているほか、同社は退職慰労金を引き当てているとのことですので、算定基準はすでに存在していると考えました。
さて、以上の事情からいくと、本件では取締役会に一任する決議があるだけで、取締役会では具体的金額を決議していないという状況であるようです。
このような状況下で、退職慰労金を請求することは出来るでしょうか。
退職慰労金は、報酬の後払いである限りでは報酬に入り、会社法の報酬規制を受けますが、普通の役員報酬とは異なり、株主総会で算定基準だけ決議すればよく、総額の決議が必要ではありません。
第361条(取締役の報酬等)
取締役の報酬、賞与その他の職務執行の対価として株式会社から受ける財産上の利益(以下この章において「報酬等」という。)についての次に掲げる事項は、定款に当該事項を定めていないときは、株主総会の決議によって定める。
一 報酬等のうち額が確定しているものについては、その額
二 報酬等のうち額が確定していないものについては、その具体的な算定方法
三 報酬等のうち金銭でないものについては、その具体的な内容
2 前項第二号又は第三号に掲げる事項を定め、又はこれを改定する議案を株主総会に提出した取締役は、当該株主総会において、当該事項を相当とする理由を説明しなければならない。
よって内規のあるような会社では、基準の範囲内で相当な額について取締役会に一任するというような扱いで足りることになります。
よって、具体的な金額が取締役会で決議されて始めて債権が発生するという点は普通の役員報酬と同じですが、総額の決議すら不要であることから、内規や従来の慣行があったとしても、取締役会決議で具体的金額の決議があってはじめて権利が発生するということがより妥当することになります。
内規がある会社で取締役会に一任する決議をした事例で取締役会決議がない限り、具体的権利は発生しないとした裁判例もあります。
ここから考えると、本件請求は認められないことになりそうですが、一方で退任してからかなりの年月がたちつつあるという事実があり、これをどう考えるかという問題があります。
具体的請求権は発生しないという立場は動かしがたいと思われますが、内規がありそれに従った支給をこれまではきちんとしてきたという事実があるなら、平成18年からこれまでの間、一切支給がされないということが期待権侵害を構成するということはあるかもしれません。
具体的事実に照らすと、興味深い問題を含む事例であるように思われます。