神戸地裁、川崎重工業神戸工場グループ長の男性が自殺したことについて、遺族が労災の遺族補償給付金等不支給決定の取り消しを求めた訴訟で、当時の男性の立場において業務上のストレスは相当強度であったとして、不支給決定を取り消し


労災保険制度に、業務災害に対する保険給付があります。

業務災害とは、業務上の負傷、疾病、死亡などを意味します。

業務上の疾病については、労働基準法75条2項から労働基準法施行規則で列挙がされています。列挙されていないものについても、バスケット条項があり、業務上の疾病であると認められる余地があります。

労働基準法

第75条(療養補償)

労働者が業務上負傷し、又は疾病にかかつた場合においては、使用者は、その費用で必要な療養を行い、又は必要な療養の費用を負担しなければならない。

②前項に規定する業務上の疾病及び療養の範囲は、厚生労働省令で定める。

労働基準法施行規則

第35条〔業務上の疾病〕

法第七十五条第二項の規定による業務上の疾病は、別表第一の二に掲げる疾病とする。

別表第一の二(第三十五条関係)

(略)

九 人の生命にかかわる事故への遭遇その他心理的に過度の負担を与える事象を伴う業務による精神及び行動の障害又はこれに付随する疾病

十一 その他業務に起因することの明らかな疾病

最近は、心の病がやはり重大になってきており、関連する裁判例が出ましたので取り上げます。

自殺の川崎重工業部長級、労災認定…高い役職でストレス : ニュース : 関西発 : YOMIURI ONLINE(読売新聞)(2010年9月4日  読売新聞)

川崎重工業(神戸市)のグループ長(部長級)として大規模プロジェクトなどを任されていた男性(当時55歳)がうつ病を発症して自殺したのは、仕事上の重圧が原因として、60歳代の妻が国を相手に労災認定を求めた訴訟の判決が3日、神戸地裁であった。矢尾和子裁判長は「業務上のストレスは相当強度だった」として、遺族補償年金などを不払いとした国の処分を取り消した。

(略)

判決によると、男性は1998年に輸送システム関係のグループ長に就任し、韓国での鉄道システム(450億円規模)の請負を目指すプロジェクトを任されるなどしていた。さらに年間受注額として20億~80億円を目標とされたが、全く受注できず、2000年12月、うつ病と診断された。

鉄道システムの交渉も破談になり、02年3月の経営会議に出席した際、「(グループが)金食い虫になっている」と言われるなどし、同年5月、自宅で自殺した。

矢尾裁判長は判決で「ランクの高いポストに就き、業績を期待されていた。失敗すれば、自らの存在価値が問われかねず心理的負荷が強まった」と指摘した。

(略)

11号による業務起因性の判断では、時間外労働の時間が長いことなどを重視して判断することが常です。長時間の労働を続けていたという事実があると、それによって疾患になるということが経験則的にいえるからです。

この労働の客観的側面に注目するというのは、バスケット条項以外に列挙されている疾病についても同じように妥当するものがあります。

その一つが、9号の精神障害でして、精神障害の結果、自殺した場合には、原則的には故意であるために業務起因性がないのですが、バスケット条項の業務起因性の判断をすることで業務上の疾病と認定されることがあります。

この点については、行政上の判断基準のようなものがあり、そこには様々な要素を考慮することが示されています。

参考 精神障害等の労災認定について

ただし、上記リンク先からもわかるように、主体的な側面の考慮はやや従といった感じがあります。そのため不支給という判断が労基署ではなされたのだと考えられます。

本件では、労働時間に着目するとそれほど顕著なものはないらしいのですが、仕事の内容が新規開拓のようなもので非常に難しいという事実を重視して、うつ病になりそのため自殺したことへの業務起因性を肯定している模様です。

業務の内容が特徴的であることとからこのような判断がなされているものと思われます。心の病であるなら労働時間など客観的側面だけではなく、業務の困難さも疾病につながるということは経験則的に肯定できるように思われます。

裁判例情報

神戸地裁平成22年9月3日判決

追加訂正

労働基準法施行規則の改正により業務上疾病に精神障害が追加されているのをフォローしておりませんでした。

訂正してしまいましたが従前の記載は、改正前の旧9号の業務起因性の問題として扱った場合の検討でした。本件は判決全文を確認しておりませんが、本件は改正による9号の問題として扱っている可能性もあり、どちらの論点になっているか定かではありません。

本年5月に施行規則が改正されたので、本件がどうなっているのかはわからないのですが、現状の法規に照らしての検討のほうが適切であろうと思い、現9号の精神障害と労災認定についての行政の解釈などの一般論を踏まえて上記のように内容を訂正させていただきます。

まだ判決全文を確認できておりませんので、これでも確実とはいえません。追って変更すべき内容がありましたらさらに訂正させていただきます。

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About Arakawa

サラリーマン経験のある弁護士兼社会保険労務士 このサイトでは、ビジネス関連の法律ニュースをもとにして私見をお送りするブログです。 ●筆者紹介 埼玉県立川越高校卒 東京大学法学部卒 東京大学大学院法学政治学研究科修士課程修了(法学修士) 専攻・国際私法、国際取引法、会社法 某企業で法務担当というよりむしろ労務担当 東大ロースクール修了 新司法試験合格 弁護士登録 現在,弁護士兼社会保険労務士です。

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