ケイエッチ、2箇所の工場の労働者全員を解雇予告から1日で解雇


期限のない労働契約で労働者を解雇するということは、使用者からの雇用契約の解約ということになります。

民法の原則からは、雇用契約の解約には二週間前に予告をする必要があります(ここの事情において解雇を有効にできるかというのは別途重大な問題なのですが、できるとした場合の手続き的な規制についての話です)。

民法

第627条(期間の定めのない雇用の解約の申入れ)

当事者が雇用の期間を定めなかったときは、各当事者は、いつでも解約の申入れをすることができる。この場合において、雇用は、解約の申入れの日から二週間を経過することによって終了する。

2 期間によって報酬を定めた場合には、解約の申入れは、次期以後についてすることができる。ただし、その解約の申入れは、当期の前半にしなければならない。

3 六箇月以上の期間によって報酬を定めた場合には、前項の解約の申入れは、三箇月前にしなければならない。

しかし、この民法の原則は、使用者からの解約である解雇の場合についてのみ労働基準法で修正されています。

第20条(解雇の予告)

使用者は、労働者を解雇しようとする場合においては、少くとも三十日前にその予告をしなければならない三十日前に予告をしない使用者は、三十日分以上の平均賃金を支払わなければならない。但し、天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となつた場合又は労働者の責に帰すべき事由に基いて解雇する場合においては、この限りでない。

②前項の予告の日数は、一日について平均賃金を支払つた場合においては、その日数を短縮することができる。

③前条第二項の規定は、第一項但書の場合にこれを準用する。

上記のように、30日前の解雇予告が必要であり、それをしないなら30日分の賃金の支払いが必要になります。

要するに30日分の賃金相当額は労働者に支払いなさいという規律になっています。

しかし、会社の経営状況が良くなくなってくると、それどころではなくなることが現実です。

そのような現実が表出した事象が報道されました。

2工場の全従業員240人、予告から1日で解雇 : 社会 : YOMIURI ONLINE(読売新聞)(2010年8月12日14時15分  読売新聞)

繊維加工業の「ケイエッチ」(本社・東京)が、7月末で山形県鶴岡市内の2工場を操業停止とし、計240人の従業員全員を解雇していたことが11日わかった。

鶴岡公共職業安定所によると、従業員が解雇予告されたのは7月30日で、同31日付で解雇された。労働基準法は、解雇予告から実際の解雇までの期間が30日未満の場合、解雇予告手当の支払いを定めており、今回は平均賃金のほぼ1か月分に相当するが、10日現在、すべて未払いという。

庄内労働基準監督署は、現状が改善されない場合、同社を労働基準法違反(解雇予告手当の不払い)の疑いで行政指導する方針。

同安定所によると、同社の工場は、鶴岡市日出と西荒屋の2か所にあり、女性服の縫製などを行っていた。福島県相馬市の工場も閉鎖し、150人の従業員を解雇したという。

(略)

報道によると、ケイエッチのした解雇は、労働法の観点から言うと、解雇予告義務に違反する解雇ということになります。

上記に引用した労働基準法20条の規定は一件明確ですが、予告義務に反した場合どうなるかについては実は複雑な対立があります。

法律に反したのだから解雇は無効だとしてしまえばいいように思えるのですが、20条に違反した場合の効果について114条に付加金の支払いが定められており、解雇自体は有効と解していることが伺われるからです。また現実的にも、本来ならば30日たてば有効になるはずなのに一律に無効にするのも過敏な反応であり現実を無視することになりかねません。

そこで判例は、相対的無効説という立場を取っています。これは使用者が即時の解雇にこだわるのではない限り、30日後に効力が生じるというものであり、要するに金銭的には解雇予告義務の効果と同じ状況を生むようにしようというものです。

これは結論のバランスを考えて採用された立場だと思われるのですが、使用者の内心でころころ変わるのは良く考えると変です。

また30日後に効力が生じるということはそれまでは労働契約関係にあることになり、賃金をもらうには労務の提供をしないといけません。よって30日分の賃金相当額は得られるのでよしとされているはずの結論なのですが、その実現はそう簡単ではないことになります。いきなり解雇だといわれて争いになっているのに30日間労務の提供をしないといけないのはいかにも変な感じがあります。

よって、裁判例では、この判例の理論からは導けませんが、端的に30日分の賃金相当額の支払い請求を認めてしまうような判断をしています。

よって、裁判例の立場からいくと、本件のような場合、使用者に直接、解雇予告手当て相当額の支払いを請求できるということになるわけです。しかし、会社が傾いているので現実的にはそれどころではなくなることがあるのは周知のとおりです。

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About Arakawa

サラリーマン経験のある弁護士兼社会保険労務士 このサイトでは、ビジネス関連の法律ニュースをもとにして私見をお送りするブログです。 ●筆者紹介 埼玉県立川越高校卒 東京大学法学部卒 東京大学大学院法学政治学研究科修士課程修了(法学修士) 専攻・国際私法、国際取引法、会社法 某企業で法務担当というよりむしろ労務担当 東大ロースクール修了 新司法試験合格 弁護士登録 現在,弁護士兼社会保険労務士です。

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